ユカミカのタバタバ

硝水

第1話

 月はその身に受ける光が、全て必要ないのだ。全身を白色で包んだ彼女は、よく晴れたおめでたき日の陽光の全てが必要なくて、でも、それは、彼女が月だからではない。光がなければ色もない。闇とはほんとうは黒ではなくて、黒でさえも存在しないということで、だから私は欠席に丸をつけた。

「ねぇ、どうして来てくれないの?」

 執拗に鳴り響くコール音に堪えかねて取った受話器からは、機械的に歪んだ彼女の声が飛び出す。

「そんなの、私の勝手でしょ」

「それはそうだけど、私は三上が来てくれると思ってご祝儀返し準備してるのに」

「それこそ、湯上の勝手じゃん」

「もう湯上じゃなくなったんだって」

 あー、そうだ。そんなことを彼女の口から聞きたくなくて、だから行きたくなかったのに。ミカミとユカミでコンビだった私達なんて、もう過去になってしまったんだ。

「ふん、みちる……みちるって呼ぶのなんか、やだな」

「なんで呼ぶの嫌がられてんの私?」

「とにかく、行かないしご祝儀も出さないしご祝儀返しも要らない」

「いやそりゃ、貰ってないご祝儀に対してお返しなぞしませんけども」

「マジレスせんでもろて」

「私は三上がいなくても式が成立するって事実がなんかやだよ」

「私はみち、みちる……がもう湯上じゃないのが嫌」

「ごめんて」

「謝るなら改姓なんかするなー!」

 私達って花束みたい、なんて思っていたのは私だけで、実際は一輪挿しがたまたま隣に並んだだけだ。私は花瓶に熱湯を注いだ。

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ユカミカのタバタバ 硝水 @yata3desu

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