第7話 今後と王道展開




「ここは…森か」


 外に出ると、そこは緑一色の世界であった。


「すぅー…………はぁぁ………」


 深呼吸をし、体を伸ばす。久しぶりの外で体が心なしか軽い気がする。


 この一ヶ月、奈落での生活はとても閉鎖的であったため、なんというかくるものがある。


「よし、行くか!」

「にゃー」

「………」


 俺は、そう一人でつぶやき、足を踏み出す。


 肩に乗る小さな子猫については…気にしないでおこう。


「まずは街に出る所からか。流石にサバイバル生活には飽きたしな…」


 森を進みながら今後について思いを馳せる。


 師匠から聞いたところによると、この世界は随分とテンプレのような世界観のようで、はじめは定番の冒険者になるといいらしい。


「あー、でもオルクス王国からは出たほうがいいか…?」


 オルクス王国。俺達を召喚した人族の大国である。


 国力は他の大国と比べるとやや劣るが、勇者召喚という秘術と、聖国と呼ばれるもう一つの大国との同盟、そして女神に与えられたらしい結界により非常に大きな影響力を持った国だ。


 魔族と対立関係にある国の中でも1、2を争うレベルに魔族を嫌っている国でもある。


 生きていることがバレてもそこまで問題はないだろうが、別に戻りたくもないし、死んだと思われていたほうが都合がいい。


「興味があるのは亜人族の国だけど…」


 確か師匠に聞いた話によると、違う大陸ではあるものの巨大な橋で繋がっていて、獣人族の国やエルフ族の里、ドワーフ族の地下街など、種族別に沢山の街や国がある大陸もあるらしい。


「それ以外だと不安もあるし魔族の国だけど…」


 今は人間の姿だが、いつあの龍が混ざった姿になるか、正直わからない。人族の国ではなく魔族の国で暮らしたほうが安心できるかもしれないんだよなぁ…


 俺の外見的に人間以外で一番近い種族は魔族だ。


 魔族の中に竜魔族と呼ばれる種族がいるそうなのだが、その姿が俺のあの姿と酷似しているそうだ。


 あ、ちなみに竜人族と竜魔族は違う。何が違うかというと、竜人族は普段は人間の姿だが、能力を使用することで竜の姿になる。竜魔族は人間と龍が混ざった者のことを言うらしい。


