第41話 朝の至福
『蒼紀くん、おはようございます』
朝、電話のコールと、シャーロットの柔らかい声で目が覚めた。
昨日はシャーロットが部屋に戻ったあと隣の部屋にいるんだよなぁ、とか考えたらなかなか寝付けなかった。お陰で読書が大変捗った。
「おはよう」
『今から朝ごはん作りにいっていいですか?』
「もちろん、待ってるよ」
すぐに、インターフォンが聞こえてきたので、扉を開けると、昨日とはまた違って、白のワンピースを着たシャーロットが立っていた。
「お邪魔しますね」
「どうぞ」
シャーロットは部屋に上がると、早速キッチンに入って料理を始めた。昨日は部屋の確認で見られなかったが、今日は料理するシャーロットが見られる。
エプロン姿とか、なんだろう。もはや拝みたくなってきた。思わず写真に残したく…あ、俺ならいつでも思い出せるな。
『そんなことに異能を…』というユイの愚痴を聞き流して、ソファで今日の授業の準備を進めた。まもなく、朝ご飯が出来たとシャーロットから声をかけられる。
「美味しそう…」
ご飯、焼き魚、ベーコンエッグ、味噌汁、千切りキャベツのサラダと、実にご機嫌な朝飯である。
「どうぞ、冷めないうちに召し上がって下さい」
「いただきます」
シャーロットもエプロンを外してから、正面の席につくと食事を始めた。
「うーん。味噌汁、美味しい…」
「えへへ〜良かったです」
「最近1人飯ばっかりだったけど、こうやって2人で食べるほうが美味しいなぁ…」
「はい。私もなんだかとっても楽しいです」
うーん。いい。すごくいい。ラインナップとしては実に朝らしい堅実さながら、メニューの一つ一つに確実な工夫がされいる。想像以上に美味しい朝ごはんを、シャロと他愛もない会話をしながら食べた。
実に、至福の一時だ。
食べ終わったら、シャーロットが腰を浮かせて皿を片付けようとしていた。さすがに、料理を朝から作ってもらって片付けまでやらせるのは気まずい。それでも「私が洗います」と固辞するシャーロットから食器を受け取って、食洗機に突っ込んでおいた。
粉洗剤をスプーン1杯入れて、スイッチを押して食洗機を閉めながら、シャロにお礼を言う。
「すごく美味しかった、ありがとう」
「いえ!お粗末様です!」
「その…また…作ってくれると嬉しいなぁ…食材費はもちろん俺が出すし…毎日食べたいくらい美味しかったから…あっ!む、無理にとは言わないよ…」
「そ、そんなこと言われたら…私、まっ、毎日作りに来ちゃいますよっ」
「いいの?本当ならすっごく嬉しいんだけど…」
「ほ、本当に毎日来ちゃいますよ!め、迷惑とかじゃないですか?」
顔を真っ赤にしながらそんなことを言うシャーロットが可愛すぎるんだけど…。
「迷惑な訳ないじゃん!それでまたこうやってシャーロットと一緒に食事をしたいな」
「じゃあ、本当に毎日来ちゃいますからね!も、もう取り消しできませんよ!」
「うん。楽しみにしてる」
「私も…楽しみにしてます」
ボーンボーン、と時計が鳴った。8時ちょうどの知らせだ。ここから学校までは歩いて20分。8時半ホームルームなのでそろそろ家を出たほうが良いだろう。
「さて、そろそろ学校に行こうか?」
「そうですね…あ、あのっ…これっ」
そう言ってシャーロットが、俺に差し出してきたのは中に何か小さな箱状のものが入っている小さな手提げ。これってもしかして…
「俺に?」
「おっ、お弁当を…作ってみましたので…良かったら…食べてください」
※※※※※※※※※
昨晩、蒼紀の部屋を辞して、自分の部屋に戻ったシャーロットは、嬉しさのあまり、上がったテンションのままに優美へ電話をかけていた。
『はー!?蒼紀っちの部屋に上がったの?そんで料理を作って上げた!?』
「うん。蒼紀くん、喜んでくれたと思う」
『へ、変なことされてない!?』
「変なこと?」
『そう!エッチなこと!』
「エッ…って!!も、もうっ!…さ、されてないよっ!蒼紀くんは私にそんな感情抱かないって…」
優美はそんなことたぁねーだろ、と内心で思った。
今日一日でわかったが、優美の目からみても、蒼紀は明らかに親友に好意を持っている。しかも友人としてではなく、異性へ抱く好意を、だ。
少し何かでタガが外れたら、蒼紀は親友を押し倒していたかもしれない。そして蒼紀のことが好き過ぎるのに、その想いを無理やり抑えている親友は受け入れてしまうだろうことも容易に想像できた。
今日一緒に寮に戻ってきた阿久も全く同じ見解をしていて、こう口にしていた。
『河合も絶対、神楽坂さんのこと好きでしょ?さっさと付き合えばいいのに…』
阿久との会話を思い出して、今も思わず優美はそんな言葉を口に出しそうになったが…。同時に優美は、親友の抱えているいろんなものを思い出した。だから、そのことを口にはしない。
『よし!そこまで来たら徹底して攻めるべし!胃袋を掴めば男はまず屈服するから!朝ごはん作りに行くとかっ!』
「そ、それは…もう、約束した…」
『ヒュー!シャーロット大胆!よし!あとはお弁当も作ってやるんだ!シャーロットの料理を食べれば蒼紀っちなんてイチコロよ!』
※※※※※※※※※※※
「うわー!ありがとう!ありがたく頂くよ!」
俺がお弁当を受け取ったのを確認すると、シャーロットは椅子から立ち上がった。
「あの…蒼紀くんの好物とか…教えてください…明日からはその…そういうの入れます…」
「明日からって…もしかして、お弁当まで毎日お願いしちゃっていいの?」
「は、はい…蒼紀くんが食べてくれるなら…」
「食べる!食べます!」
「えへへ…じゃあ、頑張っちゃいます…って、そろそろ本当に行かないとですね」
「ああ、いこっか」
俺も椅子から立ち上がって、今受け取った弁当をかばんしまうと、悠里さんが買い揃えてくれたブランド物の上着を羽織って玄関に向かう。
「蒼紀くん、今日は晴れてて気持ちいいですよ」
エントランスからマンション正面の国道1号線沿いに出たシャーロットは嬉しそうにそう言った。
「そうだね、春っぽい陽気で過ごしやすいそうだ」
「今度、お花見でもしたら楽しそうですね」
「そういえば、芝公園にも桜が植えてあるから週末にでもお花見に行こうか?」
「ぜひ、行きましょう。週末まで桜が保ったらいいですね」
日本橋から大阪まで続く由緒正しい国道をシャーロットと話しながら歩くこと20分。本日より授業の始まる霞ヶ関高校にたどり着く。
俺たちは、始業5分前に席に着いたのだが、ほかのクラスメイトはみなすでに着席していた。
「ご両人、仲良く登校ですか!ひゅーひゅー」
「優美…そりゃ、同じ寮にいて別に来る方がおかしくないか?」
「デモぉ〜わざわざ2人で来る時間を合わせたんですよね?待ち合わせ?それとも…」
「お前…シャーロットから話を聞いててわざわざそれ言ってるだろ…」
「ちっ…バレたか…で『朝食を作って〜』って蒼紀っちはシャーロットに甘えたって訳?」
「〜〜っ!そっ…そんなところだよ」
「蒼紀っちもやるな〜」
頼んだのはたしかに俺なので、このことは言い逃れできない。だが、それをみんなに聞こえるようにバラさないでくれ…さすがに恥ずかしい…。
「ゆ、優美!あんまりそういうこと言うと、蒼紀くんに失礼だよ!」
「そんなことないよ!蒼紀っちもさ、シャーロットと仲良くなりたいんだよね?」
その答えをここで言うの、俺?
『誤魔化してはダメですよ。だいたいきらりがあんな風になったのは、こういうところでヘタレ過ぎたご主人様にも多分に責任がありますからね』
「それは…もっ、もちろん…そう…だよ…シャーロットと仲良くなりたい…よ」
「だーはっはっ。だってさ、シャーロット…って、おいおい蒼紀っちも顔が真っ赤じゃん?」
こいつまじで遠慮ねぇな。くそ。シャーロットなんか顔を手で覆って、机に突っ伏しちゃったじゃないか!
この後すぐに不動先生が教室に入ってきてホームルームを始めてくれたから、本当に助かった。
次の更新予定
俺の頭の中身が最強すぎる そこらへんのおじさん @ukimegane
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。俺の頭の中身が最強すぎるの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます