第2話
ネッシー
中編
荒い息が綴ったリズムで草履が地面を叩く。甚平の袖口がヒラヒラと風に靡いた。目的地まで一本道だ。僕は歩幅を緩めた。
肩からぶら下げたバッグには、西村から言われた三つの道具と、おやつのチョコチップクッキーが入っている。
街頭を挟んだ奥の方に人影が見えた。僕と同じ背丈だからきっと西村だ。一歩、また一歩と歩みを進める。「西村!」と暗闇の中、手を振って電柱に照らされるところまで走った。影が光によってくる。それは僕の前で立ち止まり、「ネッシー!」と言うと思いきやそのまま素通りしてしまった。
西村じゃなかった落胆と、夜道で叫んでしまった恥じらいが入り混じった深いため息が喉奥から出た。少ししょんぼりしたまま、学校へと帆を張った。
校門前に到着してから5分待った。持ってきた道具の一つ、懐中電灯をつけながら、チョコチップクッキーを頬張る。歩き疲れた少年の乾いた口は、甘いクッキーに一寸ばかりの塩気を見出していた。すると眼鏡をかけた西村がいかにも暑そうな格好でやってきた。
「なぜ、長袖に長ズボンなのさ」
彼は眉を顰めてこう言った。
「ネッシーに襲われるかもしれないだろ。装備の一環だよ」
昨日までいないとか言ってた癖に。
「装備ったって、ドラクエとかそう言うのだろう? でっかい甲冑とかならまだしも薄っぺらい布切れ一枚じゃ何にも防げやしないよ」
「そっちこそ、なんだよ。作務衣なんか着ちゃって。夏を満喫してますってか? 」
「そうだよ。花火祭りを抜け出してきたんだ。しょうがない。ほらチョコチップクッキー。射的で獲った」
そうして僕はショルダーバックの中に手を入れて、個封になったクッキーを西村に手渡した。
「いらないよ。今からネッシーを暴くんだぞ? 」
ぶうたれた僕は袋を破り開けてその中身に齧り付く。ボリボリと噛み砕きながら言った。
「ネッシーとクッキーって、文字の響きが似てるだろ。だからネッシーはクッキーだ」
すかさず、西村が口答えしてきた。
「その理論じゃ、チャッキーだったらどうしようもない。一緒に遊ぼうよ。とか愉快に言ってくるかもしれないじゃないか」
それは怖い。なんにも言い返せなくなった僕は彼の手を引っ張って
「早く、プールに行くぞ」と邁進した。
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