第9話

 ここから先の出来事は、何も面白くないから、端的に説明する。

 両親の死体が発見されて、事件として捜査が進み、僕にも聴取が行われて、川谷さんは、彼女の自首と同時に逮捕された。患者の両親を殺害した看護師ってワードは、ニュースを通してすぐに広まり、世間を騒がせることになった。裁判では、僕も証言した。川谷さんと僕の関係性、父親は僕に暴力を振るって、母親はそれに目を背けていたこと、川谷さんはそんな僕を二人から助けてくれて、僕は川谷さんに感謝してるってこと、色々言ったのに、無関心な他人の大人達は、結局、執拗に難しくした言葉ばかり並べて、川谷さんに重い刑を下した。死刑ではないけれど、川谷さんは、当分刑務所から出られない。一方、僕は、児童養護施設で暮らすことになった。けど、裁判の時からずっと、毎日、ガラス越しだとしても、川谷さんに会いに行ってる。無機質な空間に閉じ込められても、川谷さんは、僕の前では、綺麗なままで、絶えず笑顔だった。面会室では、いつも明るい雑談しかしてないから、刑務官の人に、いつも不思議がられてる。

「川谷さん、川谷さん」

「んー? どうした?」

「……川谷さんが、ここから出た時、最初に何処に行きたいですか?」

「何その、地味に面倒くさい質問(笑)」

「良いじゃないですか。で、何処行きたいですか?」

「うーーーん、悩むね……」

「何処だって良いですよ。何処でも」

「そー言われると、余計悩んじゃうんだけどー?」

「あ、す、すみません……」

「冗談だってー(笑) えー、けど、ねぇー、私も、別に何処だって良いんだよ。君と行く所なら」

 急にそんな事言われて、照れてしまった。

「……じゃ、じゃあ、取り敢えず、近くでご飯でも食べますか? 刑務所のご飯ばっかだと、キツくないですか?」

「いや、けどね、刑務所のご飯って、案外、美味しいのよ? まぁ、けど、そうだね。シャバの飯は美味しいだろうねー。良いね、楽しみにしてる」

「は、はい……!」

 過去に何があっても、現在いまが変わりつつあっても、未来がどうなろうとも、関係ない。僕がここに居て、川谷さんがそこに居れば、それだけで、幸福です。

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2nd SINGLE「NURSE・CALL」 五十嵐璃乃 @Rino_Igarashi

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