私はスタイリッシュではありません 〜スタイリストはスタイリシュ〜

ふもと かかし

私はスタイリッシュではありません 〜スタイリストはスタイリシュ〜

 私はスタイリッシュという言葉が嫌いでした。

 小さな頃からスタイリッシュという言葉が出るたびに、皆私を見るのですから。


 私の顔は至って平凡で中肉中背という、正に凡庸を絵に描いたような人間です。

 高校の時も学年一のイケメンの高橋くんがスタイリシュが好きと言ったら、クラスメート全員の視線が私に集中しました。あの時の粘っこい視線は今でも忘れられません。


 そんな私も、今ではスタイリストとして色々な方のメイクをしたり、髪型を整えたりしているのです。


 今日は有名な女優さんに指名されて、ドラマの撮影現場にお邪魔する事になりました。


「そう言えば、貴女はどうしてスタイリストを目指したの? まさかふざけてでは無いのでしょう」

「私ですか、高校の時に学年一のイケメンに告白されたのです」

 鏡越しに、興味津々な目で女優の順子さんが見つめてきます。同性の私でも、思わず頬が赤くなってしまう可愛さでした。


「それから、イジメが始まりました。高橋くんはその度に守ってくれて、その内私も彼を好きになってしまい、付き合う事になったのです」

「まあ、それで!」

 順子さんの目が、キラキラと輝いています。


「彼はスカウトされてモデルになりました。売れっ子になり、中々会えなくなって。そんな時に彼が、『お前がスタイリストだったら、指名して一緒に居れるのに』って言ったのです」

「それで本当になっちゃったの! 愛ね」

 順子さんの揶揄い混じりの視線に、照れてしまい顔が熱いです。


「ええ、美容師の学校に通って免許を取って、同時進行でメイクも専門的に学んで、カラーコーディネーターなどの資格を取り、今の事務所に履歴書を持ち込んで頼み込んだら雇って貰えました」

「やっぱり貴女はガッツのある人なのね」

 ニコニコと微笑んでいる順子さんは、天使のようでした。


「後から聞いたのですけど、熱意も伝わったそうですが、1番の決め手が名前だって言われました。面白すぎだろって」

「ふふふ、確かにそうね。私も初めての時に、名刺を二度見してしまったもの」

 上品に笑う順子さんに見惚れてしまう。


「まさか順子さんも、名前が面白くて指名して下さったのですか」

「それだけでは無いわよ。貴女の衣装のセンスが凄く気に入ったし、髪もメイクもトータルで安心して任せられるのが大きいわ」

 一流の順子さんにそう言われれば、スタイリスト冥利に尽きます。


 私は初めての時の事を想う。


『初めまして、スタイリストの須田井すたい里珠りしゅです』

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