後編 幼少期の思い出
「じゃア、コッチ?」
オヤジが
その更に下にある「ちんこわさびの刑 ¥8,000」の方につい視線が向いてしまうが、見なかった事にしてオヤジの指先にフォーカスを合わせる。
“幼少期の思い出”。
……おねショタ!?
「コのスモックを着て待ってれバ、オンナのコが来るヨ~」
ス、スモックだって!?
保育園とかで子供が着るプルオーバーじゃないか!
(※別に子供服のみを指す言葉ではない)
ちょっと待ってくれよ。
スモックってオヤジ、それはちょっと若すぎやしないか。
流石に、これにはモノ申しておかなくてはならない。
「オヤジ、俺はおねショタは好きだ。
一番好きなジャンルはおねショタ巨乳輪だが。
だが、あくまでフィクションとして!
現実におねショタなんて事が行われてはならない…!
…ましてや未就学児をッ!!
おねショタはフィクションオンリー!
例え『手コかれざる者抜くべからず』の部屋であってもだ!!」
「違うヨ~」
オヤジは朗らかな笑顔を作り手を振った。
「大人と、大人だヨ~」
……ああ、そうか。
いや、よくよく考えたら当たり前だ。
相手を置いてけぼりにして突っ走ってしまった。
俺は何故か勝手にエロ漫画に出てくるような絵面を想像していた。
だが違う。
“当事者は俺自身”。
つい第三者視点で状況を想像してしまった。
照れ隠しに肩をすぼめてはにかんでみせる。
オヤジも微笑む。
「オヤジ、もう一回頼む」
「大人と、大人だヨ~」
「サンキュ」
完全に無駄なやり取りを一回追加して、再確認。
「じゃあ~…それで!!」
小銭も含めた5000円ピッタリ。
カウンターに叩きつけると、俺はその場でスモックに着替えた。
当然、そこにショタはいない。
ライトブルーのプルオーバーを被った成人男性一名である。
まるであつらえたかのように俺にピッタリのサイズだった。
「こっちだヨ!」
何も無いはずだった真っ白い部屋に、いつの間にか遠目にもわかるような桃色の扉が存在している。
もっとも、いまさら扉一枚で驚くようなことではない。
ドアには可愛らしいフォントで「はなぐみ」と書かれている。
それを見てこっそりとほくそ笑む。
変に遊びを入れないストレートな表現が逆に“
オヤジに案内されるまま、隣の部屋へ。
先程の部屋よりは狭いが、ここも同じく全面真っ白。
入ってきたドア、そして中央に布団が敷かれている以外は。
ここでお姉ちゃんが来るのを待つのか。
一体どれくらい待てばいいんだ?
どうにも手持無沙汰だ。
ふとスモックのポケットに手を入れると、中には“おしゃぶり”が入っていた。
オヤジ…。お前は出来る男だと思っていた。
ためらいなく“それ”を口にすると、逸る気持ちを抑えて布団に横たわる。
そのとき、はじめて俺はここが全面真っ白の部屋ではない事に気付いた。
そう。
天井に鏡が張ってあるのだ。
こ、これじゃあ手コいてもらう自分の姿が丸見えじゃあないか!!
「この建造物を考えた人は、なんてえっちなんだッ!!」
びっくりして思わず叫んでしまった。
スモックを着た大人が、低い声で。
吹っ飛んでいったおしゃぶりを拾いに行ってもう一度咥えなおすと、ふん、ふん、と鼻の通りを良くしてもう一度布団に寝転がる。
さあ……いつでも来いよ!!
……いや。
待てよ。
熱を帯びていく肉体とは裏腹に、思考は冷静だった。
ふと、ある事に気付く。
指定したのはあくまでもプレイ内容。
お姉ちゃんの事は何も言及していない。
……シーサーちゃんが来たらどうする!?
俺はもうほとんど無一文。
指名料は払えない。
出来る事は一つだけ。
神に任せて祈るしかない……ッ!!
頼むッ…!!
頼む、どうか……!
巨乳輪の娘、来てくれ……ッ!!
ガチャッというドアの開く音。
来た……!
「あらー、おねんねしてたの?
しょうがないわねえ」
聞き覚えのある声。
古い記憶をたどりながら、女性の方を見る。
……保育園の時の先生!?
当時俺のクラスを担当していた保母さんは、若い「お姉さん先生」とその上の「お母さん先生」の二人。
お母さん先生の方だ!!
当時五十代だったお母さん先生は今では…七十代ってコト!?
そんなご高齢のお姉さんに…いや、年齢はどうでもいい。
幼少期をよく知る先生に手コいてもらうなど……。
そんな
(やめてくれえええッ!!)
俺の脳は確かにそう叫ぶよう、身体に指示を出したはずだ。
それなのに喉から出る声は
「お願いしますッッ!!」
だった。
俺は戦慄した。
もはやこの肉体は「管理人」に操作されている。
そうとしか思えなかった。
でなくては、まるで誰でもいいから手コいてほしいみたいじゃないか。
それに、もし俺の意志での発言ならもっとバブバブした言い回しにしていたはずだ。
「お願いします」では完全に従業員さんと客の関係で、没入感がまるで無い。
もはや、抗えぬのか……ッ!!
あふれ出る恐怖心にギュッと強く目を瞑り、歯を食いしばって腰を浮かせたその時。
そこは病室だった。
側にいた看護師のお兄さんに話しかけると事情を説明してくれた。
トラックに轢かれ、長い間意識を失っていたこと。
左腕に「ターャジス」の入れ墨をいれたスキンヘッドの男性がこの病院に運び込んでくれたこと。
両腕を骨折し、ギプスをはめられていること。
俺は…生きていたのか……いや、帰って来られたのか?
先程までの状況をはっきりと覚えているため、どこまでが夢でどこからが現実か、境界がぼんやりしている。
あの部屋で起こった事は、ただの夢だったのか。
しかし、ものすごいリアリティだった。
まるで実際に異世界に行って戻ってきたような…。
何か、あの部屋に行ってきた証拠のようなものは無いだろうか。
そうやって手がかりを探していると、自らの股間が天井を指している事に気付いた。
看護師さんの前で申し訳ないが両腕の自由が利かないため、おっ勃ったナニを収める術がない。
両腕が自由だったところで、看護師さんの前でナニを始めるわけにもいかないが。
「すみません、こんなになっちゃってて…」
聞かん坊のムスコの
そんなみっともない状況にもかかわらず、看護師のお兄さんは優しく微笑んだ。
「自分も男ですから、気にしないでください。
生理現象なんで、恥ずかしい事じゃないですよ」
そう言うと、たくましい腕で優しく乱れた布団を直してくれた。
「何か困ったことがあったら呼んでくださいね」
さわやかに退室して行くお兄さん。
結局、あの部屋は何だったのか。
夢だったのか、それとも現世と異世界の狭間の世界だったのか。
……わからない。
きっとこの世界にいる限り、答えを知ることは出来ないだろう。
だが考えているうちに、自分の中で一つの結論に至った。
俺は一度死んだのだ。
そして生まれ変わった。
新しい自分に。
手コかれたいと嘆いてばかりで行動に移さなかった人生とはおさらばして、次のステップに進もう。
自分の中で、以前との確かな
まずは……そうだな。
退院したら、あんなさわやかなお兄さんに抜いてもらえる店に行こう。
俺は新たな決意を胸にムスコと共に天井を見上げた。
手コかれざる者抜くべからず パイオ2 @PieO2
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます