水子アブダクション

明日葉いお

水子アブダクション

 その日、高校帰りにゲーセンに寄った俺は、UFOキャッチャーの景品を抱えて、ほくほく顔で帰宅した。

 アームがクソ雑魚に設定されているのに、その日はなぜかぬいぐるみが吸い込まれるように取り出し口にやってくる。ワンプレイで4体落とした時は、一生分の運を使い果たしたのではないかと怖くなったほどだ。

 その日の夜。枕元に戦利品を並べて寝た俺は、夜中に目が覚めた。

 体が動かなくて、これが俗に言う金縛りかとボーっと天井を眺めていると、ぼそぼそと声が聞こえてくる。


「……ぼ。…んで」


 体も動かないのでどうすることもできずにいると、はっきりと意味のある言葉を耳が捉える。


「あそんで」


 あどけない女の子の声。

 背筋にゾクッと冷たいものが迸る。

 次の瞬間、上からヌッとこけしみたいな女の子が俺を覗き込む。ニタァと、怖気おぞけの走る笑顔を浮かべると、四方八方から子供の声が降りかかる。


 アソンデアソンデアソンデアソンデアソンデ


 せみのような高い声で、壊れたラジオのように無機質に繰り返す声。

 気づけば囲まれてしまっていたらしく、無数の小さな手が俺の全身を掴んで地面に引きずり込もうとしてくる。

 もうだめだ。絶望したその瞬間、バァン!とドアが開け放たれる。


「そこまでよ!」


 聞いたことのある声、修道院生まれで霊感の強いSさんだ。


「滅!」


 Sさんが十字を切ると、ロザリオから白い光があふれ出し、俺を取り囲んでいた子供達が消え去った。


「ふう。君についてた水子の霊が、ぬいぐるみに憑依したみたいだね。そのおかげで簡単に取ることができたんだよ。ひゅー、ひゅー! このモテ男!」

「なんでSさんがここに?」

「はい、クリスマスプレゼント。今年も良い子だったからね」


 タヌキのぬいぐるみを手渡し、ゲーセンで取ったぬいぐるみを回収して颯爽と立ち去るSさん。

 だけど今日は12月4日。

 修道院生まれってあわてんぼうだな……その時初めてそう思った。

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水子アブダクション 明日葉いお @i_ashitaba

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