第8話 湊の告白
☆
「ゴメン。耕。実はね。成り行きでバレちゃった」
「謝っても遅いわ。相当、注目されてんぞアイツ」
俺達はそう話しながら教室に戻って来る。
有名アイドルの早乙女マキという事実が明らかになってから早乙女さんは更に絡まれていた。
だけどそれは悪い意味じゃない。
早乙女さんを大切にしようとするクラスメイト達が関わっている。
「やれやれ」
そう言いながら俺は目の前の絡まれている早乙女さんを見る。
何だか笑顔が増えた気がするのだが。
思いつつ俺は頬杖をついた。
それから外を眺め見る。
そうしていると湊がニコニコしながら早乙女さんを見ている事に気が付いた。
「お前、母親みたいだよな」
「ふぁ?母親って酷いねぇ。私はまだ淑女です」
「...そうかい」
「そうです。...もー」
頬を膨らませて反論する湊。
俺はその姿を見つつ教科書を準備する。
すると「でもさ」と湊が呟いた。
俺は顔を上げる。
「...私、早乙女さんの事...その。何だか本当に母親として見てあげたいから。そんな感じだよ」
「ああ。俺もそれは思う。父親の感覚だしな」
「そうだよね」
「ああ。...お前の気持ちが理解出来るよ」
そんな感じで俺達は目の前の早乙女さんを見る。
早乙女さんは困惑していたが楽しそうだ。
そして次の時間のチャイムが鳴ってから授業が始まる。
で。
授業中にいきなり電話が鳴った。
☆
「綺羅...お前な。危うく携帯没収を食らう所だったぞ」
『アハハ。ゴメン』
「全く」
俺は屋上でそう話しながら外を眺め見る。
目下では多数の生徒が部活をやりながら運動をしている。
その生徒達を見ながら俺は「で?何の用だ」と聞いてみる。
すると『ああ。そうそう。こうくん。...あの子はどう?様子。...大丈夫かな』と聞いてきた。
恐らくあの子とは早乙女マキの事だ。
「ああ。アイツは...湊っていう俺の知り合いの女子がボッチにさせてないから」
『え?』
「え?」
『待って。こうくんって女子の知り合いが居るの?』
「居るな。...湊っていう」
『...(* ̄- ̄)ふ~ん...』
何だ?何だか雲行きが怪しいぞ。
思いながら「オイ。どうした」と聞いてみる。
すると『何でもないよぉ。こうくんのアホ』と言われた。
何でだよ。
『どうせこうくんだから色目使っているんでしょ?変態。えっち』
「お前...ボロクソに言うね」
『あったりまえでしょ。私はこうくんの彼女!』
「いつからお前は俺の彼女になった!!!!!」
『出会ったあの日から』
「ふざけんな!」
全くこっぱずかしい事ばかり。
確かに出会った当初にとんでもない事は言われたな。
結婚してくれとかそんな事ばかり。
だけど正直、今はそんな気は無いのだが。
「お前な。俺は婚約する気は今は無いぞ」
『貴方は将来、私と結婚するの!!!!!』
「話を聞け!!!!!」
『結婚しなさい!!!!!』
「我儘娘か!」
俺は盛大に溜息を吐く。
それから外を見ているとドアが開いた。
そして湊が顔を見せた。
俺は「?」を浮かべながら「湊?」と聞いてみる。
「...ねえ。耕」
「...あ、ああ」
「...今のもしかして日高綺羅さんっていう人?」
「そうだな。...良く分かったな」
「うん。話し声が聞こえたから」
湊が段々と近付いて来る。
俺は「?」を浮かべながら後退する。
だが湊は諦めず近付いて来る。
俺は「!?」となりながら「お、おい。湊。どうした」と聞いてみる。
「耕。...私で決めない?」
「...決めないっていうのは何だ」
「私は...耕が好き」
「ああ。そう...は?」
「耕が好き。...昔から好きだった」
ゴメン良く分からないんだが。
俺を好き!!!!?
まさかの言葉に俺は唖然としながら湊を見る。
いや。オイ!?
まさかだよな!?
「オイ。冗談はよせ。湊。幾ら何でもありえない」
「冗談で女子が告白する?普通」
「...そ、そんな馬鹿な」
「私は真面目に貴方が好きだよ」
「...!?!!!」
俺は絶句しながら湊を見る。
湊は段々と近付いて来た。
それから俺の胸に顔をうずめる。
そして腰に手を回してきた。
「...私、結構前から好きだよ。...好きだったよ。...だから心が痛いよ」
「そんな馬鹿な...」
「ね。もう一度言うけど。...私にしない?」
「湊...」
「というか私で決めて」
「...」
何だか俺の胸が生暖かい気がする。
というか泣いている?
湊が泣いている...。
俺はその湊に「...すまん。決めれない。今はそんな気分じゃない」と頭を撫でた。
「...そう」
「...だけどいつか結論を出す。でも今は恋とかそういうの決めれない。決められないんだ。あくまでそういうの必死に考えているけど」
「うん。分かった」
湊は離れながら「...待ってる」と笑顔になる。
俺はその顔を見てからドキッとした。
湊の顔が輝いて見えた。
女っぽく艶やかに、であるが。
腐れ縁と思っていたのに。
「耕。...私を選んで」
「...」
「...私、待ってる」
記憶を失う前の旧世代の仲良くなった女の子、綺羅。
記憶を取り戻した後の新世代の仲良くなった女の子、湊。
だけどそんな日本一有名なアイドルですら凌駕する笑顔だ。
湊は本気で立ち向かおうとしている。
日高綺羅に。
「...」
「戻ろうか。耕」
「...ああ」
そして俺達はそのまま教室に戻る。
それから俺は目線を横に向ける。
困ったなコイツは。
そう思いながら。
根暗ながらも大切な女子と俺の親の転勤の為に別れて早数年。彼女は根暗じゃなく笑顔の絶えない人気アイドルになって戻ってきました。...嘘だろ アキノリ@pokkey11.1 @tanakasaburou
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