恋人はから傘小僧!

崔 梨遙(再)

1話完結:1100字

「もう堪忍してくれや~!」


 探偵事務所兼超常現象研究所を営む黒沢影夫は頭を抱えた。目の前にはから傘小僧が座ってお茶をすすっている。から傘は、黒沢が持っている砂かけ婆の惚れ砂をわけてほしいと頼みに来たのだ。


 最近、惚れ砂狙いの変わった客ばかりだ。惚れ砂はまだまだあるのだが、黒沢としては普通の客に来てほしいところだ。浮気調査でも良い、久しぶりに普通の仕事がしたい。それなのに、惚れ砂を求めて妖怪ばかりがやってくる。頭を抱えるのも仕方がない。


「何を悩んでいる? 惚れ砂を売ってくれたらそれですむ話じゃないか」

「みんなが惚れ砂を使う世の中になったら困るやろ? 人の心を惚れ砂で動かすなんて、やったらアカンことなんや」

「じゃあ、俺の想いはどうすればいいんだ? 理子ちゃんに対するこの想い、今も恋焦がれてジッとしていられないくらいだ」

「でもなぁ……」

「惚れ砂を使うのは卑怯だといいたいのか?」

「そうや。それが1番の理由や。せやけど、他にも問題はある」

「問題? 何のことだ?」

「お前、傘やもん」

「傘が人間に恋をしてはいけないのか?」

「アカンよ。傘に恋されたら、雨の日に傘をさすのも怖いやんか」

「だから惚れ砂が必要なんだ」

「なあ、1回ありのままの姿で告ってみたらどうや?」

「はあ? お前は馬鹿か? 傘が人間に告って成功するわけないだろ」

「なんや、わかってるやんけ」

「だ・か・ら・惚れ砂を売ってくれ!」

「ア・カ・ンって言ってるやろ?」

「じゃあ、どうすればいいんだ?」

「とりあえず1回告ってみろや、僕も立ち会うから」

「私も行く」

「ああ、操さんも来てよ」



 夜、公園で理子を待った。バイト帰りの理子が現れた。から傘、黒沢、操が待ち構える。操がいると、“女性がいる”ということで安心感を与えられるので都合が良い。


「すみません、或る男があなたに告りたいらしいので、話を聞いてあげてくれませんか? 少し変わっていますが、良い奴です」

「から傘小僧です。ずっと好きでした、付き合ってください」

「え? 傘じゃん」

「傘です! 傘ですけど、付き合ってください」

「無理、だって傘だし」

「そこをなんとか」

「無理、だって傘だし」

「僕があなたを守りますから」

「無理、だって傘だし」

「から傘、帰るぞ!」

「あ、ああ……」

「失礼しました-!」



「から傘、落ち込むな、お前に恋人を作ってあげられるかもしれへん」

「本当か?」

「ネットのサイトに登録しろ、誰かとマッチングするかもしれへん」



「いや~! 黒沢、ありがとう」

「マッチング出来て良かったな」


 傘は傘同士。から傘小僧は、女性のから傘と仲良く挨拶しに来たのだった。



 あなたの傘は、あなたに恋しているかもしれません。







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恋人はから傘小僧! 崔 梨遙(再) @sairiyousai

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