Lagica台本

@hajobato

神様になれる部屋

Lagica

「神様になれる部屋」


所要時間

 20分〜30分


必要配役数

 「3人〜4人」

 男性0〜3 女性1〜4 


登場人物

・少年A(♂)・・・口の悪さと素行の悪さが目立つ好奇心旺盛な少年。

・少年B(♂)・・・やや臆病だが冷静で従順な賢い少年。

・少女(♀)・・・普段は明るく活発だが、時に闇深い一面を見せることもある少女。今回の主人公。

・クジラ(?)・・・空を飛ぶ謎のクジラ。現実離れした存在でミステリアス。


備考

 ・少年A及びBは性別不問。台詞を改変し女性として扱っても面白いと思います。

 ・クジラは性別不問。少女との兼役も可。




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「神様になれる部屋」

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(ある日の昼。学校にて)


少年A「なあ、今夜さ。あのウワサが本当なのかどうか調べに行こうぜ」



少年B「えぇ?調べに行こうって……深夜に家を抜け出すってこと?」



少年A「そう、抜け出すんだ!夜中まで待って、こっそり家を出てすぐに帰ればバレないって!」



少年B「う〜ん、そんなに上手くいくかなあ……」



少年A「もしウワサが本当なら、なんでも願いが叶うんだぞ!!」



(少年たちの会話に聞き耳を立てていた少女が輪に入ってくる)


少女「さっきからこそこそ、何の話をしてるのー?」



少年A「げ、聞かれてたか……よりにもよってお前に……」



少年B「のウワサ、知ってる?」



少女「神様になれる部屋?」



少年A「おい、こいつに話すのか?」



少年B「まあ、別に話してもいいんじゃない?ただのウワサなんだし」



少年A「そりゃまあ、そうだけど……こいつは頭がおかしいから、ウワサを知ったら何するか分かんねーぞ」



少女「頭がおかしいって何!私じゃなくて、みんなが変なんでしょー!」



少年A「そういうとこだよ……はぁ」



少年B「学校裏に橋がかかってるよね?あの橋を渡って暫く行くと空き地があるんだけど……夜中にそこに行くと大きな船があるんだって」



少女「船?」



少年A「おう。そんでその船に乗ると神様になれる部屋に連れて行ってくれるんだってよ」



少女「ふーん、神様に……」



少年B「よくある話さ。そこに行けば、なんでも願いが叶えられるってウワサ」



少年A「なんでも、だってよ!なんでもだぞ、なんでも!行くしかないだろ!!」



少女「なんでも、かあ。そこに今夜二人で行くんだ?」



少年A「お前、結構しっかり聞き耳立ててたんだな」



少年B「夜に家を抜け出して……もしバレたら父さんにめちゃくちゃ怒られるよ」



少年A「まだ迷ってんのかよ?まあ俺は誰も着いてこなくても行くけどよ」



少女「私も連れてって」



少年A「はぁ?」



少女「私も、連れてって!」



少年A「おいおい……俺たちはまだしも、お前は」



少女「(遮って)大丈夫。大丈夫だから連れてって」



少年B「……(深く考え込む)」



少年A「……はぁ。分かったよ!連れてってやる!」



少年B「……僕も行くよ。二人だけだと心配だしね」



少年A「よーし!んじゃ、役者は出揃ったな!それじゃあ今夜、家を抜け出して集合な!」






(深夜。家を抜け出してきた一行が学校に集まる)


少年B「思ったよりも冷えるね……厚着してきて正解だった」



少年A「無事に抜け出せたか?」



少女「余裕〜!」



少年B「急いで出てきたせいで、家の鍵をかけ忘れちゃったよ」



少年A「ま、願いを叶えてさっさと帰ればバレないさ!そんじゃあ、出発!」



少女「神様になれる部屋、かあ。楽しみ〜」



少年B「あくまでウワサ、だからね」



少女「分かってるよ!」



少年A「ま、もし本当ならスーパーラッキー、だな!へへ、どんな願いにしてやろうかなぁ」



少年B「しょうもないことしか願わなさそうだよね」



少年A「しょうもなくなんかねーよ!なんだと思ってんだ俺を!」



少女「はいはい、喧嘩しないでね〜」






(学校の裏からしばらく歩き、一行が橋に差し掛かる頃、少年Aが口を開く)


