第2話  第12世界滅亡防止会議

 神楽連合第12世界支部の神々によって、第12世界滅亡防止会議が開始された。


すると、沈黙を貫く他の神々に向けてアテナが大きな声で仕切りだした。


「今、世界中で巻き起こっている怪事件の数々、これは怪異達による我ら神への暴動と考えていいでしょう。今回は怪異達の制圧を目的に、我々がどう行動を起こすのかを決定したいと思います。」


会議の司会はアテナが務めるらしい。


議題は、世界中で増加し、甚大な悪影響を及ぼしている怪異達による"怪事件"についてだった。 

 

アテナが言った通り、世界中で巻き起こる怪事件が原因で世界の秩序が乱れ始めている現状を改善するためには、怪異達を制圧する必要があった。

 

 怪事件とは、人間が科学的に解明することが不可能な迷宮入りの事件のことを指す。


それらのほとんどが世界各地で人間達を襲う妖怪や幽霊などの怪異が原因であった。


その件数がこの100年のうちに急激に増加し、世界が発展していく裏で少しずつ人間の数が減り、世界の秩序が乱され、世界の滅亡がだんだんと近づいてしまっているのだ。


「全部で25ある世界の中で、我々第12世界が一番に発展している。この世界が滅びてしまったら他24の世界にも悪影響を及ぼしてしまう。運が悪ければ、全世界消滅も覚悟しなければならないぞ。」


 アテナの次に口を開いたのは北欧を統治する戦争と死の神、オーディンだ。


漆黒のスーツを着こなし、なぜか片手に缶コーヒーを持つ姿は重役の会社員のような風貌だ。


彼は世界が終末を迎えた後の影響をとても心配しているようで、世界の消滅自体には興味を持っていないようであった。


なにか裏で考えていることがあるのか、それとも死の神であるからこその覚悟なのかはオーディン自身にしかわからない。


「はるか昔、日本の江戸と大阪の間を様々な妖怪や鬼達が練り歩く『百鬼夜行』と呼ばれる大規模な暴動が起き、日本は危険にさらされました。ですが、一晩もかからずに私達、日本支部の神々のみで制圧することに成功しました。なので特定の地域で怪事件が起きた場合、そこを管理する神が責任を持ち怪異を制圧すればよいのではないでしょうか。」

「おい、それじゃあこの問題は解決しねぇぞ。」


 我先にと解決案を提示したのは、日本を統治する太陽神、アマテラスだ。


日の出を模した髪飾りと鮮やかな十二単を着たおしとやかな格好で、彼女は江戸時代に勃発した百鬼夜行の話を語る。


かの有名な百鬼夜行を制圧した実績のあるアマテラスの案は妙に説得力があった。


しかし、その提案を否定した神が身を乗り出した。


冥府を支配する女神、ハデスだ。


黒いドレスに身を包み、頬杖をつきながら彼女はアマテラスのことを睨む。


「あのな、アマテラス。問題の怪異達は、古いあやかしやもののけとは比べ物にならないくらい複雑で強力になってるんだよ。数だって多いし頭が切れる怪異だってうじゃうじゃいる。それに、お前が統治する日本支部みたいに神がわんさかいる地域も少ない。複数の地域を一柱で管理する神もいるのに、それは非現実的でしかないだろう?」

