ある大家族、次はなにをする?

パレット

第1話 嫌な一年の始まり

 ここは、ある大家族が住む家。

 その家の者は、戦国時代から今に至るまで時代を裏から、支えてきた歴史あるちょっと特殊な一家。しかし、表向きには知られてなく、その歴史を知る者は極僅かしかいない。

 そんな家のハチャメチャでスリルのあるお話。


 川や山、竹林の自然に囲まれた場所にある自然豊かな高校。私立天然高校てんぜんこうこう。田舎にある高校だが、生徒数は百名を超えており、みんな仲良く学校生活を謳歌している。

 その学校に全力でペダルを漕いで登校して来る女子生徒がいる。春風を浴びながら、悠々とした顔で校門に着く。校門には今時考えられないが、竹刀を持った鬼の顔をしているぽっちゃりな人が立っている。しかし、女子生徒は平然と校門を通ろうとする。

「待てーい! なに普通に通ろうとしてるんやー!」

「え、通学路だから?」

「ちがーう! そういう意味ちゃーう! 遅刻や遅刻!」

「えー! 遅刻なんですか!?」

「十分の遅刻や。今日は全校朝会があるから特別に許したる。だから、さっさと行け!」

「はーい、ありがとうございまーす」

「ん? あんな生徒いたか?」

 怖い先生とのやりとりを終えその場を後にする。自転車を駐輪場に止め盗まれないよう鍵をかける。そして、靴箱に向かい靴を履き替える。既に全校朝会が始まっている時間のため靴箱には誰もいない。そして、女子生徒も全校朝会が行われている体育館に向かう。

 体育館では校長先生が、毎度の恒例の長い話をしていた。先生たちにバレないようこっそりと体育館に入り自分のクラスの列に並ぶ。

「遅かったなー」

「あぁ、昨日の夜あったサッカーの試合見てたらちゃんと寝不足になった」

 校門前に立っていた先生と、話す時より明らかに低い声だ。

「お前らしいわ」

 高校入学してから、ほとんど毎日遅刻をして先生によく怒られている高校二年生の彼—―八月朔日ほうずみ五月さつき。そして、その五月と話ているのは同じクラスの冬海ふゆうみ未来みらい

「で、なんでスカート履いてんの? あとかつらも」

「朝、遅刻しそうだったから姉貴のスカートと兄貴のかつら借りてきた。鬼川おにかわ先生なにかと女子に優しいから変装した」

「なるほど、てかなんでお前の兄貴かつら持ってんだよ?」

「知らね。部屋入ったらあった」

 二人の会話が一段落したところで、校長先生の長い話も終わった。校長先生の話が終わると、出口から近い順にクラスに帰された。クラスに帰る前に五月と未来は男子トイレに入って行った。すると数秒で二人がトイレから出てきた。

