第5話
もうすっかり身体に染み込んでしまったあの人の香りが鼻をくすぐる。断片的に浮かぶ過去はもう美化されてしまって、ただの思い出になってしまった。それがなんだかひたすらに寂しかった。新しく置かれた芳香剤に夫は気付く様子もない。そのことにちょっぴり安心していた。よく知る匂いに包まれながら、私は今日も一度も観ていない演劇のチラシを眺めていた。
オレンジ 朱音 @akane_74
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