第13話 新入部員と探検部

 平和だったはずの放課後。

 日常としてやんわり過ぎるはずだった放課後よ、さようなら。

 これから部室は戦場と化すんだからな!

 と、いうことで、ようやく出てきた探検部の顧問と話ができるらしい探検部の部室。

 内出屋くんは、ずっと臨戦態勢だ。


「いやぁ、おまちどうさま!顧問がおかえりしたよ!」

「聞きたいことしかないけど、準備はいいですかね!」

「まぁまぁ、心待ちにしてすごい気にしてくれてた気持ち、今凄い伝わってるよぉ!いいねぇ若いって」

「まず、ここしばらくの状況知ってていなくなってたのか、はっきりしてほしいんですが」

「色々あったらしいねぇ…と、いうより、もはや休ませるつもりがないねえ、物事には前戯ってやつが必要な時が…」

「単刀直入に言うと、こっちは逃げたと思ってますし、必要な時にいない役立たずだと思ってますし、説明しなくてもすべて知ってると思ってます」

「生徒会も魔法部も配信話で暴走したあたりは、私は関わってないぞう?なんでも黒幕は一人だと思うなよ内出屋くんさ~」

「ほとんど知ってるじゃないですか」

「そりゃあ、居ない間の話を全く聞かないで来るわけはないさね~」

「後からなのかなぁ、本当に後からなんですかねぇ」


 もはや信用のかけらもない。

 話のかけらも信用してない相手から聞く話、必要なのだろうか内出屋くん。


「ま、事実を踏まえながら辻褄を合わせようじゃないか、ということで、わが机にいつの間にか、入部届けがありましてぇ」

「はぐらかさないでほしいです」

「入っていいよ、新入部員~」

「…一部の人には先ほど会ってますが、どうぞよろしくお願いしますわ」

「ひっ!!?」


 内出屋くん、人物の姿で反射的におびえる。

 そう、さっきの麗さんだ。

 全く躊躇なく殴る、あの人だ。

 数人部室にいることはいるが、あまりの内出屋くんの雰囲気に何も反応できずにいたが、ようやく緩みを感じたようで。


「すごい雰囲気ある子じゃないの、どうしてまた探検部に入ろうって?」

「……噂の人…」

「うわ美人!?」

「騙されてない?誰にここ教わったのか言ってみなさい?」


 反応は様々だ。


「せ、先日は、ご迷惑をかけて、部の方々には、大変申し訳なく思っておりますわ」

「いやいや、何もしてないし大丈夫大丈夫、気にしないで~」


 私物のごとく軽く言い放つ先輩、城戸咲。

 実際何もしていない。一人以外は。

 和やかな雰囲気で新人歓迎しているようではあるが…。

 ちょっと違うのはその、一人。

 軽くも何も、本当に一瞥もくれない。

 全く見ない。

 内出屋くんのことだけ。

 数人気付いているが、まぁ、新人の気を悪くしないことが先決であるのも空気でわかる。


「いやぁ、早くも馴染んでくれてうれしいねぇ…私も上の機嫌伺いながら色々手回しつらかったけど、ちゃんとお嬢さんのやりたいことを実現できて感慨無量だわぁ」

「……で、それは、どの程度話してくれるんですか?」

「ちょっと待て待て、私も話すために来てるんだから次から次へとせかすなよ」

「期待してますよ」


 完全な棒読み。


「ま、苗字でわかると思うけど、最近ニュースでよく出てた大臣のご息女です、彼女」

「そういう権威を振りまくために来たのではないことは、了解いただけますかしら」

「…さりげなく謙虚なような自慢に入るのはさす……」


 言い終わる前に睨まれる。

 たぶん、言い終割るまですべて話してたらその言い終わるタイミングで殴ってたな。

 そういう刺さる視線を内出屋君は体感した。


「で、奥さんが大学の研究で何かしらあったニュースが主だったんだけど、それを心苦しく思った彼女が、ここのD棟に表に出ない天然素材や植物があることを親の職業柄、知っちゃってね」

