第23話 金貨偽造装置

「とっつぁん。司祭様ぁ心配してんじゃねえかな? 連絡だきゃぁとった方が良いかもしれねえぜ」


 全員がぞろぞろとくっついて来る事については、もう諦めるしかない。

 それでも、教会側では気をんでいる可能性はあったので、そこは聞いておいた。


「そうだな。どうしたもんか……俺だけ向こうに送ってもらうことぁ出来んか? そんで説明が終わったら、こっちに戻ってきてぇ。俺だって、ここに何があんのかは見ておかねえとならねえ」


 とっつぁんからはそう返ってきた。普通に考えたら無理な事を言っているのだが、マーちゃん的には可能なことだったりする。


「そういう事なら今から送ろう。黒クモさんをつける。我々はここで待機だ。相手の後続組が来ないとも限らないからな」


 マーちゃんがそう提案し、俺たちはとっつぁんが戻って来るまでここで休憩となった。


「俺たちゃ今日はこんなんばっかだ。ここら辺で、俺でも安全に金に替えられそうな物はえのかよ?」


 待っている最中のソコルディからは、そういう前向きとも言える質問が出た。普通の探索者はそう思うものだ。


「永続的ではないが、長期間不朽処理済みの武具が転がっていることがあるのだ。硬化の術が働いている剣とかな。ダブっているものを進呈しんていしよう。只働ただばたらきは確かに無い」


 マーちゃんも今回は太っ腹だ。拾った武具のうちダブっているものについては、ソコルディやメガシンデルにも渡すことにしたらしい。

 俺としても、この辺はガツガツしても意味が無い。金は腐るほどあって有効に配らないとならないし、珍しい武器よりも珍奇ちんきな手段が豊富な御方おかたが相棒をやってくれている。


「さすがはマーちゃんだぜ! ケチ臭えことばっか言ってる、どこぞのクソ女とはエラい違いだ」


 ソコルディの奴は大喜びだった。この何日間かで、年収分以上は稼いだに違いない。


「クソ女と言えばだ、カタリーナ・ジョヴァンディはとっくに退院したぞ。一応聞くが、グレトルの顔の件はどうなっている?」


 メガシンデルも意外に辛辣しんらつだった。あの女はかなり評判が悪いらしい。女の身で、エリートに対する劣等感が俺と同じなのかもしれない。

 それに、グレトルの悲惨ひさんな表情の顔については本当にすっかり忘れていた。


「そういや、ゲッカーラーキンさんにも詰められたことがあったな。ありゃぁ時間経過で治らねえかもしれねえ。本人の心がけ次第だって、街に戻ったらそう伝えとくぜ……」


「顔の筋肉を全部がす以外の治療法が見つかるまで、彼については経過観察中なのだ。街に帰ったら、他のドリンクか薬品を試してみるか」


 グレトルについては、俺としては有耶無耶うやむやにしたいし、マーちゃんとしては経過観察の対象なのだ。そして、別の飲み物の実験台になることも決まった。


 余談ではあるが、視界の隅の方では黒子さんが、壁解体用の道具類についてホワイトボードでデコに説明していた。

 デコの方は、丸ノコの様な刃物をもらって喜んでいるが、アレは大丈夫な方の道具なのだろうか。


 各自がそうやって時間を潰している間に、オシタラカンのとっつぁんも帰ってきてくれたので、一同は地下遺跡の奥へ進むことを決めた。






「ところでよぅ、ソコルディは壁をぶち抜いて来たんだろ? あそこからここまで、伯爵だって来れるんじゃねえのか?」


 通路をゆっくりと進みながら、俺はそういた。質問の相手はとっつぁんである。


 とっつぁん達から、どうやってここまで来たのかは教えてもらった。

 アレだけデカい音がすれば、誰かが様子を見に来るだろうとは思うのだ。ところが不思議なことに、今のところは誰も降りて来ないのである。


「そういやそうだな。あそこはくれえし、真っ直ぐな穴からはずれちまえば底の様子は見えねえ。縄か何かで降りて来そうなもんだが……ワニがどうとか言ってたっけか。そうすると世話する奴もいそうだ」


 とっつぁんの話で何となくだが察してしまった。上にいる伯爵が警戒しているのは、オシタラカンのとっつぁん達ではなく陸生ワニのガーンモーなのだ。


 マーちゃんが黙っているし、俺もワニについては黙っていることにした。皆んながもうフロアの仲間なのだ。

 あのワニの棲家すみかについては、それなりに汚い空間だった。転がってるフンとそれを食べる虫、一応は流れている池の水と水草まで、全部を短時間でいただいて来たのはマーちゃんならではだ。


「それでも様子を見に、誰かが降りて来るかもしれねえな。マーちゃん、気配感知が抜かれるかもしれねえ。誰か来たら教えてくれ」


 現在は頭の上にいる、うちの投光器姉さんにはそのように頼んでおいた。


「そういえばそうだな。デコは真ん中にいた方が良いかもしれんのだ」


 マーちゃんの提案によりデコを真ん中にした俺たちは、やや下方向へ傾斜した道を進んだ。

 今度の道は回廊ではなく、城の中心に向かう直線の道だ。それも200メートルほどで終わった。

 

 今はソコルディも光源の術を消して、あかりはマーちゃんと黒子さんの安全ヘルメットに頼っている。他は俺の使ってた中古のランタンに、デコが火を入れて持っているだけだ。不思議と祭りのような風情ふぜいがある。


「割と広いし、あそこに何かあるぜ。俺たちが落とされたあそこより、ずっと深い場所なんだろうな」


 そこはマーちゃんがセンシングで確認した通り、何十メートルかの開けた空間だった。

 ソコルディの注目した何かについては、俺とマーちゃんが存在を予想していた物で間違いないだろう。


「皆はここに居てくれ。ケンチ、アレを調べに行こう。おそらくは予想していた物だ」


 うちの物品解析姉さんのすすめに従い、地下の広間にあるその物体の近くまで移動する。


「やっぱりだ。マーちゃん、こいつは硬貨鋳造装置って鑑定に出てくるぜ。やってたのぁ偽造の方だろうけどよ」


 俺の鑑定によれば、目の前にある4メートル四方の四角い装置は、硬貨の鋳造装置であると出てくる。

 だが当時から辺境と呼ばれていたような場所であるここに、貨幣かへい鋳造ちゅうぞうする権限なんぞ無かったはずだ。デジコルノ家と組んでやっていたのは、脱税だつぜいに秘密の鉱山開発、とどめに金貨の偽造ぎぞうだろう。


「うむ。まさしく予想通りなのだ。文化遺産としては申し分ない。これは回収した方がいいだろうな。オシタラカン殿はそれで良いだろうか?」


 ここの正当な持ち主は、一応はとっつぁんの一族なのだ。それでマーちゃんもたずねてみたらしい。


「金貨の偽造をやってました、なんてことになったら領主家としての正当性まで無くなっちまいそうだ。俺は何も見てねえ。そいつは持って行きたきゃ、持ってってくれ」


 とっつぁんの答えの方も、こちらの予想通りだったので助かった。無かった事にされた方が丸く収まる物品に関しては、全部持って行けるようで何よりである。



====================


※お読みいただきましてありがとうございます。この作品について評価や感想をいただければ幸いです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る