第24話 地下の続き

 金貨偽造装置の方は、4メートル四方ぐらいの大きさしかなかったので、マーちゃんがすんなりと収容してしまった。つまりはいただいたわけだ。


 ちなみにこの装置の金銭的価値は、実のところほとんど無い。現在も周辺各国で、似たような装置が普通に使われているからだ。


 貨幣の鋳造については教会も一枚噛んでいて、どのみち勝手に使えないということもあり、こいつの収容許可はそういう意味においても、オシタラカンのとっつぁんから簡単に出たわけである。


「入って来た場所のちょうど対面たいめんに通路があんな。あそこから、反対側のわな回廊かいろうだ。解体しながら進むから面白味はえぜ」


 付き合いで来ている連中には、一応はそのように言っておく。俺だって後ろで腕組んで立ってるだけだ。


「俺たちはマーちゃんから、古代の装備を譲ってもらうことになったんだ。何が出てくんのか見てるだけで良いぜ。楽して稼げんなら文句なんか言わねえよ」


 ソコルディは珍しく従順で、隣ではメガシンデルも頷いている。


「僕はこういうの初めてだから、見てるだけでも楽しいです!」


 デコの方は、そもそもこういう冒険に出る機会が無かったからだろう。ランタンで周りを照らしながら、始終楽しそうにしていた。俺も15歳の頃はこんな感じだった。


「早速だ。えげつねえ死体が転がってるぜ。こいつぁ闇人衆の奴らだ。反対側から来たってわけかぃ」


 とっつぁんの話では、連中は伯爵家の専属護衛だそうだ。

 俺もマーちゃんも、連中を13人ほど捕まえてあるのは黙っていることにした。


「とっつぁん、遺体の方は回収しちまっても良いかい? 鎧も変わってるが穴だらけだしよ。どうするんでぃ?」


 一応は聞いてみた。この遺体の装備は、表に出せない技術の塊であるはずだ。


「マーちゃんにお任せするぜ。確かこいつぁもう修理する方法も無くしちまったはずだ。痛くもえ腹を探られんのぁ勘弁してもらいてえからな」


 とっつぁんはそう言って渋い顔になった。

 真っ当な統治さえしていれば、こういうのは部下たちの能力スキルで補えるものなのだ。

 こういう装備は、おそらくもっと未来において、人間が増え科学が発展し信仰がすたれると共に、人がこの星で最も強い生き物になった時に必要になる物だろう。


 神が過剰なまでに助けてくださるのは、今はまだ文明の足元が思った以上にもろいからではないだろうか。俺としてはそんな気がするのだ。

 かつて、大陸中部までが版図はんとだった帝国ですら滅んで久しい。進歩が巻き戻ってしまったから、まだ千年くらいはかかるだろう。


 その日はまた2ザイト(4時間)はかけて、城の北側にある罠回廊も全部掘り返してしまった。遺棄いきされた武器とは違い、罠のたぐいは公開して換金かんきんすることは出来ない。

 マーちゃんはとっつぁんに対して、永遠にこれらを保管しておくことを約束し、俺たちは教会へと戻ることにした。

 

 余談ではあるが、闇人衆の遺体は24体もあった。いずれもえげつない死に方で、切り刻まれた奴や串刺しになった奴、衝撃波で潰れた奴などが居て、俺たちはともかくデコの方はそれを見て吐いてしまった。


 




「絶対にずるいと思うね、俺は。普通の宿よりも良いじゃねえか、これさ……」


 教会に戻る時間が遅くなったので、もちろん食事は出ないし、実のところ宿房しゅくぼうの部屋も一杯という有り様だった。最近は、こちらに来る巡礼さんが増えて来ているらしい。

 そういうわけなので、教会の空き地を借りて、マーちゃんが『ズニヨルトタリンビス』を出したというわけなのだ。簡易型移動陣地と呼ばれるテントのことである。


「俺はこれに泊めてもらうのは2回目だ。風呂とかわやがあって快適だったな」


 ズニヨルト経験者のメガシンデルさんは、率先して使い方の指導に回ってくれた。


「ここで酒が飲めるたぁ思ってなかったぜ。これだけだったら、最高の旅なんだがな」


「一度はテントで寝てみたかったんです!」


 とっつぁんやデコにとっても、食事や寝心地は好評のようだった。風呂に関しては言うまでもないというヤツだ。

 デコは、死体を見たショックから立ち直れたようで何よりだと思う。


 7の月13日は、最後に全員でお祈りを捧げて終わった。

 今回は祭壇を増やして行われたのだが、俺とソコルディは魔法の神、メガシンデルとオシタラカンのとっつぁんが法治の神、デコとマーちゃんが戦いの神という風に別れた。

 デコは平和そうな美少年なのだが、孤児院時代は意外と喧嘩早い性格だったらしい。ろくでもない街のガキどもだっているのだから、仕方がないと言えば仕方がないのだろう。






 翌日の7の月14日は、マーちゃんと出会ってから134日目になる。


 俺も昨日は久しぶりにテントで寝たので、

朝にコーテレイヤ助祭様と鉢合わせになってしまい、しかも随分と心配したとかで泣かれてしまった。

 

「こりゃあ……助祭様。勘違いされちまいそうなんで、勘弁しちゃいただけやせんかね」


「し、失礼いたしました。連日、何のお構いも出来ませんで申し訳ございません」


 そんなやり取りが朝からあったわけだが、他の面々からは「ふーん……」という顔で見られた。俺だってたまにはこんなだと、こいつらには言ってやりたいところだが我慢だ。


「ところで、マーちゃん。今日はどうするんでぃ?」


 明日には、ドナ奥様とザンダトツ先生がこの街に到着してしまう。自由に使えるのは今日だけということになるだろう。


「うむ。実はな、地下の中心部の広間なのだが、南側にも通路がありそうなのだ。深さ的には湖の下に出るのだろうと思う」


 昨日の夕方に、金貨偽造装置を発見した広間には、まだ通路があるらしかった。東と西だけではないとのことだ。

 当然ながら、早速行ってみようということになった。






 南側の通路は扉によって隠されていた。壁と質感が変わらず、凹凸おうとつもそこまで無いのでここまで暗いと分からないだろう。


「ここを開けちまうと、また城内のどっかが開きそうなんだよな……マーちゃん、どうすんだい?」


 昨日はそれで、闇人衆とかいう連中が降りてきてしまったのだ。降りてきた奴らは全滅したが、生き残りがまだ上にいるだろう。


「今度は開けないで、穴を空けて通るのはどうであろうか。不味い物が眠っていたら、また埋めてくれば良いのだ」


 マーちゃんとしては大人しめな意見だ。いつもなら危険物は拾ってきて、解析してから実際に使ってみるまでがワンセットの御方おかたなのである。


「俺としちゃあ、そんぐれえで頼みてえな。ここの開発用に、何か残してくれてると思いてえとこだ」


 とっつぁんからも許可が出たので、今回は扉を切り出していきますかということになった。



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転生して25年、やっとアイテムボックスが使えるようになったんだが、中に『変なトカゲ』が住んでいて俺に色々と頼んでくる お前の水夫 @omaenosuihu

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