第22話 ココハ放棄物件デス

「貴様らはここで何をやっている? それとも、掃除そうじ営繕えいぜんにでも来てくれたのかな?」


 俺たちにそう声をかけてきたのは、13人ぐらいのゴツい全身タイツの連中だった。

 気配感知に反応がなかったのは要注意だ。全員が後ろ暗い雰囲気だから、能力スキルは失っているに違いないが、あのピタピタに近い鎧は何かの機能があるに違いない。


「こりゃあ、お初にお目にかかりゃす。旦那だんな方はお城の方ですかい? 俺ぁ古い家系の出でしてね。おっしゃる通り、こうやって通路の整備をやってるんでさぁ。後ろのデカいクモもその関係でして」


 それでも、ようやく前口上担当の出番である。相手の嫌味いやみの様な質問に乗っかって、取りあえずは今思い付いた出鱈目でたらめを言っておいた。

 連中はここでやっと、後ろにいる黒クモさんに気がついたらしい。黙々と床と壁をがして転送する異形に注目したようだ。

 ちなみにマーちゃんの遮音しゃおん結界の方も解除されている。でないと俺の声が向こうに届かないからだ。


「ほぅ、見れば確かに普通の者ではないな。頭の灯りはトカゲが光っておるのか。そこにおる連中は顔まで真っ黒だな……何故今まで隠しておったのだ!?」


 連中は構えたがそこで止まった。こちらの話を聞いてくれる体勢になったらしい。

 声が老けてるから、それなりに爺さんなのだろうと思う。俺から言わせると頑張りすぎだ。


「何故って言われましてもね。印章がありゃあ、ここぁ罠も働かなくなりますぜ。お城の方々かたがたの方が詳しいんじゃねえですかい?」


 ヘラヘラとそう返しておく。相手の方はそれで緊張した様に見えた。印章については、自分たちしか知らないと思っていたらしい。


「減らず口を叩きおって。入り口が開いたのは貴様の所為せいだな? お前が何かしくじったのであろう!? お陰でこちらは犠牲者が出た。色々といてもらうぞ」


 名前も知らない爺さんから朗報を聞いた気がする。犠牲者が出たですと。


「反対側の通路にも罠の回廊があるのだな。良いことを聞いた。ところで、気絶の術でかまわないだろうか? 接近には気がついたが伝え忘れたのだ」


 頭上のマーちゃんからは、最早もはや懐かしい感じの念話が響いた。俺も気配感知を抜かれると思わなかったので仕方がない。一応は指タップで返事をしておく。


「へへへへ。その……犠牲者ってえとアレですかい? 猫背ねこぜひどくなったんで、どなたさんか腰痛で動けねえとかですかぃ?」


 やる気の相手にすごんだりしたら、節約中のカロリーが勿体もったい無いので、適当にあおりをいれておいた。

 それにしても、連中はどうして前傾姿勢なのだろうか。あの鎧は軽そうだ。


「警告はしたが、理解する頭が無いと無駄になるのだな。神の恩恵にすがらずとも、貴様をどうこうするぐらいは簡単にデウェ!」


 実に元気な爺さんだったが、台詞の途中で顔から床に落ちた。多分、神経の流れが止まったとかそんなだろう。後ろのお連れさん方も仲良く同じ状態だ。


 連中は能力スキルがされたら終わりだと勘違いしている。それで止まらない奴には、続いて運命への介入が待っているのだ。神に逆らって生きるのであれば、生まれた時からそれで押し通すぐらいの気合いが必要になる。


「凄い性能の鎧なのだ。これは良い拾い物をした。反対側の方も、今日中にあさっておいた方が良いかもしれんぞ」


 黒子さん達がゴツいタイツ爺さん達を転送する中、マーちゃんからはそういうご意見が出た。今度は肉声でだ。


「こいつらの死体と罠があんのか。それもお宝だよな。多分だが、表に出してねえ技術ってヤツだ。そんじゃあ、もうちょっと掘ってくか」


 うちのトカゲ姉さん的には、変わった品物と人間の標本が同時に手に入るわけだ。今回は、オマケの方が美味しいのではないかと思えてきた。


 黒クモさんは戻り、黒子さん達が道具をかつぎ直したところで、今度は後ろから誰かが近付いてきた。さっきの雷みたいな音を出した奴らで、おそらくは名前を知ってる人間だ。


「やっぱりマーちゃんがいるぜ。ケンチ! ここで何やってんだ。こそこそと金稼ぎか? とっつぁんをったらかしにして、テメエだけきたねえぞ!」


 やいのやいのと言いながら、近付いてきたのはソコルディのアホだった。後ろにはオシタラカンのとっつぁんや、デコとメガシンデルまでいる。






「とっつぁん。危ねえから、伯爵に会うのぁひかえるみてえな話になってたろぃ? それが何でここに来てるんでぃ」


 俺的には、とっつぁんが動くとすれば明日以降だろうと読んでいた。だから今日は、のんびり遺跡をがしているのだ。


「俺もな、まさかアイツがここまでたぁ思ってなくてよ。そんで、落とし穴に落とされてから、ソコルディに壁をぶち抜いてもらってここに来たわけよ」


 おそらく落とし穴というのは、あのガーンモーが飼われていた場所の上にあるのだろうと思う。ソコルディは、マーちゃんがふさいだ穴をぶち抜いて来たのだ。雷の様な音ではなく、アレは雷そのものの音だった。


「一応は聞いておきたい。ケンチはどこからこの城の地下に入った? これは違法行為ではないだろうな?」


 メガシンデルの奴は真面目だ。というよりは、こいつは法治の神の信徒だった。


「違うぜ、メガシンデル。ここぁな、届け出がされてねえ遺跡▪▪だ。1000年以上前の物で、城の地下と繋がってねえ。法的にゃあ放棄された物件と同じだぜ」


 ここは用意しておいた言い訳の出番だ。グズグズ言われても困る。


「ここには表沙汰おもてざたになると、国から糾弾きゅうだんされそうな物品の宝庫なのだ。そこで私が保管しておこうということになった。ケンチの提案だ」


 うちの第二共犯者姉さんからは、実行犯のリーダーはこいつですみたいな言われ方をした。それでも、放置しておけない物品は実際にあるので、これはこれで有効な言い訳だろうと思う。


「確かに、こんな場所があるのぁ俺も知らなかったぜ。そんなら、ここはマーちゃんにお任せするとしてだ。どうやってこっから外に出るんだ?」


 とっつぁんとしては、今はそっちの方が気になるのだろう。デコもいるからだ。


 マーちゃんは落ち着いたアルトボイスで、ここから転移で帰れる旨を全員に話してしまった。御使みつかいだとバレた時点で何でもありだから良いだろう。本当はヤバい方の異界生命体なのだが、こちらの世界での公式な身分が偶々たまたまソレになってしまっているのだ。


「今からなんだけどよ、俺たちゃぁ反対側の方までのぞいてこようって話になったんだ。とっつぁん達はどうすんだ?」


 誠意というものが無いと、ここは駄目だろうと思ったので、正直に話し正直に聞いた。


 そういうわけで、キラキラした目のデコを筆頭に、全員が遺跡探索に付いてくることになってしまった。



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