 あと人族と魔族の違いは、心臓が肉の心臓か魔石と呼ばれる魔結晶でできているかどうからしい。


 そっちの方はそんなのわかんなくないか?と思い師匠に聞いたが、まあ昔から戦争ばっかしてるそうなのでどの種族が人族でどの種族が魔族かはもう大体判明しているそうだ。


 まあ、そんなわけで魔族の国にも行けることには行けるが…


「一応勇者だしなぁ」


 ファンタジー的な要素として悪魔?とかそういう存在も見てみたいという気持ちもあるが、戦いになったりするのならわざわざ行きたいとは思わない。


「うーん、悩むな…」


 俺みたいなクラス召喚離反組って大体やること復讐だからどうするべきか全然わかんねぇな。


 たまに見ていたweb小説知識も含めて、もう一度考える。


 馴染みある人族の国、獣人族やエルフ族といった他種族のいる亜人族の国、そしていざというとき安心できる魔族の国…


「…よし。旅でもするか!」


 迷ったなら、全部見て楽しんでからどこに住むか決めればいいのである。


 そう決めた智樹の足は自然と軽くなる。


 元からそうする気だったくせにと言うような顔をしている猫から目を逸らし、智樹は森を進むのであった。



………………………………


……………


……



「あれは…街道か!」


 森を進んでいると、ようやく人の痕跡を見つける。


 数時間以上歩き続け全然森の外に出られないのでもしかして森の奥に進んでいるんじゃないかと不安になっていた智樹は安心しながら街道に出る。


「さて、どっちに行こうかな……っと?何だあれ…」


 どちらに行こうか迷っていると、遠くの方で煙が上がっているのが目に入る。


 人がいるのか?そう思いコートのフードを深くかぶり、マフラーで口元を隠し慎重に近づく。


 そこには、燃える馬車と倒れた鎧の者達、そしていかにも荒くれ者ですよというような見た目の男達が騎士らしき者達を囲んでいた。


「ギャハハっ…まさかこんなにうまく行くなんてなぁ!」

「貴様…!お嬢様を離せ!!」

「レイラ!私のことはいいからここから逃げて……!」


 荒くれ者の中の男の一人が、桃色の髪の少女の首を絞めナイフを突きつけている。


「おい、このガキの命が惜しけりゃ今すぐ全員武器をおいて降伏しやがれ!」

「…………わかった…だからお嬢様の命だけは助けてくれ…」

「駄目です!レイラ!!」


 そう言うと、騎士の中のリーダーらしき人物が剣を地面に置き跪く。


 それに続いて、生き残りらしき数名の騎士も剣を地面に置き同じように跪いた。


「よし…おい野郎ども、そいつらも拘束しろ」

「へい!」


 少女にナイフを突きつけている茶髪の男がそう命令すると、周りの男たちが動き出す。


(ふーん…あれがリーダーか)


 少女を人質にして騎士を捕らえようとする男達。どちらが悪人かは一目瞭然である。


「ちょっと邪魔するぞっと」

「きゃっ…!」

「うごぁっ!!!??」

 

 自然な動きで、茶髪の男の頭を掴み、少女の背中に腕を回し引き寄せ、そして反対に頭を掴んだ男はそのまま投げ捨てる。


「ぐぎゃっぁっ!?!」


 結構強く投げたのでもしかしたら死んだかもしれないが、因果応報である。


 そのまま剣を取り出そうとしたところで、引き寄せた少女のことを思い出す。


「あ〜、大丈夫か?」

「は…はい…大丈夫……です…」


 突然の出来事に頭が追いついていないのか、ぼーっと俺の方を見つめる少女。


 背中を支えた手に触れるとてもサラサラとした長い桃色の髪と垂れ目の優しそうな瞳、とても可愛らしい顔と、そしてほんのり赤くなった頬。師匠から貰ったこの服に負けず劣らずの触り心地であるひと目で高いとわかるような純白のワンピースを着ており、高貴な生まれだということがすぐわかる。


 うーん、可愛い。というか異世界顔面偏差値高いなおい…っと、そんなこと考えている状況ではなかった。


「あー…なんだ?全員おとなしくお縄につきなとでも言えばいいのか?」

「何言ってんだてめぇ!良くもお頭を…!!」

「おっと…」


 勇ましく飛びかかってきた男から少女を庇い、首に向けて剣を振るう。


 ザシュッという音と肉を切る感触。首が宙を舞い、胴体はそのまま地面に転がる。


 血が派手に飛び散ったが、マフラーのおかげで一切汚れずに済んだ。師匠から貰ったときに聞かされた時は能力はそこまでなのかと思ったが、これは使えそうだ。


 これなら汚れずに済みそうだな。


「少し離れてくれるか?目も閉じておいていたほうがいいと思う。あ、あと師匠も持っておいてくれ」

「わ、わかりました…!」


 俺は彼女に肩の黒い子猫を預け、前に出る。


 盗賊の数は20人前後。


 普通なら囲まれてそのままお陀仏だろうが…負ける気がしない。


「…行くぞっ!」


 1歩で一番前にいた男との距離をゼロにし、そのまま剣で斬り上げる。


 両断、即死。


「次!!」


 そのまま止まらず剣を振り下ろし近くの賊を斬りつけ、それと同時にマフラーの本来の力を使用する。


 さっき切り裂いた男の体から、血が吹き出し、槍のような形を取る。


「穿け」


 吸血女王のマフラー、その能力は血の操作である。


 槍の形をした血が近くの盗賊を貫くと、更にそこから新たな槍が生まれ飛翔する。そして無限に増え続ける大量の血の槍によって、ものの数秒で盗賊は全滅したのであった。


(そういえば初めての人殺しだが…何も感じないな)


