第4話 光の祝福
訓練中の事故で大怪我をしたダニーは魔法学園を去ることになった。
本当は呪いの代償なのだが、それを知る者はアリアとカレンとザックだけだ。ユベールには話していないのだが、どうやら最初から気づいていたようだ。
にこやかな笑顔が恐ろしい。恋は盲目というが、ザックが少し心配になってきた。
ダニーを魔法学園から追い出すことで一件落着。あとはユベールの願いを叶えるだけだ。
カレンとユベールは学園長を脅して、外出許可を出してもらった。恰幅のいい壮年の学園長がげっそりと痩せこけた姿を見て、アリアは同情してしまう。よほど怖い目にあったのだろう。それも自業自得なのだが。
アリアとカレン、ユベールはすぐさま孤児院へと向かった。
ユベールの出自を知らされていないザックたちは留守番である。最後まで付いて行こうとするザックとは言い争いになったが。
孤児院は小さな丘の上に建てられていた。ユベールの話では、馬小屋より酷い場所だと聞いていたのだが、立派な木造の建物だ。
これにはユベールが一番、驚いていた。
三人は近くの雑木林から、孤児院の様子を窺っている。神の使者と光魔法の使い手が堂々と姿を現すわけにはいかない。
それに、ユベールは孤児院を守るためとはいえ、幼い弟妹を置いていったことに負い目を感じていた。合わせる顔がないと落ち込んでいる。
しばらく様子を見ていると、建物から子供たちが出てきた。ニ十人はいるようだ。子供たちは追いかけっこをしたり、ボールで遊んだりしている。
人形を取り合っている子供たちもいた。
「ケンカはダメよ」
赤ん坊を抱きかかえている若い女性が仲裁に入る。
「そうだぞ。みんなで仲よく遊ぶんだ」
若い男性が別の人形を子供たちに渡している。
「ジョン、サラ……」
ユベールが大きく目を見開き、声を震わせる。どうやら、孤児院の弟妹らしい。大人になっても面影は残っているようだ。
「二人は結婚して孤児院の先生になっている」
ユベールが驚いたようにカレンを振り返る。
「私も気になって勝手に調べた。悪いことをしたかな?」
ユベールは首を横に振って、青い瞳に涙を浮かべた。
「ありがとうございます」
「たいしたことはしていない。ところで、これからどうするつもりだ?」
ユベールは幸せそうに微笑んでいる弟妹に目を向ける。
「願いは叶いました。正直、大司教がちゃんと約束を守ってくれていたことに驚いています」
「もしかして、コルトレイン国に帰るの? せっかく友達になれたのに?」
アリアはいやいやと頭を振る。
「どうせなら、サミエーラ王国の研究を盗んでいくといい」
「それって……」
カレンがにやりと口元を上げる。
「学生生活を満喫しろということだ」
ユベールはぽかんとしてしまった。
「そうよ。少しくらい神の使者を休んだって罰は当たらないわよ」
「それに、町のパン屋や花屋で働いている弟妹は見なくていいのか?」
アリアとカレンが悪戯っぽく笑う。
ユベールは泣き笑いのような表情で頭を下げた。
「本当にありがとう」
アリアとカレンも心が温かくなる。
「私たちの結婚式にも出席してくれると嬉しい」
ユベールは顔を上げて、目をぱちくりさせた。
「結婚……? あの、あなたたちは女性ですよね?」
困惑しているユベールに、アリアが苦笑する。
「カレンがあたしと結婚したくて、女同士でも子供ができちゃう魔法を完成させたのよ」
「まさか、そんなことが……!?」
ユベールが素っ頓狂な声を上げる。驚きすぎて引っ繰り返りそうだ。
「もし、好きな男がいるのなら、男同士でも子供ができる魔法を作るが?」
「ザックとはそういう関係ではありません!」
アリアとカレンは顔を見合わせる。にやにやと口元が緩んでしまう。
「私は好きな男としか言ってないが?」
「へえ、ユベールはザックが好きなんだ」
たちまちユベールの顔が真っ赤になる。
「ち、違います! 彼のことは頼もしいとは思っていますが……」
「はいはい。ごちそうさま」
「これも友達のためだ。さっそく研究にとりかかるとしよう」
「だから、誤解なんです!」
慌てふためくユベールに、アリアとカレンは堪えきれずに笑った。
魔法はみんなを幸せにすることができる。
アリアとカレンの未来は光り輝いていた。
お嬢様は恋の魔法で結婚します なつきしずる @natukishizuru
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