「いつも思うんだけどさー、お前女子ぽい顔してるよな。男なのに。なんか中性的な顔立ちだよなー」

「あーよく言われる。ま、おかげで助かってるけど」

 五月の手には変装で使ったスカートとかつらがあった。男子の制服もよく似合っている。

「てか、春休みの課題持って来たか? 今日提出って朝、先生が言ってたぞ」

「愚問だな。俺が一度でも提出物を期限以内に出したことあったか?」

「ないなー。じゃあ、委員長怒るんじゃね?」

「だな。あいつ小学校の時から、俺が提出物出さなかったらスゲー怒るんだよ。怒ってあいつになんの得があるんだか」

 教室に着きドアを開けた瞬間に、教室の中から大きな声が発せられた。五月と未来は二人して両耳を塞いでいた。

「ちょっと五月! あんた今日遅刻したでしょ!」

「おーおはよあおい。春休み中に身長伸びた?」

「伸びてないわよ! それよりあんたちゃんと、春休みの課題持って来たんでしょうね?」

「それよりも葵、さっき先生が探してたぞ? なんか新しい教科書とかを運ぶのを手伝ってほしいって」

「ほんと!? すぐ行かなきゃ。教えてくれてありがと!」

 葵は急いで教室を後にした。廊下を走らないギリギリの速さで、最短ルートを通り、誰ともぶつからずに先生を探しに行った。

「いいのかー? 嘘だってバレたら骨が二百六個から増えてるかもしんないぞ。綺麗に骨を折られて」

、ありそうなを言わないでくれ。未来だけに」

「わはははははは、俺前のそういうところ好きだわ! 腹いてぇー」

「おーい、そこのお二人さーんはそこまでだ。そろそろ先生来るから席座っとけ」

「珍しいな。風音かざねがこんなに真面目なんて」

 風音は真剣な眼差しで前を見ている。目線の先にはクラスメイトの課題が山積みになっていた。

「僕は……あの量の課題を何一つやっていない。つまり提出出来ないということだ。この意味が分かるか……二人共」

「あぁ……分かるぞ。何故なら俺もやってないからだ」

「やることは一つだな」

「あぁ、あの方法しかねぇ」

 前の扉から担任の深月先生が入って来た。先生が教室に入って来た瞬間、五月と風音が先生の元に、スライディング土下座をしながら来た。

「先生、春休みの課題全て忘れました」

「右に同じくです」

「えぇー! 宿題忘れちゃったのー!? どーしよー! じゃ、じゃあ来週中には持って来るんだよ? 来週忘れちゃったらメ! だからね!」

 五月と風音が土下座をしながら顔合わせニヤッと笑った。

「はーい」

「分かりましたー」

「あいつら、性格悪りー」

「はーい、みんな席に着いてー。配布物配るからねー。葵さんちょっと手伝って……あれ? 葵さんは?」

 先生のその一言でクラスみんなの視線が五月に集まる。その視線に五月が気付き何かを思い出すような表情をする。

「あーー先生。葵は」

 教室の扉が勢いよく開く。そこには明らかに怒っている葵が立っていた。

「五月! あんたウソついたわね! 私を探してる先生なんて誰もいないじゃない!  先生一人一人に聞くの超恥ずかしかったんだからね!」

「おー葵ナイスタイミング。深月先生がちょうど今探してたぞ」

「あんたねぇ……今日という今日は許さないんだからね!」

「まあ、落ち着けよ。今先生が話してる最中だからよ。話なら後で聞くからよ」

「そ、そうね。分かったわ……」

 葵は五月の言っていることが正しいと思い、席に着いた。しかし、葵は怒っているのか、一番後ろの席の五月を睨んでいる。そして、チャイムが鳴り休み時間に入った。

「五月! さっきの話の続きよ!」

 葵が五月の方を振り向く。しかし、そこに五月の姿は無く、未来の姿しかなかった。

「ちょっと未来君! 五月は!?」

「あいつ、疲れたから寝てくるって言ってたー」

「あの、バカ月!」


 誰がたりも良く、気持ちいい風が吹いている。自然の音全てが、一つのうたになって聞こえてくる屋上を、五月は一人占めしていた。

「あぁー秒で寝れるわ」

「わかるー。一瞬で寝れるわ。一緒にサボる?」

「あり。てか、なんでが居るの? そして、生徒会長が学校の屋上で、堂々とサボるな」

 五月の実の姉にして、この学校の生徒会長を務める八月朔日ほうずみはるか。生徒からの人気も高く、この学校の美女四天王の一角でもある。

「いやー生徒会室居たらさ、かなりの量の書類渡されて、全部に目通さないといけないから、めんどくて。で、ちょっと休憩しに屋上来たら、五月が居たってわけ。五月はなんでここに居んの?」

「眠かったのと、葵から逃げて来たから」

「あんたまた葵ちゃんに迷惑かけたの? てか、もう迷惑かけるの何年目よ」

「小学校低学年からだから、十一年目?」

 遥は大きくため息をつき、五月のおでこにデコピンをする。思いのほかデコピンが強かったのか、五月は両手でおでこを強く押さえる。

「痛った! なんでこのゴリラは手加減しないかなー」

「誰がゴリラだって?」

 明らかにさっきまでと違う声が遥から聞こえた。圧の乗った怖い声。小さい子供なら、トラウマになってしまいそうな怖さだ。

「こえーよ。そろそろ俺教室戻るわ」

「じゃあ、私もそろそろ戻ろうかな。あ、そうだった五月」

「ん? なに?」

「今日お父さんが迎えに来るって言ってたよ」

「え、いつ父さん帰ってきたんだよ……」

「今日、五月が家出てから少ししたら帰ってきたよ」

「半年ぶりに家帰ってくるのに、俺らには一言も無しかよ。まあ、父さんらしいか」

「だから、終礼終わったら校門に居てね。私もなるべく早めに校門向かうから」

 五月は、右手をグッドの形にし、遥に見せるよう腕を上げながら階段を下りて行った。

「あ、お父さんのバイク二人乗りじゃん……ま、五月チャリだからいっか」


 校舎内は人が大勢いて、自然の音は聞こえてこない。その変わり楽しそうな声が、色んなところから聞こえてくる。そんな中、突風のような速さで何かが、階段を下りてくる五月に向かってくる。

