とにかく読んでくれ。
冒頭そして第一章は作者が読者を騙しに、いや、選びにかかっているので、好みの作品ではないと感じたらぜひ読み進めて欲しい。
作者が冒頭で読み手を選んでいるのは、全編通して内容が社会派であり、この不快な冒頭に耐え得る者のみが最後まで読み切り、受け止める感性を持っているからだ。
第一部以外は全て、執筆するには専門職による知識が必要で、おそらくは作者の実際の経験や人との関わりに基づいていると思われる。
だが、専門知識だけでなく人物の感情に根ざしたストーリー展開となっており、専門性を酷くリアルに感じさせる。
ーーなぜ、人は他人のために動くのか、動かないのか。
ーーなぜその人は、人と関わる仕事を選んだのか、人のために働き続けるのか、そして、人のために働く事を止めるのか。
きれい事だけではない感情と生活の生々しさが、読者を問いただし続ける。
近未来ではあるが、現代を生きる私が知るべき問題がみっちりと詰め込まれており、発達障害を様々な角度から捉えた、社会派大問題作である。
決して「楽しい」作品ではないが、SFと若干ホラーに寄った表現、そしてクライマックスへの展開は、作者の読者に対する歩み寄りのようにも感じた。
隠されたエンディングでは、登場人物たちと、現実世界で彼らと似通った境遇で生きる者たちへの愛情も感じられる。
このような作品が、少しでも多くの読者に届くことを願わずにいられない。
発達障害を治療するパッチが普及している世界という設定を軸に、様々な人間ドラマが展開される連作短編集。
挑戦的なテーマですが、だからこそ社会に真摯に向き合った濃密な作品となっていて、色々なことを考えさせられました。
治療の代償として、記憶が飛んだり、幻聴が聞こえてきたりします。
さらには、元の人格が消えてしまうのではないかとも言われていて──。
作中でも、あえて『治療』という言葉を使っていたり、パッチを使うことに対する意見が様々であったりしていて、作品を通して何か大切な問いを投げ掛けられているように感じました。
発達障害を抱えた子どもへの接し方が、登場する大人によって異なっているところも面白かったです。
どの話も良かったのですが、第四部の話が特に好き。
発達障害の治療が成功し、見違えるように“いい子”になった結果、その親はどんな心情になるのか。
心に訴えかけるような切実さがありました。