君の芯が太く黒々とした鉛筆を削らせて欲しいの!
ふもと かかし
君の芯が太く黒々とした鉛筆を削らせて欲しいの!
僕は今、憧れのあの子の部屋にお邪魔している。手はじっとりと湿っているが、口の中はカラカラだ。更に、心臓はとんでもないスピードで脈動している。
「狭い所だから、適当にベッドにでも座ってね」
彼女が住んでいるのは、1Kのマンションだ。部屋はイーゼルや画材で雑然としている。一脚だけある椅子も、物置と化していて座れそうにない。彼女の言う通りに、ベッドへ腰掛けるしかないようだ。
座ったはいいが、ここで寝ている彼女を想像してしまう。お尻から伝わるスプリングの弾力さえも、彼女を感じてしまい変に緊張する。僕は手にしている鞄を、ギュッと握りしめていた。
「そ、それで、部屋じゃないと話せない事って何」
僕は5限が終わった時に、彼女から声を掛けられたのだ。専攻が同じで割と普段から話す事も多く憧れていた彼女だったが、二人で出掛けたりなどは今迄した事も無かった。
話が有ると言われ、それが家でしか出来ない事だと半ば強引にここへ連れてこられたのである。僕には何が何だか分からなかったが、期待をしてしまう心もあった。
「それはね。あの、き、君の芯が太くて黒々としたえんぴつを削らせて欲しいの!」
彼女は頬を朱に染めながら、照れ臭そうに、それでもしっかりと僕の下腹部を指し示す。
家でしか出来ない、恥ずかしそう、照れながら、下腹部を指している、黒くて太い。これらが指し示している事は一つしか思い浮かばない。という事は、えんぴつを削るというのも比喩表現だろう。
しかし、削るとは一体どこまでの行為の事なのだろうか。手で? 口で? あそこで? 僕の妄想が暴走特急になってしまった。
「急にどうしたの、そんな事」
「その、今日、チラッと見えて」
確かにうちの大学の旧校舎のトイレは、入り口付近に小用の便器があり、ドアも無いので覗こうと思えば見えてしまうのだ。
「それで、あの黒々しさと立派さが忘れられなくて。お願い、先っぽだけで良いから」
「分かった。好きにしていいよ」
僕が了承すると、彼女の手が僕の下腹部へと伸びる。
僕の握りしめている鞄の中へと。
そうして、中から筆箱を取り出すと、一本のえんぴつに頬ずりしていたのだった。
「ああ、流石、ステッドラーのマルスルモグラフブラックの8B! さあ、この特注の小刀で削ってあげるからね」
彼女の小刀はうん万円もするもので、持ち歩きたくないということだ。
僕はトホホな気分で、熱心にえんぴつを削る彼女を見ているしか出来なかった。
君の芯が太く黒々とした鉛筆を削らせて欲しいの! ふもと かかし @humoto_kakashi
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