最終話 結局。

「だはぁぁぁ〜。またタトゥー無しだったぁ……」

「あの、もんちゃん?」

「ん〜? な〜にぃ〜?」

「僕のふところをソファ代わりに背もたれにして色違いタトゥー厳選するの止めてもらっていい? さすがに熱いんだけど?」

「いやいやいや、この席は嫁であるあたしの特等席だし」

「いいんですかね? 谷間とかすごいんだけども」

「ウチの旦那が脳内ピンク過ぎる……」

「いやいやだって絶景だぞ? そりゃ見るでしょ?」

「胸ばっかり見てると色違い見逃すよ?」


 あれから僕らは色々あった。

 色々あったという言葉でまとめるのはどうかとも思うが、誰に語るでもないのだからべつにいいのだろう。


 河合さんと呼んでいた頃から呼び方も少しずつ変わって今は「もんちゃん」と呼ぶようになったとか、パケモン新作の2つのバージョンのうちどっちを買うかで大喧嘩したりとかまあ色々だ。


「あ〜やだやだ。付き合いたての頃はめっちゃうぶで可愛かったのになぁー」

「言うてももんちゃんだって初めてだっただろうが」

「そりゃまああたしはめっちゃ一途な乙女だし?」

「それはそう」


 こうして新婚生活に至るまで、僕らは結局あの頃と明確に変わったことはないように思う。


 お互いに仕事して、休日は一緒にゲームして。

 たぶん普通の人たちとは少し違う形なのだろうとは思うけど、それでも今がわりと幸せだから問題はない。


「てかさー、最近知ったんだけどさー」

「ん?」

「とあるパケモンが色違いでしか進化できないっていうパケモンがいるってマジ?」

「うん。そうだよ。てか僕はもうお迎えしたけども」

「はっ?! ちょ! なんで教えてくれなかったの?!」

「いやいやそんなの今作においての常識だろ?」

「常識じゃないから! しょーくんがオタク過ぎるだけだから!!」


 今も昔ももんちゃんは僕には勝てない。

 やはりパケモントレーナーとしてはいくら僕の嫁とはいえ常に上でいたいのだ。

 まあそれでもたまにする対戦で接待プレイをしてあげたりはしている。


 なぜなら僕に勝った時のもんちゃんのドヤ顔が可愛いからである。

 そういう子どもっぽいところも昔と変わってない。


「それにしても、あれだな。新作パケモンが届くのを待つ間に色違いタトゥー厳選って全く意味わからんな」

「だってしょうがないじゃん? 早期予約限定特典付きはネットでしか買えないんだもん」

「お互い大人になって、パケモンに使うお金がどんどん増えてくな」

「それはもうだってしょうがないよ。あたしらの趣味なんだから」


 そう。新作パケモンを購入し、届くのは今日なのだ。

 だからこうして待っている。


「「っ!!」」


 そうして自宅に鳴り響いたインターホンと共に僕らは玄関へと小走りした。

 新作という未知はどうしてこうも僕らをわくわくさせるのか。

 大人になってもこんなふたりなのはどうなのだと思わなくもないが、これも僕らの日常の一部であることには変わりない。


「それじゃあ!!」

「始めますか」


 お互い違うパッケージを手に取り起動する。

 待ちびた新作である。


「よぉし! しょーくん!! どっちが多く色違いお迎えできるか勝負ね!!」

「そう言うと思った」

「ふふんっ。ライバルだからね!!」


 大人になって、結婚して。

 それでも僕らは相も変わらずまた新しい旅に出かけるのだ。


 ひたすらに無駄なロマンを求めて。



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僕とギャルの色違い厳選から始まるラブコメ。 小鳥遊なごむ @rx6

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