犬を飼ってはいけない
坂本 光陽
犬を飼ってはならない
大学時代の友人Tから聞いた話である。
愛知県の三河湾には、いくつかの離島がある。その中の一つ、篠島は観光地として知られる美しい島だが、昔は犬が一匹もいなかったらしい。犬を飼ってはいけない、という取り決めがあったためだ。
その取り決めの成立には、島の氏神様が大きく関わっている。
ある時、
それ以来、島民は犬を飼わないことにした。その取り決めは厳守されたという。
もっとも、それは半世紀以上も前の話である。令和の島民は犬を飼っているし、観光客が篠島にペット犬を持ち込んでも問題はない。
Tによると、犬を飼ってはいけない離島は、篠島の他にもあったらしい。ある島では、平成になっても、犬に関する取り決めが守られていた。
こっそり仔犬を飼っていた家族は、それを知られたために、島民から村八分にされた。話しかけても無視されるし、食物や商品は何一つ売ってもらえない。仔犬を他県の親戚に譲っても、つらい状況は変わらなかったという。
村八分が続いた上に、家が火事になったため、その家族は島から出て行った。ちなみに、放火の疑いが濃厚なのに、島の警官と消防は火の不始末として処理したらしい。
それだけではない。犬のぬいぐるみや犬のキーホルダーを持っていただけで、同じような仕打ちを受けることもあった。最初は睨まれたり無視されたりする程度だが、そのうち石を投げられたり、「さっさと島を出ていけ」と罵倒されたりするようになる。
島民が犬を毛嫌いする理由は、篠島と同じだった。氏神様が犬を嫌っているから、ということに尽きる。犬が好きな人間を野放しにしておくと、島全体が氏神様の祟りを受けてしまう。船が沈んだり災害が起こったりして、島民が多大な被害を受けてしまうというのだ。
そして、ついに、深刻な事件が起こった。苗字に犬のついた観光客が島にやってきた時、島民が集団リンチを行い、意識不明の重体にしてしまったのだ。大人数が逮捕された上に、多くの島民が島を後にした。
不況が続いたこともあり、島の人口は激減し、令和の今は無人島になっている。
相変わらず犬はいないが、祟りを受ける島民もいなくなったのだ。
了
犬を飼ってはいけない 坂本 光陽 @GLSFLS23
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