第13話 雛原緋羽と学校の友達
「
「
学校について早々に緋羽は
「ちょっといいかな?」
「なんですか?」
何やら鬼気迫る表情で迫ってきた凛に対して、緋羽は全く動じずにいつもの無表情で応える。
緋羽の中での凛は時折こういった奇行する人物として認識されており、この程度では動じることはない。
更に凛が緋羽の手を取って引っ張りながら歩き出しても、緋羽は表情を変えずにただ後を付いて行った。
人気のない空き教室の中に入ると、凛は一度廊下に人がいないことを確認してから扉を閉める。
何かを警戒するような凛を見て緋羽は目をぱちくりとさせて、凛の奇行の理由に思考が辿り着く。
「人殺しました?」
「んなわけ無いじゃん!!」
「ですよね」
顔に似合わない冗談を言うと凛が全力で否定する。蒼に言われて冗談を判別する努力を行いつつ、自分も冗談を言うようにして見たが緋羽だが、友達付き合いがなさ過ぎて距離感を間違えているような所がまだあるのが難点か。
「ああ、もう……!」
「すみません本気で思ってませんよ。冗談です」
「それはわかってるよ……。もう単刀直入に聞くね?」
「はい、なんでしょう」
凛は今一度背後を見て誰もいないことを確認する。
もし誰かいるなら先に扉が開いた音がするし、緋羽が気づくという当たり前の状況すらも考えずに反射的に見回している。
「緋羽って
「どういう……ですか?」
両手を握り合わせて神妙な面持ちで聞いてくる凛が、なんだかおかしくて緋羽はきょとんとしてしまう。
緋羽にとっての蒼は腐れ縁という答えが出ている。それを正直に言うと余計に変な勘ぐりを入れられる気がしているて、あえて"友達"と表向きに言うことにしている。
(別に、腐れ縁でも友達でも変な勘ぐりはされるのではないでしょうか……?)
顎に指を当て今更な気づきにたどり着いたのと、凛の顔を見て変に誤魔化す気も起きなくなる。……何より自分には冗談の類は向いてないと、先程のやり取りで自覚した。
「腐れ縁……というやつですね」
「腐れ縁? ……幼馴染み的な?」
「…………幼馴染み、確かにそれもあるかもしれません」
確かに小学校からの付き合いではあるが、それは目の前の凛も同じである。
そこで緋羽はあることに気づいてハッとした。
「凛、もしかして──」
「違うからね! 絶対に違うからね!?」
「まだ何も言ってませんよ」
「私が葉咲崎君のこと好きとかそんなんじゃないからね!」
「そうなんですか?」
「そうだよ!」
凛は緋羽の肩を掴んで力強く首を振ってみせた。恋愛経験のない我ながら冴えていると思ったがどうやら違うらしい。
「葉咲崎君が好きとかじゃなくて……その、恋バナが好きなだけです。……えへ」
「つまり、私と蒼の関係を面白がっている。と」
「そ、そんな感じ……かな」
「酷く不快です」
「ご、ごめん!」
あからさまに不機嫌な顔をして見せると、凛は頭を深く下げて謝罪した。
「そこまで本気で謝らなくてもいいですけど」
「だって緋羽凄く怒ったでしょ?」
「いやそこまでは怒ってないですよ」
「そ、そう……?」
「そうです」
「…………緋羽って顔に出ないからわからないよぉ」
「そうなんですよね」
「でも、喜怒哀楽の怒の部分だけははっきりと出てるから、本気で怒らせちゃったかと……」
泣きそうな顔で凛はそう言うと緋羽は目を丸くした。
自分でも表情が変わらないことは自覚しているのだが、怒った時だけ顔に出ていることは知らなかった。
「そんなに怖い顔してますか?」
「……ううん。ちょっとむっとしたような感じ。だから逆に琴線に触れちゃった感があるっていうか」
「そうだったんですね……」
自分の頬を触って確かめる。まさか負の感情だけが表に出ているとは思わなくて、今までも人を不安にさせていたのかと知った今、これからは気をつけようかと……ほんの少しだけ思った。
別に他人にどう思われていようが気にしない性格だった。ただ友達となった凛を怖がらせるのはなるべく避けたい。
なんとかならないかと、頬を持ち上げて笑みを作ろうとしたりして表情筋を柔らかくする。
「なにそれ可愛い」
「…………見世物じゃないですが?」
「怖い! その温度差が怖いよ緋羽!」
凛にじっと見られていたことに気づいた緋羽は頬に触れていた両手をすぐに降ろして、直立不動で目を細めて凛のことを睨みつけた。
「蒼はこんなこと気にしてなかったので気づきませんでした」
「葉咲崎君はもう慣れてるのかもね……」
凛は苦笑しながらも心の中で、緋羽のことを理解している蒼の関係に尊味を見出していた。
「一応言っておきますけど、蒼と私は別に付き合ったりしてませんよ」
「わ、わかってるよ。誰にも言わないから」
「それ、本当にわかってます?」
「わ、わかってるよ!」
本当にわかっているのだろうか。そう思うと緋羽の頬が緩み、少し呆れた微笑みを浮かべる。
「あぁっ!!?」
それを見た凛が唐突に声を上げると、流石の緋羽も驚いて肩を震わせた。
……それが、本当の逆鱗に触れてしまったようで、今度こそ本当に怒ったような眼で凛を睨みつける。
「もう教室に戻りますよ」
「あ、待って!」
緋羽は速足で空き教室を出ると、慌てた凛が小走りでその背中を追っていった。
暑い季節には氷のような幼馴染を。 雨屋二号 @4MY25
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