いけいけ勇者様93

最上司叉

第1話

魔王と2人きりの食事から帰ってきた勇者は自室で考えている。


勇者と仲間たちがこの国に住んでいることで何度かこの国に火の粉が降ってかかったのは間違いない。


これからもそんな事がないとは言い切れない。


自分はこの国を出て行った方が良いのではないだろうかとふと頭をよぎる。


街の人たちのなかでこの前の戦いで大切な人を亡くした人もいるかもしれない。


それを思うといたたまれない気持ちになる。


「…」


「どうしたのかの?」


声がした方を勇者は見た。


「…ドラゴンの女か」


「ずいぶんな言いようじゃのう」


「すまない」


「何を悩んでおるのかのう?」


「…」


「言えないことなのかのう?」


「…」


「無理に話せとは言わないがのう」


勇者は考えている。


勇者がこの街を去るということは仲間たちも出ていかなければならなくなってしまうのではないかと。


勇者は重い口を開いた。


「…実は…」


ドラゴンの女は黙って勇者の話しを聞いている。


勇者が魔王と2人きりで食事をしていた時に街の人に殴られたことや店の店主に良くしてもらったことなど。


「難しい問題じゃのう」


「…そうだな」


「今すぐではなく皆にも考える時間が必要だしのう」


「…あぁ」


「この前は不死鳥のところに無理やり居座ったがのう、今度はそうはいかないからのう」


「…あぁすまない」


「どれ皆に話してこようかのう」


「…ありがとう」


「考える時間もあるから早い方が良いと思うからのう」


「…そうだな」


【ガチャ】


ドラゴンの女は勇者の部屋を出て仲間たちの部屋を周り話しをしていった。


皆遅かれ早かれこうなるのではないかと思っていたらしく黙ってドラゴンの女の話しを聞いた。


魔王はというと。


えっ


待って


急に?


また皆離れ離れになるの?


魔王の目から涙が溢れてくる。


「…ヒック」


魔王は皆と離れたくないと思うなかで1番失いたくないのはやはり勇者だ。


魔王は勇者と仲間たちと暮らし始めてから沢山の気持ちを貰った。


魔王は最近だが勇者のことを少しづつ意識し始めている。


この前の戦いで勇者が突然家を出ていき胸が張り裂けそうに辛かったし悲しかった。


もう同じことは二度と繰り返したくない。


【ぐいっ】


魔王は涙を拭い心を決めた。


どんなことがあっても今度は勇者について行くと。

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