封印の魔術師

卜部朔巳

第1話 大魔法使い

大魔法使い。

それは子供なら誰もが憧れる魔法使いの頂点。

この物語の主人公ナロクも大魔法使いが将来の夢であった。

「俺が大魔法使いになって村の皆を見返してやる」

強い闘志を燃やしていた彼は10歳を迎えた。


アルファ国シス村。

ナロクが生まれた村は首都トランスから最も遠く、馬車で1週間ほどかかる辺境の地だ。

多くの村人は農業や漁業、狩猟などをして生計を立てている。

「ナロク、早く水あげないと干からびるでしょ!」

ナロクの母がいつものように催促した。

「わかぁってるよ、めんどくせぇ」

ナロクの家は農業の家だった。祖父がなくなり、生計が不安定なため、貧しい生活だった。

「この魔法使うか。」魔導書をめくり、唱える。

[ハイポ]

その瞬間、洪水のように溢れ出した水が畑を田んぼのように水浸しにした。

ガツン!後ろで叩かれた。

「あんた、またじいちゃんの本勝手に持ち出して

。なに水浸しにしてんのよ!ほんと使えないんだから、まったく。」

そのとき、後ろから笑い声が聞こえた。

「まぁまぁ、母さん。ナロクが魔法使えてることを褒めてやりなよ。」

黒メガネをかけた父が笑いながら母を諌める。

「ナロク、今夜村の人たちと狩りに出るんだ。

一緒に来るかい?」

母が慌てて間に入り、

「そんな!危険ですわ。」と心配した。

父は少し間をおいて、

「ナロクも10歳になったんだ。

狩りくらい学ばせておかないとやってけないよ。」

と冷静な口調で話した。

「狩り!俺ずっと行きたかったんだ。

連れてってよ。ねぇ、いいでしょ?」

母は推しに弱い女だった。


シス村の周りは天然の樹海で覆われている。

そのため、舗装された道以外は天然の要塞で、他の国の侵略や獣の襲撃などはほとんど起こらない。

もし、起これば首都から派遣された魔法使いがその対処にあたる。

「4人で狩猟ですね。今日は1人多いんですね。」

村の出入り口で魔法使いがナロクの父と言葉を交わす。

「えぇ、息子に狩りの様子を見させようと思いまして。近場を漁る位ですので心配なく。」

「一応、偵察もお願いします。最近、他国の輩で良い噂を聞かない奴らがいまして...」


父は松明を手に持ち、先頭を歩きながら話しかけてきた。

「ナロク、仲間の紹介がまだだったな。」

「ナロクくん、覚えてる?肉屋のフウドだよ。」

突然、ナロクに話しかけてきたのは大剣を担いでいる少し肥満体型な男だった。

「フウドさん、狩りも出来たんだぁ!かっけぇ」

「今日はかっこいいとこ見してやるからなぁ、

ナロク!おっさんも頑張ろうな。」

父は少し頷きながら、更に後ろを見た。

「そこのハットを被ってるのが

魔法使い見習いのガウス。

研修でこの村に滞在してるんだ。」

すると、ナロクは目を光らせて、ガウスの元に歩み寄った。

「ガウスさん、魔法使いなの?凄いや、」

「あはは、お父さんから聞いてたけど、

魔法が本当に好きみたいね。」

「固有魔法、何!?」

「檻を作り出す魔法よ。ナロク、実験体になる?」

ガウスがにやにやしながら見つめてくる。

「おいおい、息子をあんまからかわないでくれ、」


その時、草むらから猪が飛び出てきた。

「ちょうどいいわね。見てな、ナロク」

ガゥガゥ、、猪は突進のモーションに入る。

[ロケージ]

その瞬間、猪を包むように檻が作られた。

「完璧ね、私。」

ガコン!猪が暴れ、檻が壊された。

「斬!」

フウドの一振りで猪は真っ二つに割れた。

「おいおい、ガウスちゃん。

格好つけといて恥ずかしいねぇ~」

ガウスは赤面を浮かべていた。

「すごいや、固有魔法なんて初めてみたよ、!」

ナロクは励ましではなく、憧れといった感じで言った。その言葉で元気を取り戻したのか、

「よし、ナロク。私の監獄魔法を見せてやろう!」

と意気揚々と進んでいった。


結局その日の成果は猪3頭。

夜明け前には村の入口に戻ってきた。

母が心配して門の前で待っていた。

「ナロク、怪我はない?大丈夫だった?」

「全然!

むしろガウスさんの魔法がかっこよくってさ!亅

ナロクは嬉しさで満ち溢れていた。

魔法ってこんなにも凄いんだって、

心の中から思える程に。







コツコツ.....

樹海の中で何かが蠢いていた。

「アルファ国の村。壊滅させて、拠点にするか」

闇を含んだマントを纏い、

シス村へとその足を運ばせる。


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封印の魔術師 卜部朔巳 @urabesakumi

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