 よかった。異世界にきた日本人の定番、殺人への忌避感というやつはどうやらなさそうだ。


 いや、それは良いことなのか?いやいや、まあこの世界ならプラス要素ではあるか…よし、切り替えていこう。


「その…大丈夫ですか?」


 さっきから大丈夫としか言っていないななんて思いつつ、騎士たちの方に近寄る。


「辞めなさい!」


 そこで突然少女が警告する。何だと思ったが、そこには武器を握り締めた騎士達。警戒されてるなぁ…


「ですがお嬢様…助けてもらったからといって易易と信用するわけには…」

「それで命を救ってもらった相手に剣を向けてるのは余りにも不義理が過ぎるでしょう!」

「も…申し訳ありません…」


 少女がそう本気で怒ると、子犬のような雰囲気で縮こまる騎士達。


 そこからは、彼女の独壇場であった。


「大体先程も──…」



………………………………


……………


……



「その…お見苦しいところをお見せしてしまい…」

「いやいや、本当に気にしてないから…」


 馬車の中で揺られながら、申し訳なさそうに謝罪する彼女。


 小動物のような外見と可愛らしい声には相応しくないというか、ヒートアップした彼女の説教は随分と過激であった。


「それに、俺も馬車にのせて乗せてもらった側だし、困ったときは助け合いってことで…別に手を出されたわけでもないし」

「お気遣い感謝いたします…」

「…………ぁ…」

「………ぁぅ…」


 気まずい空気が流れる。ここに来て女性経験のなさが


 二人きりの状況での女性との会話なんてまじで知らねぇよ!助けて師匠!!


「こ、きょの子の名前って何っていうんでしゅか!?」


 突然声を張り上げ、カミカミになりながらもそう質問をしてくれる少女。


「あ、名前はナイ…じゃくて、師匠って言います」


 名前を言っていいのか聞いていなかったのを思い出し、慌てて言い直す。


 頭を撫でられ気持ちよさそうにしていた師匠は、え?という顔でこちらを見る。


「師匠…凄く素敵な名前ですね!」


 少女は、絶対に猫につける名前ではない名前をそうキラキラとした目で肯定してくれる。


「…そうですよね!」


 俺の返事に、うぇぇ!?!という更に驚いた顔でこっちをガン見する師匠。


(本当にすみません!でももう引き返せないんです!!)


 この状況で会話を終わらせるわけにはいかない。ここは続けなければ!


「あっ!そういえば君の名前を聞いてなかったんだけど…」

「はぁぅぁ……!申し訳ありません!」


 すると、慌てて立ち上がりワンピースの裾をつまみあげ、片足を後ろに引き、小さく膝を曲げる。


「私はステラ・ルドベキアと申します」


 馬車の中という狭い空間なのにも関わらず、まるで絵のような美しい所作でそう名を名乗るステラ。


 そこで、こちらも名前を名乗っていなかったことを思い出し立ち上がる。


「あー、俺の名前は智樹って言います」

「トモキ様…」

「………」

「………」

「ふふっ…」

「くはっ…」

 

 狭い移動中の馬車の中で、二人立ち上がって挨拶をする。そんな状況にどちらも耐えられず笑ってしまう。


 そんなこんなで、二人は少しずつ話に花を咲かせるのであった。

































「……え?俺、師匠のまま??」

 

 可憐な令嬢に抱えられた小さな黒猫のことを気にする者は、この馬車の中にはいないのであった。

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邪神様のお通りだ!〜最強の力を手に入れたので、憧れだった邪神ロールプレイを楽しもうと思います〜 座頭海月 @aosuzu114514

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