第一話 大ピンチ!(前編)
鏡には、俺が事故の直前まで見ていた漫画のイケメン主人公、レオンの顔が。
って、え………?顔に傷も無いし……まさか、異世界転生?いや、まだそう判断するのは早い。もしかしたら、これは幻覚かもしれない。そうだ。そうに違いない。転生なんて現実にあるわけが無いのだから!
とりあえず、さっきからドアを叩いている人の話を聞くか。俺は、ドンドンと音の鳴る方に移動し、そこにあった玄関(?)のドアを開けた。
すると、ドアが開いた瞬間、
「おい!レオンお前、何をお前は寝ぼけているんだ!今日は十時からライアン王子の戴冠式だぞ?しかも、あれだけ戴冠式の1時間前に一度皆で集まると言ったではないか!近習であるお前が何をしている?!」
と、太った人が怒鳴ってきた。あ、この人も見覚えがある。えーと、確か……ああ、そうそう、王に仕える魔法使い、王宮魔法使いの一人で、主人公を嫌っている人だ。えーと、なんで嫌ってるんだっけ……
一度、あの漫画の設定を確かめよう。確か、あの漫画の中の世界では、精霊に宿られたものは魔法を使えるんだよな。そして、精霊の中でも特に力を持っている(それこそこの世界を創造したのではないかと言われるほど)、古くから最強と言われてきた10人の精霊を、十大精霊王という。その十大精霊王に宿られた者は、人間であっても、強大な魔力と無限の寿命、一生ある一定の年齢から老いない体を手に入れることができる。(らしい。)そして、この漫画の主人公、レオンはその十大精霊王に宿られた者の一人であり、500年生きている。そして、その500 年の中でその実力をプロドディア王国(言いづらい……)の王に認められ、影の護衛として王子の側近にさせてもらえた……という設定だった気がする。
そうだ。それで、この王宮魔法使いの人に嫌われているのは、魔法も使えず、何の取り柄も無い一般人が王に気に入られているのが気に食わないからだったな。まあ、実力を隠しているだけで本当はとても強いのだが。
この人がいるということは……やはり俺は転生したのか?あの、最強主人公に?いや、レオンって俺を呼んでいたし、きっとそうだろ。もしかして、前世の俺の平凡な暮らしとその悲しい終わりを見て、神様が「可哀想に。次の人生では異世界を無双して、自由に暮らしなさい。」的な感じで転生させてくれたのか?そうだ。そうに違いない。いやー、俺も前世で色々頑張っておいて良かったなー。
「おい。何を寝ぼけているんだ?」
おっと。人がいることを忘れていた。
「申し訳ありません。今すぐ準備します。」
どうだ。この謙虚な言葉は。これでさっきまでの無礼はリセットされただろう。
「もう集会は終わったから、戴冠式までには絶対来いよ?あと、くれぐれも戴冠式にふさわしい格好をーー」
急に話しだした……。
「では、着替えるのでまた後ほど。」
俺は、バタンと扉を閉めた。話が長くなりそうになったら、相手の話の途中でドアを閉める。もちろん、一言別れの言葉を入れるのを忘れずに。これは、俺が小学生の時に親にたくさん怒られたことで得た特技だ。まあ、流石に会社の上司には怖くて使えなかったが。しかし、今転生して使うことになるとは……人生、無駄な特技など一つも無いんだな。
上機嫌な俺は、変な名言を心の中で考えながらベッドがある部屋へと戻った。
って、ちょっと待てよ?さっき、偉そうに着替えるなんて言ったけど服がどこにあるかさえ分からないぞ?しかも、さっきの人が戴冠式は10時からって言ってたし……。時計を見ると、針は9時30分と指して……え?9時30分?確か、戴冠式って10時って言ってたよな?ていうか、俺、戴冠式がどこで行われるかも分かんないぞ?え?これまで異世界転生みたいな漫画ってたくさん読んできたけど、こんなに転生した瞬間から色々詰んでる漫画なんて無かったぞ?ああ、ドアを開けたことが悔やまれる。あそこで放置しておけば、その後何とでも言い逃れできただろうに!
