[1400字]矛と盾

千織

ほこたて

世界がまだ平面だったとき、雲の上には光の国が、大地の下には闇の国があった。


光の国の住人リュミーと闇の国の住人グロムは、人間界に来ていた。



「人間界には、なんでも貫けるほこと、なんでも防ぐことができる盾があるらしいよ」


と、リュミーが言った。


「そんなものが両方あるなんておかしいよ。その矛で盾が貫かれたら盾はニセモノだし、盾が矛を防いだら矛がニセモノだ」


と、グロムが言った。


「その二つを対決させる試合があるんだって。見に行かない?」


「そうだね、自分の目で確かめないと」


いこう、いこう、と二人で見に行くことにした。



♢♢♢



対決は、林に囲まれた広場で行われる。


二人が到着したときには、すでにギャラリーがたくさんいた。


二人は子どもサイズだったので、無理矢理人の足元をかきわけ、前の方に行った。


人だかりの中央には、上半身裸のムキムキの男二人が向き合って立っていた。


一人は矛を持ち、もう一人が盾を持っている。


さらに審判として、痩せた背の高い男がいた。



「お待たせしました! ここにある最強の矛と盾、どちらが本物か、歴史に残る一戦です! 皆様が証人となります! さあさあ、どうぞ見ていってください!」


審判が高らかに言った。


一方で、二人の女がギャラリーからお金をもらい、チケットを渡していた。


どうやらどちらが勝つか、お金を賭けているらしい。



「それでは! いよいよ始めましょう! さあ! 矛の攻撃です!」


審判の男は小さな銅鑼を鳴らした。


矛の男は、やーっ!と雄叫びをあげながら、盾を切りつけた。


矛は盾に当たるが、盾には傷がつかないようだった。



「おいおい! 盾が防ぐのは普通だろ! 矛が最強だから賭けたんだぞ!」


すぐに野次が飛んだ。


矛の男はすぐ二撃目を与えた。


すると、矛は盾を真っ二つにした。



「……おい! なんだよそれ! どっちが最強かわかんねーじゃねーか!」


さらに野次が飛んだ。


「こ、これは難しい戦いになりました! 今審議しますので、一旦中断いたします! みなさま、どうぞお静かにお待ちください!」


審判の男は二人の男を連れて、林の中に引っ込んでいった。



「なんでも防ぐというのは、”1回限り”という意味かな」


「二撃目とはいえ、真っ二つにするのは見事だ。最強でなくても良い矛であることには違いない」


「矛の使い手がより上手い者なら結果は違うかもしれない」


「いやいや、こっちは金賭けてんだよ! そういう問題じゃないだろ」


と、ギャラリーたちはワイワイと喋っていた。



すると一人の男が叫んだ。


「大変だ! あいつらの姿が見えないぞ! 金を持って逃げたに違いない!」


ギャラリーはざわついた。


欺かれたと気づいた賭けた者たちは急いで彼らを探しに走り、単に見物をしていた者たちはつまらなかったと言いながら家に帰っていった。




一通り人がいなくなると、先程叫んだ男が戻ってきて、林の陰に回った。


そして、審判と矛と盾の男たちと一緒に出てきた。


四人とも変装している。


リュミーとグロムは、審判の男と目が合った。


「……これあげるから、見逃してちょーだい」


二人は、小さな手にお小遣いを握らされた。



♢♢♢



「人間って面白いね」


リュミーが言った。


「最強の矛と盾を人間が作ったなんて、ちょっとビビったよ。ニセモノで良かったね」


グロムが言った。


「じゃあ僕は南側から攻めていくね」


「じゃあ俺は北側から」


それから人間界では、光の国と闇の国からの侵略の戦争が始まった。

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