第3話
終盤前半
西村の手を引っ張って走った。僕らの校舎と下級生たちの校舎を繋ぐ渡り廊下とグラウンドを一気に駆け抜けた。後ろで西村が何か言っているような気がしたけれど、聞かないふりをした。あっという間にプールに着いて、二人とも荒い息をつきながらフェンスに背中を預けた。
「なあ」息を整えながら、西村が口を開いた。何だかいつもと違う顔をしている。
「なんだい?」
「なんだい?じゃないよ。どうしてそんなに急いでるんだ。冒険ってのは、ゆっくり歩きながら楽しむもんだろう」
「どうしてよ。別にそんなルールないでしょ」
「疲れるんだ、僕が」西村は少し肩を落としながら言った。僕は疲れない。いつも走ってるから。
「でも、急がないと」
「だから、なんで?」
「えっと、花火が見たいんだよ。あと30分で始まる。さっさとネッシーを見つけて、神社に戻らないと、綺麗な花火が見れないだろう?」
「なるほど、そういうことか。分かったよ。じゃあ、ネッシーを探しに行こう」
西村がそう言った瞬間、彼のいつもの無愛想な態度が少し和らいだように感じた。普段は皮肉っぽいことを言う彼が、今日はやけに素直で優しい。それが何だか気持ち悪かった。西村は疲れているのだろうか?それとも、何か考えがあるのか?
不用心に開けっ放しになった青錆びた扉を通って、僕らはプールサイドの脇にあるシャワー室へと足を踏み入れた。薄暗いシャワー室の中は、湿気がこもり、ひんやりとした空気が肌に触れる。
「生徒が夜中にここに忍び込んでくるなんて、誰も思わないだろうな」西村が言う。
「それにしても、随分無防備だよね。もしかしたらネッシー、もう逃げちゃったかも」
「モンスターが丁寧に扉を開けて逃げるかよ」西村は軽く笑った。彼の言葉に、僕もつられて笑ってしまった。
プールサイドに戻ると、月明かりが水面を静かに照らし出していた。僕は一歩前に出て、水面をじっと見つめた。すると、突然、西村が僕の肩に手を置いた。
「なあ、本当にネッシーなんかいると思うか?」
西村のその言葉に、僕は少し戸惑った。彼はいつも、そんなことを真剣に聞いてくるタイプじゃない。それに、彼は昨日まで「ネッシーなんていない」と断言していたはずだ。
「分からないけど、みんながあんなに騒いでいるんだから、いるかもしれないじゃないか」
西村は少し間を置いてから、微かに笑った。
「そうだな。まあ、見つけられたら面白いかもな」
その言葉の裏に、何か隠されたものがあるような気がした。でも、僕はそれを深く考えずに、再びプールに目を向けた。花火が始まるまで、あと少しだ。
ネッシー @ryuma081111
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