心霊エレベーター

坂本 光陽

心霊エレベーター


 心霊現象と電気は相性がいい。


 いきなり部屋の照明が消えたり、テレビ画面が乱れたりするなど、電気系統に異常が発生するのは、心霊現象の定番といえるだろう。中には、コンセントを外したままのドライヤーから熱風を吹き出した、というものもあった。


 僕が電気がらみで不思議な体験をしたのは、高校の時である。


 インターネットが登場する前、学生のメディアといえば、ラジオだった。特定のラジオ番組がカルト的な盛り上がりを見せていたし、パーソナリティが教祖でリスナーは信者のようなものだった。


 しかし、毎回リアルタイムで聴けるわけではない。そんな時は、ラジカセに内蔵されたタイマーで番組録音をすることになる。つまり、外出前にタイマーをセットするわけである。


 その日も僕はタイマーをかけて外出した。半日後に帰宅すると、なぜか、軽快な音楽番組が流れている。タイマーが終われば、自動的に電源がオフになるはずなのに、ラジカセの電源が入っていたのだ。


 その後も同じようなことが何度も続いたので、タイマーをかけて外出をする時はボリュームをしぼるようにした。聴きたい番組はキチンと録音されていたのだが、どうも奇妙で不可解だった。


 この程度の出来事なら別に構わないが、時には笑ってはいられない出来事もある。エレベーターに一人だけ閉じ込められたのだ。


 メーカーに勤務をしていたサラリーマン時代の話である。古い雑居ビルの五階にオフィスがあったので、社員は毎日エレベーターを利用していた。


 オフィスでは時折り、奇妙なトラブルが起こった。取り替えたばかりの蛍光灯が切れてしまったり、電話回線が一時的に不通になったりしたのだ。原因は高圧電流の鉄塔が近くにあるせいか、建築時の配線が古いせいだと言われていた。


 そして、僕はエレベーターに閉じ込められた。一人きりの残業を終えて帰宅しようとした矢先のトラブルだった。階の途中で停止してしまい、そのまま動かない。なぜか緊急電話も通じない。携帯電話をもっていなかったので、誰かが気づいてくれるまで待つしかなかった。


 時間とともに不安が募る。このまま朝まで、誰にも気づかれなかったら……。天井の蛍光灯は点いていたが、妙に薄暗く感じたものだ。幸い、他の会社の方が気づいてくれたが、閉じ込められてから解放されるまで一時間以上かかった。


 管理会社によると、何度か同じトラブルがあったという。繰り返し検査を行ったが、原因は不明らしい。何とも気味の悪い話だ。


 近くに物流センターがあったので、同僚はトラックの不法電波原因説を主張した。トラックの発する不法電波によって、近くにある電子機器が誤作動を起こすというのである。


 実は、僕のラジカセの電源が勝手に入ったのは、これが原因だった。たまたまタイマーを入れて外出をする前に、トラックが家の前を通過した瞬間、ラジカセの電源が勝手に入るのを目の当たりにしたのだ。


 もっとも、エレベーターの停止が不法電波によるものかどうかはわからない。


 とりあえず、トラブルを回避するため、エレベーターはやめて、毎日階段で上がり降りをするようにした。おかげで、足腰は強くなったものである。しばらくしてオフィスの移転が決まり、奇妙なトラブルとは縁が切れた。


 数年後、雑居ビルが取り壊された時に、ちょっとした騒ぎがあった。ビルの地下から人骨が見つかったのだ。


 それを耳にした時、に落ちるものがあった。エレベーターに閉じ込められた経験から、奇妙なトラブルの原因が理解できたのだ。


 おそらく、人骨の主は僕と同じように、誰かに気づいてほしかったのだろう。

「おい、ここにいるぞ。誰か早く気づいてくれ」そう言いたかったに違いない。


 ちなみに、人骨は戦時中のものらしく、事件性はないというのが当局の見解である。



                  了


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