いや、でも、今更後悔したって遅い。今はとりあえず、ハイスピードで戴冠式の準備をして、ハイスピードで戴冠式の会場まで行こう。いや、でもその前に漫画でこういう戴冠式みたいなシーンがあったのか確認すべきでは?会場の場所とかも思い出すかもしれないし!
えーと、王子の戴冠式……あ!そういえばあった!確か、第一王子であるライアン王子が王になることに反対する、第二王子派の人達が雇った暗殺者が来て………ん?暗殺者が来る?ちょっと待ってちょっと待って。え?暗殺者来んの?俺、魔法の使い方も分かんないんだけど?
こんなことしてる場合じゃないのは分かってるけど、一応魔法を使ってみよう。確か、魔法が出てくる様子をイメージすれば良いんだよな……よし。レオンは闇属性だから、闇の炎が出る様子をイメージしてみよう。……全く出ない。え?こういう転生系のストーリーって、主人公みんな転生した瞬間から普通に魔法使ってたよ?これじゃ暗殺者が来ても殺されるだけじゃないか?俺の人生、終わった……。
まあ、いいや。行かなくても社会的に殺されるし、もう開き直って戴冠式に行くしかない。暗殺者が来ても、逃げれば良いだけだし!
現在の時間は……35分。よし、まだ時間がある。とりあえず直感で服がしまってあるところを見つけて着替えて、直感で髪を整える道具を見つけて寝癖を直すしかない!
〜10分後〜
ふう。何とか終わった。案外直感で何とかなるもんだな。服は……もう適当だけど、人前に出ることも無いだろうし、大丈夫大丈夫。さて、次は会場への移動だ。どこでやるのかは分からないが、戴冠式だからおそらく王城の前で行われるのだろう(勝手なイメージ)。そして、こういうファンタジー系の物語では、必ず主人公の家の窓から王城が見える!(こちらも勝手なイメージ)
ということで、思いついたらすぐ実行!
俺は、部屋の窓を開けて、窓の外に顔を出した。そして、右を向くと……、そこにあったのは、あの漫画の作中でも何度か登場した、プロドディア王国の象徴である大きな城があった。俺、天才じゃね?というか、やっぱり生で見ると迫力違うなー。城まで徒歩5分ってところか……。立地良すぎね?さすが王の用心棒やってて、リッチなだけあるな。お、このダジャレ良いんじゃないか?会ったことないけど、今度王子にでも言ってみよう。まあ、流石に冗談だけど。
まあいいや。とりあえず、城に向かおう。一応、集会に遅れた(行かなかった)身だから、余裕で間に合いそうとはいえ小走りで行った方が良いだろう。
ー5分後ー
ん?ん?城に着いたのに誰もいない……?
おかしいだろ。あ、もしかしてお城の中で開催するとか……?よし、それだ。でも、門の前に衛兵いるんだよな……。入りづらい……。
あ、でも、レオンっていつもここに通ってるから、顔パス的な感じで何もしなくても入れるんじゃね?よし、一回正面から入ってみよう。
俺は、胸を張り、できるだけ怪しまれないようにしながら門を通っ……
「何かお城に御用ですか?」
途中で衛兵に道を遮られた。………。え、気まずっ。
「あ、えっと、はい。今日行われる戴冠式に、リアム王子の近習として出席するんですけど……。」
「そうでしたか。戴冠式の準備などをする方の入場は、お城の東口からです。」
恥ずっ。この数分間の記憶を脳内から消し去りたい。
「あ、そうなんですか!アハハ……。いやー、僕、おっちょこちょいで、すぐそういう大事なこと忘れるんですよねー。いやー、ほんと、すみませんでした。アハハ…。」
こうして、俺は正面口を苦笑いしながら去るのだった……。
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