引き出し妖精ノアラ
加賀倉 創作【書く精】
引き出し妖精ノアラ
——広く黒い宇宙で。
神は、こう言った。
「ノアラよ、あの青い星の
「はい、カミサマ!」
神に仕えし妖精ノアラは、元気良く返事した。彼女は、背に生えた四枚の翼を懸命に羽ばたかせて、その豆粒ほどに小さな体を、宙に保っている。
「
「まかせて、カミサマ!」
ノアラは、また元気良く返事して、青い星の空へ向かった。
◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯
ノアラは、神の指示通り、空、を拠点とした。
空には、たくさんの、雲、がプカプカと浮かんでおり、その上に、一生かけても引き出しきれないほどの数の引き出したちが、果てしなく立ち並んでいる。
「わぁ! カミサマのいったとおり、ひきだしがたぁくさん!」
ノアラは、全て違いがまるでわからない見た目をした引き出したちの前を、行ったり、来たりして、見比べてみる。
「うぅん、まよっちゃうなぁ…………じゃーあ、きょうはこれっ!」
ノアラはそう言って、引き出しを開ける。
中からは……
『虚構』が現れた。
ノアラは、それを一目見て、首をかしげる。
「なぁに? これ」
それを掴み上げ……
「まぁいいや、とにかくカミサマがいうには、このほしのいきものたちに、あたえればいいんでしょう? えいっ!」
ノアラは、雲の上から、『虚構』を投げ落とした。
「どうなるかさっぱりわからないけれど、なんだかたのしみっ!」
ノアラは、待った。
時は流れ……
ノアラが、空から地上を見下ろす。
「ええっと、あれは、じんるい、というやつね! てに、なにかぱらぱらとしたものの
ノアラは羽ばたき、地上に降りた。
人類が持っているものは……
小説、だった。
「へぇ、それは、しょうせつ、というのね! まえにわたしがあたえた、きょこう、をつかって、ほんとうにはない
ノアラは、自分が人類に与えた『虚構』が役に立ったと知り、得意げだ。
「よぉし、つぎ、いってみよう!」
ノアラは羽ばたき、空へ戻った。
ノアラは、次の引き出し候補を、じっくりと考える。
「うーん、うーん。えーっと……じゃあ、これっ!」
引き出しが開くと……
『ハーバーボッシュ法』が出てきた。
「はぁばぁぼっしゅ? なぁに? それ。まぁいいや、よくわからないけど、あたえてみようっと。えいっ!」
ノアラは空から『ハーバーボッシュ法』を投げ落とした。
そう月日が経たないうちに……
「くんくん……あ! あちこちから、なにかおいしそうなかおりがするわ! きになるわね…………みにいってみようっと!」
ノアラは羽ばたき、地上に急降下した。
香りの正体は……
たくさんのパン、だった。
「まぁ! じんるいったら、はぁばぁぼっしゅをつかって、くうきから、
ノアラは、パンの山に興奮する。
しかしあっという間に……
パンは消え去り、
代わりに人類が増えた。
「あれ?
ノアラは不安げな表情をしている。
そして人類は……
殺し合いを始めた。
ノアラは、思わず目を背ける。
「きゃあ! なんて、やばんなの! ここにいたら、わたしもまきこまれちゃいそう!」
ノアラは羽ばたき、空へ逃げ戻った。
ノアラは雲の上で、
「どうしましょ! どうしましょ! どうにかして、はやくけんかをやめさせないと!」
アワアワと、困り果てている。
「こうなったら
ノアラが、手近にあった引き出しを開けると……
『原子力』が出てきた。
「げんしりょく? またまた、よくわからないものねぇ。でもものはためしよ! そーれっ!」
ノアラは空から、『原子力』を投げ捨てた。
数日後には……
「なぁに? あの、あおくて、しんぴてきなひかりは!」
ノアラは、吸い寄せられるようにして、地上へ飛んだ。
光の正体は……
巨大なエネルギー、だった。
「とてつもないちからをかんじるわね……そうだ! はぁばぁぼっしゅでふえすぎたじんるいは、これをつかえば、きっとえねるぎーをとりあいしなくてすむはずよ!」
ノアラは、そのエネルギーに期待を寄せた。
すると突然……
巨大なエネルギーは、
カボチャ型の金属塊に変化した。
「あれ? えねるぎーはどこへいったのかしら? それに、かわりにこのかぼちゃみたいなのがあらわれて…………これ、なにかしら? かぼちゃの
ノアラが、その謎の物体をじっくり観察していると……
物体についているパネルに、数字が表示される。
『10』
『9』
『8』
移りゆく数字にノアラは、
「なになに? かうんとだうん!? いったい、なにがおこるの??」
と、混乱する。
『7』
『6』
『5』
数字の減少が止まらないのでノアラは、
「え! なんだか、いやなよかんがするわ! いったんここからにげたほうがよさそう!」
と言って、慌てて空へ飛び上がった。
『4』
『3』
『2』
『1』
数字はだんだん小さくなり……
『0』
の表示と同時に……
カボチャは、爆ぜた。
「きゃあああ!!! まぶしい! みみがいたい! それに……おそらがなんだか……きたないわ」
赤い風の後に、
真っ黒な煙。
ノアラは、とても悲しくなった。
「わたし、やーめた! じんるいの
ノアラは、思い切り飛び上がって、空を、青い星を、脱出した。
そしてノアラが星を去り、何も与えられなくなった人類は……
何も生み出せなくなった。
何も思いつかなくなった。
ひらめくことが、発明が、できなくなった。
●●●●●●●●●●●●
——黒い宇宙で。
神が、難しい顔をして、
「ノアラよ、
と、ノアラに尋ねる。
「じんるい、ほかのいきものよりも、のみこみがはやくて、あたえがいはあるんだけど……わたしがせっかく、ひきだしをつかってなにかをあたえても、さいごはいつも、けんかしちゃうの」
ノアラは、ほっぺを膨らませ、ムスっとしながら答えた。
「喧嘩の星、か……。面白いな、いつか我が神話の語り草に使えるやもしれん。とっておこう」
そう言って神は、その白い毛の目立つ太い指で、青い星を
砂粒ほどに小さく、青い星。
神はそれを、ノアラが青い星で使っていた引き出しよりもずっと大きい引き出しに、そっと、しまいこんだ。
〈完〉
引き出し妖精ノアラ 加賀倉 創作【書く精】 @sousakukagakura
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