「さーつーきー! あんたどこ行ってたのよ!」

「おー葵じゃん。なんでそんなに慌ててるんだよ」

「あんたが急に居なくなったから、終礼が始められないのよ!」

「もう、そんな時間か。サボりすぎたな」

「もう! どこでなにしてたのよ!」

「と屋上でお昼寝してた。気付いたらめっちゃ時間過ぎてた」

「学校の屋上立ち入り禁止よ!? あと、学校の屋上で堂々と昼寝をするな! もう、みんな待ってるから早く教室行くよ!」

 五月を腕を引っ張られながら、教室に連れて行かれる。葵の引っ張る力が強いのか、五月の歩き方がぎこちない。

「せんせーサボり魔見つけましたー」

「ありがとー葵さん。五月くんも次からは一言先生に行ってから、サボるように!」

「はーい」

 五月が自分の席に着くと、机の上に大量の配布物が置いてあった。

「え、なんでこんなに配布物あんの?」

 五月の独り言を、未来が真面目な雰囲気で上手く拾う。

「なんでって進路とか、保護者に向けてのプリントとか」

「てか、なんでお前隣いんの? お前出席番号後ろの方だから廊下側だろ? こっち校庭側だぞ」

「お前が居ない間に席替えすることになって、ここの席になった。ちなみにお前のくじ引いたの風音だぞ」

「おぉー。風音にしては良い席引いてくれたな」

「ま、代償としてあいつ一番前の席になったけどな」

「風音らしいわ」

 生徒らしい会話をしていると、少しずつ学校全体が騒がしくなってきた。クラスメイトも騒がしくなってきて、みんな校庭の方を見ている。

「なんだ? また、風音が校庭に白線アート描いたのか?」

 五月と未来も校庭を見る。そこには、竹刀を持った鬼川先生とがたいのいい先生が四人立っていた。その四人の先生たちの前には、ちょっと危なそうな人が立っていた。


 先生四人が重いプレッシャーを放っている。もし、この四人に夜出会ったら子供は大泣きで逃げ出してしまうレベルだ。

「あのーうちの子の迎え来たんですけど……これどういう状況ですか?」

「嘘をつくな! まだ、青年だろ! チャラチャラした格好、そしてスポーツバイク……明らかにお前、そういうヤツだろ! 俺らはそんなヤツを学校に入れる訳にはいかん。生徒を守る為に!」

「だーかーら……迎えだって言ってんだろ? さっさと退けよゴリダルマ」

 鬼川先生は必死に怒りを堪えている。鬼川先生の怒りは今にも大爆発しそうだ。

「まず、お前に子供がいたとしても、お前に似たヤツはいない! うちの学校の生徒会長を見習ってほしいものだ」

「あ、おとーさん!」

「は! りんちゃーん!」

 青年と凛がハグをする。その光景を先生四人が、口をポカンと開けたまま見ている。

「え、え……? 凛……その人お父さんなの……?」

「はい! 大好きなお父さんです!」

「あ、あのーお父様のお年を伺ってもよろしいでしょうか……」

「三十代とだけ言っておく」

「そそそ、そうなんですね……」

「なんかあったの?」

「んーん! なんも無かったよ! じゃ、返ろうか。あれ、さつ」

「自転車があるから自転車で帰るかも」

「そっか。じゃあちゃんとヘルメット被って、手離さないようにね」

「うん! じゃあ、先生方さようなら」

 二人を乗せたバイクはみるみるスピードを上げ、あっという間に見えなくなった。

「ほ、本当に子供がいたとは……てか、生徒会長の父親かよ!」

 凛と凛のお父さんが帰ってから学校では、その話題で持ち切りだった。「お父さん若い」「めっちゃイケメンヤンキーだった」「身長高かった」など校内の女子は大盛り上がりだった。運動部の男子からも、「あれは出来る体だ」「細いがあれは密度の高い前腕だった」などほとんど体や筋肉の話だったが盛り上がっていた。

「えー会長のお父さん若! 大学生って言われても分かんねぇや。五月はどう思うー?」

「あーうん。そうだね」

「え、なんかお前元気なくね?」

「イヤダイジョウブ。オレモウカエルネ」

「お、おう。気をつけて帰れよー。正門に委員長いるから裏門から帰った方が良いぞー」

 その日の帰り、五月はなんだか嫌な一年になる気がして心配でならなかった。

 




 

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