第34話 充ち足りた死
1歩、また1歩近づく。それは向こうも同じこと。こいつには俺の1つ目のスキルは通用しない。
「遠慮無く行くぞ。」
拳を固め、その頬めがけ突き刺すような一撃。当然のようにそれは躱される。
「動きが単調だぞ?」
「知ったこっちゃねぇ。」
読み合いなんて端から意味がない。なら、愚直に行くしかないだろ。
速さなら自信はある。
何度も、何度も殴り続ける。が、どれも簡単に躱される。
「この程度も当てられないならこっちからだぞ?」
直後、飛んできた今までの何よりも鋭い一撃。避けられない程でもないのが幸いであるが、喰らったら冗談抜きで腹に穴が空く。
「え、今の避けれる?」
「舐めすぎだ…。」
お互いに当てられない攻撃。向こうも威力は確かだが…速度はそれほどでもない。対してこちらはおそらく当たってもそれほどダメージにはならんだろう。
泥沼の攻防。
何度も殴り続け、何度も避け続ける。
「鬱陶しいね。」
「そりゃあこっちとしても同じことだ。」
「あの力は使わないのかい?」
「…使えねぇんだよ。まだ。」
「そうかい。」
お互いに避け、お互いに殴る。何がしたいのだろう…不毛だ。不毛でしかないのだ。こんなの。会話をしながらも殴り続ける。
「しかし、成長したな。一樹…。」
「お前は俺の何を知っているんだよ?」
「全部知ってるさ。私のことを殺したいっていうのも、真実にたどり着きたいと言うのも。」
「ならとっとと…殺されてくれ。」
「嫌だよ。それに…私はもう死んでるのと同じだからね。」
「それは何か?こんな姿になったら人じゃないとでも?」
「言えてる。でもそれ以前に…私の心なんて人のそれじゃない。」
「…今更、もう遅いだろ!!」
その時初めて、その一撃が当たった。
案の定…効いていない。
「どうだい?スッキリしたか?」
「いいや…晴れるわけ無いだろ…母さんのことについてはどう思ってんだよ…俺を捨てたことについては!」
「お前の母さんねぇ…ありゃもう、悔いても悔いきれないに決まってるだろ。」
そいつの動きはそれ以降止まる。
「だったら!」
殴る。
「もっと!」
殴る…。
「苦しんじまえ…!!」
殴る………。
意味が解らない。なんなんだ。俺は。
「一樹…。」
視界がぼやける。
「私が苦しんでいないと…そう思うか?」
「ああ…少なくとも俺にはそう映ってるよ…。」
直後、腹に響いたこれまでに無いほどの衝撃。
「がっ…ぁ…。」
「苦しいに決まっているだろ…!!何故私はこんな目に逢わなきゃならんのだ!何故私はなにもかも失わなきゃならんのだ!!何故私は…私の子を殴らにゃならんのだ…なぜ…死ななければならないのだ…!」
「な、何を今更…。」
「私はね…知ってしまったのだよ。この世界はいずれ、『天使』と言う存在によって侵略されると。」
「…は…?」
ついにおかしくなったか?いや、もとからか。
「ダンジョンの出現。それこそ、天使どもの地上侵略の第1の行程だ。次に奴らは人々を依代に社会に紛れ込むのだ。そして…最後には依代からこの世界に顕現し、人類を家畜とするのだよ。」
「まどろっこしいな。天使って言うのも。」
「嘘だと思うのであれば…あと数年。この世界の行く末を見てみるといい。その時にお前は知ることとなるさ。人の無力さを。」
「ああ…そうかい。」
痛みは引いた。ながったらしい話のお陰だ。
「どっちにせよ…ここから出なきゃならん。」
「まだ続けるのか…一樹…力の差は明白だろう?」
「あんたの言い分はよく解った。だが…俺の言う真実ってのはまだ知れちゃいない。」
「欲深いね。」
「何故、俺にこのスキルを?」
「このスキルってのは…
「エントロピー…それだ。」
「色々と考えた。考えて考えて…最終的に、お前が最適解だと思ったんだ。」
「アバウトだな。」
「だって、お前のスキルは二葉のスキルの暴走を防ぐためにある。それで、二葉のスキルって言うのは私の知る中では最強クラスの攻撃を誇る。そんなもの、赤の他人に渡せるかって話だ。」
「なるほどな…消去法的に、俺になったと。」
「まあ、そう言うわけだ。それで…まだ続けるのかい?」
「いいや、もういいさ。」
「おや、意外だね。じゃあどうやって出るんだい?」
「…あんたを殺すんだよ。『
理解して、使い方が解った。これは周囲にエネルギーを霧散させる能力。言い方を返れば均一にさせるとも言う。あの2人を跪かせたのはそれの効果によるもの。
回復したのは、無理やり寿命を前借りしたってとこだ。
それで、今回の場合はそれの逆。
「なっ!?ハァ?使いこなせてるじゃねぇか!?」
「っぱ、なんも解ってねぇじゃん。」
生命活動に必要なエネルギーを大気中に放出させる。
「ま、待てよ!まだ死にたくねぇよ!!」
「嘘つけよ。死にたくなけりゃ…こんな化物にはなってない。」
「だが…。」
「もういい。苦しまなくて。あとは任せてくれ。」
「…本当…大きくなったよな。」
そう言い残すと、そいつは力尽きパタリと倒れた。
それにつられ黒い球体も、崩壊していく。塵になり霧散していく。この力、あまりにも凶悪すぎる。
今回のような使い方はあまりしないほうが良さそうだ。馬鹿みたいに疲労感が襲ってくる。
あとは、回復も無しだな。リスクが高すぎる。
さてと…まあ言いたいことは言えた。
「おにい!!」
崩壊した球体の外から夕日が差し込む。
「ああ…。」
二葉…まあいいさ。これから、こいつのことを知っていけばいい。
「すまないな…親父のこと…もとに戻せなくて。」
「きっと…それは本人も解っていたことです。」
俺達兄妹は、人でなしのもとに生まれてしまったらしい。後にこれが…随分と古くから続く尻拭いの物語であることを知るのだが、俺達はまだ知るよしもないのだった。
―――――――――――――――
あとがき
どもども、烏の人です。とりあえずここまでが第一章となります。
やりたいことのひとつはできたのでそれなりに満足ですが収まりが悪いのは…やっぱり否めません。
そう言うわけで気が向けば書くかもしれませんが、毎日投稿はここまでとさせていただきます。好評であればまた高頻度での更新とさせていただきます。
ではでは、また次回。
陰キャ、外れスキルと共にダンジョンに引きこもる 烏の人 @kyoutikutou
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