第5話 名前の無い
「なんか、告白みたいやね…じわじわ恥ずかしくなってきた」
と、きょろきょろと視線を彷徨わせる。
「言う前に思わなかったの…」
「…全く。あの、あれ、口で喋ってた」
「そう…」
急に恒誠が分からなくなる。こんな突拍子もなく好きだの何だの言う人だっただろうか。ちょいちょい良いこと言うなと感心していたら、これだ。まじまじと正面にいるその人を見る。ニキビひとつない頬を照れ臭そうに人差し指で掻いている。
そもそも恒誠だけではなく、私たちは、私たちの関係は何なんだろう。友達、なんだろうか。男女の友情論争があるが、はたして。というか、私は恒誠を男性であることを前提に関係を築いているんだろうか。
「俺たちって何だろうな。好き同士?やけど付き合ってはないし、友達なん?」
告白という言葉から同じことを考えていたのか、恒誠がモゴモゴと言う。
「でも、友達にもこんなに話さんよ」
「私も。何なら家族にもしないよ」
「俺らって何? 友達、家族を超えた関係…」
「…もういっそのこと、ラベリングしなくて良いんじゃない?」
「え?」
「私、そういうの結構気に入っててさ。言語化に時間がかかる人間だからかもしれないけど」
恒誠が頷いて続きを促す。
「だいぶ親密だと私は思ってる。そりゃあ友達以上に。で、恋人かと言われれば違う。終わる日が来ないと思うから、というか、何か始まりの約束を結んだ気がしない…」
「それは、俺も」
「だから、何でもないっていうのが正解かと」
「うん。賛成に一票」
「じゃ、満場一致で…決定しないということで」
「はーい」
***
家路をたどりながら会話を反芻する。まだ瞼の裏に恒誠のとろりとした光を放つまっすぐな目が焼き付いている。恒誠ってあんなに目が茶色だったのか、と別のことを考えてみる。また会うために、話すために、人生を続けてみても良いな、と思った。失くしても、またと出会えない人だと思う。久々に会ったのに、まるで卒業してからの4年がなかったかのように関係が続いていた。needか。小学生の時点でそう思っていたんだ。しかも今も変わりない。おどけてでも「今も好きだよ」と返せばよかったか。まあ死なない限り、またいつでも言える。好き以外のより近い言葉に出会えたらそれを言えばいい。
私は一人じゃない。
置いていかずに側を歩いてくれる人がいる。
それを知れただけで、絶望が遠のいていく気がする。
「よし、明日も生きてみよう」
晴れやかな気持ちで眠りについた。
青春モラトリアム 由比 瑛 @motomushi
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