第二話 大ピンチ!(後編)

あの忌々しい出来事から十数分後。俺は、なんとか時間に間に合い、遂に王子との対面を迎えようとしていた。

あの後、道に迷わなかったかって?迷うわけがないだろ。正門から東口まで10メートルごとに案内板が立っていたんだから。まあ、最初はその看板に気づかず、西口に向かって歩いてしまっていたのだが……。

まあ、結果オーライということで俺の方向音痴は許してやってほしい。転生して少しは直っていると思っていたのに……。

ガチャリ。ドアが開く音と共に、豪華な衣装を身にまとった、一人の青年が入ってきた。多分この人が王子だろう。名前は、確か…何だっけ?ライオン…みたいな感じだった気がする。あまり自信も無いし、できるだけこの人の名前は呼ばないでおこう…。というか、さっき部屋に入ってから一言も話しかけてこない。やっぱり怒ってるよな…。死刑になったらどうしよう…。

などと考えていると、

「レオン!大丈夫だったか!」

という予想外の言葉が出てきた。え?大丈夫だったかって、どういうこと?特に心配されるようなことも起こってないけど?

「刺客に襲われたのだろう?レオンが手こずるほどの敵だ。相当な実力だったのだろうな。」

ん?

しかく…資格…四角…視覚…刺客か!

全く、刺客などと無駄に頭が良さそうな言い方をせずに、分かりやすく暗殺者と言ってほしいものだ。理解するまでに数秒かかるだろ。

しかし、俺に都合の良い解釈をしてくれて良かった。このまま自宅に刺客(フレーズがかっこいいので使っている)が来たという設定で押し通そう。

「レオン、大丈夫か?先程から何か心ここに有らずといった様子だな。どこか調子でも悪いか?」

おっと。人がいることを忘れていた。(デジャブ…?) 

「いえ。大丈夫です。しかし、いくら刺客が来たからといって、遅刻して良い理由にはなりませぬ。どうか、それ相応の罰を私に。」

なりませぬとか、それっぽい受け答えができた気がする!最後の方はドMみたいになってしまったが…。まあ、でもなんか江戸時代とかの昔の家臣ってこういう感じの台詞言ってるイメージあるし、問題無いだろ!まあ、どんな罰が下されるのかは不安だが…。

「そうか。それならば、今後私に心配されるような行動はしないと約束してくれ。お前はいつも自分の身の安全を考えずに行動するからな。」

え……?

そういえば、さっきからスルーしてたけど、王子めっちゃ優しくね?作中では王子との会話シーンが無かったから、王子がこんな性格だとは知らなかった。こういう、ファンタジー系の王族って性格がちょっとあれな人が多いイメージがあったけど、意外とそんな事無いのか?

あ、また王子が心配そうな顔をしている。早く反応を返さなければ。

「いくら王子の命令とはいえ、それは約束できません。私の役目は、あなたを守ること。それを果たせるのであれば、私の命など喜んで捧げます。」

よし。またそれっぽい答えができた。

というか、今思ったのだが、心配させる行動をとってほしくないのであれば、今ここで俺をクビにした方が良くないか?別に王族への忠誠心とか無いからさ。

はあ…。人と戦わない、安全な職業に就きたい…。

「そうか…。ならば、レオンに迷惑がかからないよう、私もなるべく危険な行動は慎むようにしよう。」

うわ…。この人いい人すぎる…。転生した瞬間怒鳴られたりと、この世界の人にあまり好印象を抱いていない俺からすると、ここまで来たら全部嘘なんじゃないかと思ってしまうほどだ。

などと考えていると、ドアをノックする音とともに、

「そろそろ戴冠式のお時間ですので、会場に移動してください。」

という声が聞こえてきた。

「分かった。今行く。」

そう王子が答え、ドアを開けると最初に怒鳴ってきた人がいた。お前だったのか。

案の定、俺と王子の二人だけで何かを話していたことが気に食わなかったようで、俺をすごい睨んでいる。

そして、先頭にその人、それに続いて王子、俺という順で縦に並び、俺たちは会場に向かっていった。すると、

ビュンッ!

という空気を切り裂く音と共に、ナイフが俺の頭の横を通っていった。ああ、なんだ。ただのナイフか。……ん?ただのナイフ?ナイフ……

あ、やっべ!刺客が来ること忘れてた!

俺は、すぐさま地面に倒れ込むと、自分だけ逃げたい気持ちを押し殺し、

「ライオン王子!もう一人の人と一緒に逃げてください!」

と叫んだ。すると、

「分かった。幸運を祈る。」

という声と共に、二人で廊下を駆けていってしまった。

…え?王子、逃げたの?さっきまであんなに俺の事心配してたのに?え、俺的には、あのまま3人で残って王宮魔法使いの人に任せるつもりだったのに。あの逃げてください発言は、ただ忠誠心をアピールするつもりで言っただけなのに…。

しかし、もういなくなってしまったからには仕方がない。

それに、そもそも俺はあの交通事故で死んでいるはずだったんだ。ここで死んでも、何も後悔は無い。はずだ。

俺は、死ぬ覚悟でナイフを持った暗殺者に向かって走り出した。

「うおおおおおお!」

そして、暗殺者のナイフが俺に突き刺さる…かと思われたが、ナイフは俺の服に阻まれて刺さらない。そういえば、作中でレオンはある一定の条件を満たした攻撃であれば、その攻撃を完全に無効化できる服を持っていると記されていたな…。まさかこの服がそうだったとは知らなかったが、これで俺がダメージを受けることは無い。ラッキー!

俺は、そう考えるのと同時に、暗殺者に全力で殴りかかった。

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せっかく漫画の最強主人公に転生したと思ったのに、ヒロインが強すぎるのだが? 霜月レイ @ichigodaisuki

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