「…えっ、今話してるそれ…」

「そこらへん、我らの領分でもありますね」

「うわ!?」


 いつの間にか内出屋くんの横にいる、この間の自警団の二人。

 相変わらず名乗りもしないが、しっかり何かしらの主張はしてくるし存在感は出せる。


「親の研究の助けか証明か、そんな何気なくで、親の入館コードで学校に入ってた…のを、通知で知ったわけ、入って二日くらい経って」

「下手したら死んでるんだけど…」

「そこは我々も危惧して何とかした側ですので、どちらかと言えば先生に貸しがあると思っていただいてもよいくらいですよね?」

「わかってるわかってる…君らには感謝はしてるとも」

「…うちの顧問とあんたら、知り合いで?!」

「顔は知ってる程度だと思ってください」

「……まぁ、うちも大臣の小さい声で言うご意向で予算回してもらってる部分があるんで、その娘が学校で行方不明は大ごとでねぇ、あとはD棟の物資の個人的持ち出しの話で、どの程度目を瞑れるかという折衝もあちこちとしないといけない問題で」

「何度も言いますが、意図的な抜け道は我々の指令系統も阻止が原則で変わっていませんので…」

「「…わっかっってる!」」


 転校生と顧問が同時にハモる。


「正直な話、恨みに思っていないことに感謝して早めに立ち去ってくださいませんかしら」

「これからも同じようになるか、その動向だけは、我々も見る必要がありますゆえ…」

「そういえば、あんたらこいつをD棟に置いて帰れと言ってたな…」


 内出屋くんが最初のことを思い出す。

 ぱんつ(内出屋くん独特の呼び名)に、探すなと直接警告されたのだ。


「スタンスは今に至るまで変わってはおりません」


 堂々と、探検部の部室で自説を垂れ流す度胸は結構なものだ。


「勝手な侵入、持ち出しを部外者が行うのに関しては許さないですし、うちの上部が処遇を詰めるまでは出しもしない、そしてその邪魔も許しません」

「こいつらが融通きかねンだ」

「…読めてきました…顧問、あんたそれで話が決裂して、強硬策で俺を突入させたんじゃ……」

「さすが内出屋くんはいいところ突くねぇ、ようやく部になじんできたねぇ」

「とんでもねえな!?」

「どのみち、生きてるのがわかってたらすぐ返さないと、お偉いさんカンカンなのはわかるじゃんさぁ…だからお嬢さんと自警団の折衝がこじれても連れ出して返すのは優先だったのよ、そこは両方まぁ……大人の対応で、どっちも知らなかったということでひとつ」

「この場でそんな詰めの話するの!?こんな適当に!?」

「こちらとしては、それで済むのなら構いません」

「…ま、こっちの顔立ててよ、私の言葉ってことを多めに汲んでいただいて、ね…」

「そういうコトとして受け取っておきます」


 相変わらず、過激派っぽいのに柔軟なのはなんなんだろう過去の自警団。

 そして、何か、圧のようなものがそれに通じるかのような物言いの顧問も、なんなのか…。

 内出屋くんとしても、横からは憶測だけでは反応しにくい。


「よく、その子がいる前でそんな話してみんな納得してるよな…」

「お嬢さんの意図に関しては、自警団のほうがよっぽど長く話して妥協点探ってるからねぇ体も傷つけない配慮はしてたし安全にも気を付けてたようだし」

「それは、まぁ、俺から見てもそう努力してる風には見えましたかね…食べ物は与えてなさそうでした…」


 ばしぃ!!


