馬力神

獅子2の16乗

馬力神

「ねえ、カエデ通りの近くの三叉路のに石碑があるって聞いたんだけど」

『うん、馬力神だろ』

「馬力神ってどんな神様?」

『えーとちょっと待って』


 うん、いつものことだけど、調べ物に打ち込んでるときの表情……かっこいい。


『神様っていうか、農耕馬を祀る碑だそうだ』

「人間の約10倍の力を発揮する馬を神格化してるのかしら?」

『うん……おそらくそう。それで実はそんなに古くないんだって』

『お目当ての碑は大正年間に作られたもので、まだ100年ちょっとしか経ってない、とのこと』

「ふ~ん」


『あの石碑がどうかしたの』

「うん、夜見ると女の人が子供を抱いてる姿が浮かび上がるんだって」

『え、石だよ? って言っちゃダメなんだろ?』

『よくできました。重位しげかたはおりこうさんね』


 待ってるんだけど!


『今夜行ってみるか?』

「うん、行こう」


『ハイハイ沙羅さら様、ご案内させていただきます』


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 これがそうか。


https://kakuyomu.jp/users/leo65536/news/16818093082736701775


「うーんと、馬という文字の左側の黒ずみが髪かな。そんでもって、馬という文字が草書体になってて、鼻と口」

『右を向いた女の人に見立てると』

「力という字が子ども………まだ首が据わってないかな?」

『そういう大きさといえばそうだね』


『調べてみたんだけど、この地区に乳飲み子を抱えた女性にまつわる悲しい物語、伝承はないみたい』

「じゃあ、やっぱり石の模様と草書体のポジショニング、偶然の産物なのかな」

『“偶然”を証明することは難しい……ほぼ不可能だから“偶然の産物”とは言い切れないよ』

「変な気休め」

『まあ、こういう三叉路って魔が入り込みやすい、憑りつかれやすいということだから、その辺から発生したんじゃないかと」



『おい、お前ら心霊スポットでイチャイチャしやがって。目障りなんだよ』

『言ってるそばから魔に憑りつかれた』

『魔? ここでお前ひとり倒れてたって馬力神の呪いってことにできるよ、フォロワー1万人の俺なら情報を操作できる』


『どうする沙羅、俺一人倒して沙羅は連れ去るつもりらしいぞ。魔じゃなくて誘拐犯だったか~怖いな~』


「別に~私は怖くないよ」


『おい、女は俺たち男に黙ってついて来ればいいんだよ。ほら、こっち来い!』


 あーあ、沙羅、ああいう物言いが一番嫌いなんだよな。


「そーお?」


 出た。いつもながら怖いぐらいに切れがある体術だよ。


『おい、なに勝手に転んでんだよ』


 あいつら、転んだとしか見えないんだね。

 昔、あの二人を助けたときと同じ、完全に沙羅の術中にはまってるよ。


『おい、お前あのスケ連れてこい』


 “スケ”なんて死語を使う君らが怖いよ。

 でもやっぱり無理だろうな。


『お前まで勝手に転ぶなよ』


 昔、あの二人を助けたときより切れが増してるよ。


「どうするの、取り巻きさんの3人の内2人は潰れたよ。もう引き下がったら?」


『うるせー、わからせてやる!』


 どっちがわからせられるかな?

 沙羅の足は普通の足踏みをしてるようだけど、重心は絶妙に八の字を描いてる……いつも以上の、怖いくらいの冴えだな。

 あの男のほうは……運動エネルギーの無駄遣いとはあれをいうんだな……あの手合いの典型の“怖くない”

 あ、極まった。


『へぶし』





「重位のいう通り、魔が入り込んできたよ……というか、あんな弱虫チンピラじゃなくて、もっと魔としての誇りを持った奴はいないのかね」

『相変わらず怖いくらいに冴えてるね』


「あー言ってはいけないことを。バツとして、あそこで――」


 怖いねー

 うれしいけど。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ご訪問ありがとうございます。


 出演

 ともえ 沙羅さら

 伊勢いせ 重位しげかた


 拙作「ねえ、これちょうだい」第65話 招かれざる男◆side琴菜◆ より









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