「そんなかっかしないのよハデス、アマテラスちゃんも困ってるし。あんまりカリカリしてるとシミが増えちゃうわよ。」


 白く透き通った肌を持つハデスの口を閉ざそうと、何故か大胆な水着姿の神が気だるそうに口を挟んだ。


それはハデスの実の妹、海の神ポセイドンだ。


彼女は隣に座るハデスの唇に人差し指をあてがい、しーっと呟いた。


それに腹を立てたハデスはポセイドンの手をはたいて声を荒げる。


「余計なお世話だポセイドン!大体お前ははいつも実姉の私に楯突いて、身の程をしれ!!」

「静粛にお願い致します、ハデス様。」


 大声を出すハデスをなだめるように、メイド服を着た神の従者、カリストが立ち上がった。


カリストの言葉を聞いたハデスは、舌打ちをして豪快に椅子へ腰を下ろす。


「ゼウス様、そろそろご決断をお願いします。」

「・・・わかった。」


 カリストが視線を向けた先には、ハデスとポセイドンの実妹で第12世界を統治する至上神、ゼウスがゴスロリの衣装で銀色の髪を揺らしながら

腕を組んでいた。


発言権を譲渡された幼い身体の彼女は、一呼吸置いてから静かに口を開く。


「私は、怪事件の解決を専門とする新しい神の誕生を決定します。」


ゼウスの言葉を聞いた神達は次々に驚きの声を上げた。


誰もかもがゼウスの答えを全然違うものと予想していたようであった。


皆が動揺を抑えられずにいると、さっきまで険悪な雰囲気だったハデスとポセイドンが急に立ち上がり、二人揃ってゼウスのそばまで駆け寄った。


「おい、本気かよゼウス。」

「今新しい勢力を作っちゃったら、神々の間で戦争が起きちゃうかもしれないのよ?」

「それは大丈夫よ姉さん達。地球の人間の中から1人、私が直々に選んだ人間を新しい神として迎え入れるから。」

「俺は反対だぜ。」


心配する実姉達をなだめるゼウスに立ちはだかるように、また一柱の神が声を出した。


群青の肌に第3の目、4本の腕が目立つ彼は、インドを統治する破壊神のシヴァだ。


「この十数世紀の間、このメンツでやってきたんだ。いまさら新米を入れたって、お荷物にしかなんねぇぞ。」  


シヴァは第3の目で円卓に座る神々を見渡しながら、不機嫌に呟いた。


彼は、ゼウスの提示した答えに相当な不満を持っているようだ。


「私達だけで世界を動かした結果、滅亡の危機が近づいてしまっているんです。この問題は私達だけでは解決しません。そろそろ我ら神楽連合にも、新しい風を吹かすべきじゃあないですか?」


ゼウスがシヴァを睨みながら言い返すと、シヴァもゼウスの顔を睨みつけた。 


「だいいち、俺は人間を神にすることが許せねぇんだ。あんな忌々しい生物と、一緒に仲良くできるかってんだ!」


ぶつかり合う視線の間には、ばちばちと大きな火花が散っている。 


すると、それをみかねた2柱の神が右手を挙げながら口を開いた。


髪飾りが目立つアマテラスと、空の缶コーヒーを片手に持つオーディンだった。


「私は賛成です。仲間が増えて困ることはないですからね。」

「私も、この小娘と同意見だ。どうだシヴァ、長くなる前にそろそろ折れたほうがいいんじゃないか?」


 オーディンがシヴァに向かって賛成を促すと、シヴァはしばらく沈黙を続けた後にため息を吐き、右手を挙げた。


「ハァー、どうなっても知らねぇからな。」


 その言葉は、賛成の意味を持つ発言だった。


「それでは、この案が賛成の方は挙手をお願いします。」


 シヴァが挙手をしたあと、アテナが全員に向けて賛否の多数決を取り始めた。 


すると、間を置かずに円卓に座る全ての神々の手が挙げられた。


その中にはもちろん、ハデスやポセイドンの手も混じっている。


「全会一致で案が議決されました。これにて、第12世界滅亡防止会議を終了します。」


世界の命運をかけた会議が今、終了した。


「解散。」というアテナの一言で、神達は各々が管轄する地域へと飛び散った。


ゼウスとカリストの2人はしばらく円卓に座り込んでいたが、他の神が全ていなくなると2人も自身の持ち場へと移動して消えた。


誰いなくなった空間には、再び静寂が訪れることになった。


 

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ブルーワールドナイトメア〜"神様"となった僕の仕事は『怪事件』の解決でした〜 月雲とすず @tukigumots8

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