イエティ
栃木妖怪研究所
第1話 イエティ
子供の頃、小中学向けの月刊誌に雪男の頭の皮だという写真が掲載されました。
日本にもヒバゴンという猿人がいるらしい。という特集が組まれ、学校では、直ぐにその話題で持ちきりとなりました。
「アメリカではビッグフットと言うのだ。」とか、
「ネイティブ・アメリカンだとサスカッチと言うらしい。」とか、
「頭皮が見つかったのはヒマラヤだから、イエティの頭皮だ。」とか、にわか雪男博士が何人も出てきました。
今ではUMAと言われますが、その時代にはそんな言葉はなく、ネッシーやツチノコや未確認の人類の話等が流行しました。
テレビでも、「水曜スペシャル」という番組で「川口浩探検隊」が大人気となり、世界の秘境で、未確認の動物や人類を探すという番組をドキドキしながら見ておりました。
中学一年の夏休みでした。仲のいい友達と二人で、
「未確認生物を探そう。」と言う話になりました。そんな簡単に、しかも家の近くに居たら未確認である可能性がほぼないのですが、「未確認の虫でも見つけたら凄いんじゃないか?」と、わくわくして、昆虫図鑑や植物、キノコ図鑑を自転車に乗せて、近所の森に出かけました。
いつものように蚊や山蛭の攻撃を受けつつ、「これは見た事がないぞ!」とか、
「これは絶対新種だ!」等と言いつつ調べると、ほぼ全て図鑑に載っています。
もっと人里離れた山奥へ。と思っても、元々普通の農村ですから、山奥に行ける筈もなく、森をどんどん奥に入っても、結局反対側の人家や耕作地に出てしまうだけで、秘境でも何でもないのですが。
それでも何かあるのではないか。と、結構真剣に森を彷徨っておりました。
もう隣町になるか。という程の、時間にして2時間程経ったでしょうか。午前中から来ていましたが太陽は真上になっておりました。
森の中の木漏れ日とはいえ、物凄い暑さです。水筒も弁当も持たずに来たので、二人とも空腹と渇きでぐったりして来ました。
「なあ、帰ろうぜ。」と、私が言いますと、友達も、
「そうだなぁ。なかなか未確認動物っていないなあ。」と、同意し、森の外に停めた自転車まで戻って来ました。
当時は、まだコンビニ店等なかった時代です。
「駄菓子屋か食料品店でラムネでも買おう。」などと話しながら、自転車で獣道の様な林道を走っておりましたら、急に開けた土地に出ました。
森の木が、半径50メートル位の円形に綺麗に無くなっており、その真ん中に白いペンキを塗った、この辺では見かけない洋風の木造平屋の家が建っておりました。
「あれ?誰かの敷地に入っちゃったな。ここを通るのはまずいな。」
「引き返すか。」と話しながら、
「変わった家だなあ。」とお互いに思ったのか、直ぐに引き返さず、その珍しい家を見ておりました。
家の脇にデッキがある様です。家もデッキも屋根も窓枠も全て白一色で塗られております。
よく見ると、デッキの上に、大人の男性が寝転がっております。何故男性と思ったのかは分かりませんが、何故かその時は男性だと思いました。
白い家でしたので、真っ黒に見えました。まるでイエティが寝ている様でした。
「家の人かな。断って通して貰おうか。」と、友達に話すと、寝ていた人が動いた様に思いました。
「すみません。森を抜けて来たんですが、ここ通して頂いていいですか?」と、私が声をかけますと、また動きます。
ただ起き上がってくる感じではないので、自転車を推して友達とその寝ている人に近づきました。
近づいても顔がどっちを向いているのか分かりませんし返事もありません。
もっと近づいてドキッとしました。
動いて見えたのは、身体が動いたのではなく、身体全体がごちゃごちゃ動いていたのです。人の形に群がった大量の黒い昆虫の塊だったのです。
「うわ!」と私が後退ったのですが、友達は、
「何だ?これ?」と言って、落ちていた木の枝で、その人型の物を突きました。途端に、黒い虫がまるで煙の様に一斉に飛び立ちました。
飛び立った跡には何もありませんでした。
その家にも誰も居る気配はなく、その場を通り抜けるのは、とても憚られたので、元の林道を戻り帰宅しました。
その後、その時の友達と、何度もその家を探したのですが、二度と見つける事は出来ませんでした。 了
イエティ 栃木妖怪研究所 @youkailabo
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