「どういうこと!?」

「私だって、してほしくない話があるって察したりできませんの!?」

「こんだけやり取りしてて俺だけライン超えた判定おかしくないかな!?」

「あなたの感性は女心と言うものに関心がなさすぎますわ!」

「わかれっていうの無理だろ!!何だったら説明してくれよ!」

「出来ないからこうなってるのでしょう!バカ!最低!恋愛下手!」

「恋愛の話なんていつ出たんだよ!?」

「こっちだって知りません!」

「……どんなご関係なんですか…この方って…」

「ほら、初公開動画の助けられた裸の子いたじゃない、あのこあのこ」

「なるほどぉです…」


 玲穂とパイセンも、二人だけの時間に興味がありつつ多少の困惑。

 ここからも、しばらく内出屋くんと麗のイチャイチャが続くが、接点も同調も歩み寄りも今のところ、無い。

 楽しそうなだけである。

 なお、それが落ち着いた後にあの状況の顛末については顧問が割と丁寧に語ってくれた。

 気絶した内出屋くんをよそに逃走、出口に近いところに待機していた顧問は誰にも見られないように回収、速やかに親元に届けた。

 丸の内までであるのでそこそこ時間は必要で、休暇は当日申請したとのこと。

 あの格好のままでは、よからぬ輩に乱暴されたと思われかねないので、連絡後に一日かけて髪も服も化粧もポケットマネーで万全に。

 大臣には恩を売って、お嬢さんにはそれなりの情報を条件に持ち帰りはあきらめてもらって、八方丸く収まる予定…をしていた。

 ところが。

 動画の形で色々なものが各所にばれ、隠し通すのもできないので、いかに作り物扱いで納めるか、お嬢さんが移っている分などをどう扱うかを対策チームで徹夜議論。

 激務に次ぐ激務だったとは当人談だが、ここは内出屋君は疑っていた。

 のち。

 それが収まりかけたころ、お嬢さんが急に出てきて提案する。

 噂とほとぼりが冷めるまで、転校していい、むしろさせろと。

 転校手続き、試験などは彼女の自宅を中心に教員立ち合いで行うことも含めて整えて実行。

 こうして「今」となるわけだ。

 入部に関してだけは、当人の意向以外に何も、誰もわからない…らしいが、なぜ当人の前で内緒のようなことになるのかは、まぁ、謎。


「ところで、そこまで聞いても僕の上着と靴が行方不明なんですけど、誰か知ってたら返してくれません?」

「な、なんにも知らないですわ、ナニソレ」

「…どういうことなの…」


 本当に、どこに行ったんでしょうね。

 そんな、細かく疑問は出たり残ったりしてはいるものの、流れの大筋はしっかり見える。

 顧問、意外と裏でずっと仕事してた。

 誇張はたぶん、結構含んでいるが拘束されていた時間があることは丸々嘘ではないだろう。

 納得できる答えが返ってきて、事態はもう解決していて、めでたい新入部員を歓迎する用意だけがある。

 じつに、めでたい状況だけが今残っている状態。

 部室の空気も明るい。


『タノシソウだネー?うらめしいカオでお前らに挨拶しに来ましたよ~(-""-)"』

「…では私たちはこれで」


 見知ったような知らないような、機械音声が入り口からしたと同時に、自警団がさっと消える。

 ニンジャか何かかな、やっぱり。

 それより、そんなのを会話として使うやつは…。


「生徒会…もう来なくていいんですよ」


 それを用はないだろと、いらないモノ扱いで迎え撃つ内出屋くん。


『そうはイカないんだよ~>< 探検部、こないだと別件で凄いヤラカシしているってオマエラをお怒りなんだよ副会長がサ~♪』

「「「は?」」」

『少し前から数人急に倒れる生徒がいて問題を調べる準備してたんだけど、それやめるようにとウチに脅迫状が来て、しかもD棟に人質さらったってソコに書いてるんだよ( ;∀;)』

「やばいですけど、うち関係あるんですその話に…」

『キミタチ探検部が奥から掘り出したものが原因で、そこもよこせって書いてるんだヨ~!』

「それなら、うちに先に脅迫のそれ来そうなもんじゃないですか…うちにそんなもの来てないですよ!?」

『とにかく生徒会室に、話が通じるやつを連れてくるんだヨ!今すぐ"(-""-)"』

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