閑話 結婚までの経緯【41万PV突破】

※PVが相当行きましたので、久しぶりに閑話でも入れようかと思います。

文字数の関係で、今回は第7章のあらすじのようになってます。


先に読みたくないという方もいらっしゃるかと思いますので、そういう読者の皆様は申し訳ございませんが、第24話をお待ちください。


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 ユータヤロガ辺境伯家から懸賞金付きで指名手配されていた、嫡男でもあるメイラオス・ナルド・ンダラァ(23歳)は逃亡を続けていた。


 金髪、緑目、身長190センチ、美形、そして強いという絵に描いたような嫌みったらしい貴公子は、実のところ男性でいることに耐えきれず、女性として生きたいという絶望的な願いを抱えていたのである。


 彼はラオス・ナルダンという偽名を使い、何とかオーデンまで逃げてきて、衛星都市ズットニテルの探索者組合で働くという凄い生存能力を発揮していた。

 しかも男性にして強いにも関わらず、アッコワ・ユシュトル副組合長と同じく、最初は受付カウンターを希望したのだ。

 もちろん髪は長く伸ばして茶色にし、別人の振りはさまになっていたが、受付嬢からモテまくった所為せいで内心はうんざりしていた。

 ちなみに、もっと遠くへ逃げなかった理由であるが、隣の領にいて生活しているとは誰も思わないだろう、と考えたからであるらしい。逃亡初期については、その思惑おもわくは正しかったと言っても良いだろう。


「おめえさん、ここじゃ見ねえ顔だな……それに腕の方は立ちそうに見えるぜ」


「ラオス・ナルダンと申します。ケンチさんが帰郷されている間に、こちらに採用していただきました」


 そんな中で、恩師おんしの生存確認の為に帰郷ききょうしていた男が帰って来てしまった。暴動の原因になりそうだった魔銀級の探索者、今や特任司祭でもあるケンチである。

 メイラオスの方は、こういう雑な男の方が自分の好みなのだな、という風に感じた。

 さらには、疑わしい目線で全身をなめ回されたことについて、背中がぞわぞわしてしまったのである。メイラオスにとって、ケンチの第一印象は「危険な男」であった。

 第三者的に見れば、メイラオスも充分に危険な男である。


 この時のケンチの頭上にはマーちゃんもいて、この2人は賞金首を探していた。目的は金ではない。標本にしても問題無い人間を求めて、商用街道上で情報収集をやりながら帰ってきたのだ。

 生死を問わずという内容は、この両名にとって「世界の終わりまで行方不明でも可」と書いてあるのと同じだった。

 そしてメイラオスは、東部地区界隈かいわいでは本当に久しぶりの大物賞金首なのである。ケンチもマーちゃんも、気合いの入れようが普段よりも数段高かった。本当に危険なコンビだったのだ。






 ところが、不当に人を殺していないゆえに、全く実力がそこなわれていないメイラオスに対して、ケンチもマーちゃんも自身にブレーキをかけるしかなかった。さすがに、そういう相手を標本にするわけにもいかない。


「わ、私……昔から女になりたくて、それで逃げて来たの。もうあんな場所に戻りたくないぃぃぃ!」


 受付カウンターで目をつけてから、鑑定や言葉による揺さぶりも駆使くしして何とか捕えた相手であるが、いてみればかなり気の毒な人物であることが分かってしまった。

 フロアの例の倉庫に仕舞ってある『色々なりきり可逆不可逆変身コンテナ』の中にある『女性になりたい』で一気に解決出来そうな内容でもあって、最後には「こういう物があるんだけど、どうよ?」という流れになってしまったのである。

 お陰でケンチは、意外とたくましい美形に抱きつかれながらオイオイ泣かれた。


 そんなわけで、メイラオス・ナルド・ンダラァは事実上消滅し、替わりにルメイラ・ナユディ・ンダラァという女性が誕生した。

 金髪、緑目はそのままであったが、身長の方は10センチ縮んで180センチという、美人であるが充分にデカい女性である。

 モデル体型というほどにせておらず、スタイルも良くて腹筋も割れてる系のあねさんタイプな女性だった。

 





 ケンチがルメイラと結婚したのは、色々な要因が重なった結果ではあるのだが、本人としては様々な恩恵を神より受けるエリートというものに、嫉妬しっとあこがれがあった所為せいだと思っていた。


 それにルメイラは女性になっても割と活動的で、屋敷などに固執こしつする性格ではなかったことも大きい。マーちゃんの採取と観察に付き合って、普通の人間は行けないような場所に出かけるのを、むしろ楽しんでいたようなのである。


「いろんな場所に、タダで行けるって最高だわ。ご近所のこと気にしなくて良いし。家の中のこともやらなくていいしね」

 

 もう少し綺麗事を排除した内容も見れば、ケンチの女性のこのみは、長身で筋肉もあって顔つきもキリッとしたタイプであった。これで夜の方も相性バッチリの美人であれば、最早文句のつけようもない。


「俺ぁ、やっぱり昔を引きずってゆがんでるのかもしれねえ。あそこのお姉ちゃんのことをたまに思いだしちまうんだ」


「じゃあ、上だけ鉄の胸当てで、下は何もかないヤツが良い? 良家の子女の衣装をぎ取るヤツもあるけど?」


 マーちゃんと出会ってから、しばらく遠ざかっていた娼館の、元騎士家の令嬢であった年上のお姉さんについては、それでもスッパリ諦めがついたぐらいなのだ。実は先に結婚されてしまって、内心ではしょげていたのである。


 一方のルメイラの方は、本当に女性になれてしまったことで、しばらく精神的に不安定な時期というものがあった。その所為せいか、自分の身体の性能を確認する名目で、ケンチとの関係にすっかりのめり込んでしまったのである。


「アタシがこういう風になったのはアンタの所為せいだわ! だから責任とって、面倒を見て頂戴ちょうだい。その替わりに何でも好きにして良いからぁ」


 さらにケンチが若くて体力があり、少しだけ年上で金持ちでもあったこと、両親がすでに他界(流行り病で亡くなっていた)していたことも大きい。おしゅうとめさんがおらず、家の中のことだけやっていれば良いというのは、彼女にとっては理想の生活に思えたのだ。


 ケンチの対外的なステータスというのは、この時期ではそれぐらいになっていた。怖そうな破落戸ごろつき風味の男で良ければ、他の条件は優良物件並みだったのだ。


 ルメイラが男性時代から持っていた理想というのは、なぜか街守がいしゅのヒルマッカラン総督に非常に近いものがあった。


「探索者組合の仕事を続けるのも無理があるじゃない? そういうのはやりたい人がやってくれんのよ。大体もう嫡男じゃないから! ところで今日は男の格好の方が良い? くっ殺せ……とかいうの好きじゃないの?」


 彼女は自立であるとか、出世というようなものは一切求めず、酒を飲んでブラブラ過ごす替わりに暇なケンチに乗っかって過ごすという、これはこれで中々にただれた生活に突入してしまった。



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※お読みいただきましてありがとうございます。この作品について評価や感想をいただければ幸いです。

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