カヴァティーナ

ヤマシタ アキヒロ

第1話

  カヴァティーナ



あなたの白い指が

やさしく弦をはじく時


呼び覚まされたさびしさが

少しずつ 少しずつ

手なずけられる


ふるえる弦がつむぎだす

ひとつひとつの音が


うみ落とされた真珠のように

世界の重さを引きうける


われわれが最も癒されたい感情

それは「さびしさ」かもしれない


さびしさは誰にでも付きまとう

たったひとり 生まれ

たったひとり 去っていく

その根源的な孤独から


どんなに安らかな時も

つねにその背後には

さびしさがある


いま目を閉じて

そのしなやかな音に

身を任せるとき


存在の憂愁を

やさしい音色にのせて


あなたの白い指が

少しずつ

いまも少しずつ


時空にたゆたう

私のゆりかごを揺らす


           (了)

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カヴァティーナ ヤマシタ アキヒロ @09063499480

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