少年A「……なぁ、なんだか今日はやけに暗くないか?」



少年B「夜に出歩かないからわからないけど、学校裏のこの辺は家もないし、明かりがないからこんなもんじゃない?」



少女「いや、私も妙に暗く感じる。……かな」



少年A「そう……だよな。曇ってて月の明かりが届きにくいのかな」



少年B「曇り?今日の天気は一日中晴れのはず」



少年A「(遮って)おい、待て!違う!雲じゃない!!見ろ!!」



少女「なに……これ……?」



(そこには、月明かりを遮るように空を遊泳する巨大なクジラの姿があった)


少年B「クジラ……?クジラが空を飛んでる!?……あり得ない、こんなことが」



少女「(遮って)飛んでる方向……空き地の方!!」



(少女はクジラを追って走り出してしまう)


少年A「あ、おい!一人で走って行くな!!……くそ、追うぞ!」






(少女とクジラを追って少年たちは空き地の目前までやってくる)


少年B「はあっ、待って……よ……はあっ」



少年A「くっ……はあっ、ようやく追いついた……もう目の前が例の空き地だ。くそ、足はえーな……」



少年B「あのクジラ……やっぱりウワサに関係する何かなのかな」



少年A「わざわざウワサの空き地まで飛んだんだ。間違いないだろ」



少年B「……まさか、本当に?あ!おーい!僕たちを置いて行かないでよ!」



(少年Bが少女を空き地の中心地で見つけ声をかけると、少女はゆっくりと振り返る。少女の前には先ほどのクジラが浮遊している)


少女「……二人とも」



少年A「おいおいおいおい、なんだよコイツは……まるっきりクジラだけど……」



少年B「クジラだね。浮いてる」



(クジラは一行を一瞥すると、その巨大な口を開く)


クジラ「やあ。こんばんは」



少年A「おわ!?喋った!?」



少年B「喋ったね……信じられない」



クジラ「信じられないかい。目の前にその存在があるというのに」



少年B「……一体、あなたは何者で、どういった存在なのですか?」



クジラ「うーん、説明が難しいね。僕はこの箱庭はこにわ管理者かんりしゃであって、芽が出た種を正しい場所に移す存在だよ。観測者かんそくしゃであり、保護者ほごしゃであり……そうだね、君たち向けに言えば、神様。かな」



少女「……神様」



少年A「ん?お前が神様?……ウワサに関係してると思ったけど、ウワサの内容とは随分ずいぶん違うみたいだな」



少年B「意味の分からないことばかりで、異様いような存在には変わりないけど……ウワサと照らし合わせると、このクジラが大きな船ってことなのかな?」



クジラ「船?ああ、君たちは神の部屋のウワサを聞いてやってきたんだね」



少女「そう!私たちは願い事を叶えたくて、ここに来ることにした。そしたら、あなたが空を飛んでいて、ここに降りた」



クジラ「そうか、なるほど。まあ、僕が見えているというのなら、君たちはだということだ」



(クジラが穏やかな光を放つと少女は目を輝かせる)


少女「あなたが神様なら、あなたが私の願いを叶えてくれるの?」



少年A「そうだ!神様ってんならそのぐらい出来そうだよな!」



クジラ「悪いけど、今の僕にそれだけの力は残されていないんだ」



少年B「残されていない?」



クジラ「うん、以前はあったのさ。それだけの力が。神の部屋にいれば好きなようにその力を行使こうしできていた。ところが十年ほど前から突然、神の部屋は僕の制御せいぎょを離れ、僕は神の部屋を扱う権能けんのうを失った。今の僕は、ただ空に浮かぶちょっとおかしくて物知りなだけのクジラさ」



少年A「なんだよ。それじゃあ結局、願い事は叶わないのかよ」



少年B「でもウワサは本当だったんだ。少なくとも以前は願いを叶えられたわけだし」



少女「(小声で)神の部屋にいれば、好きなように……。神様になれる部屋のウワサ……」



(少女は呟き、暫く考えた後、ハッと顔を上げた)


少女「ねえ、クジラさん。私をその神の部屋に連れてってくれない?」



クジラ「……神の部屋に?君を?」



少女「そう!」



クジラ「いいよ。でも、あそこにはもう何もないよ」



少女「それでも行ってみたい」



クジラ「じゃあ僕の背に乗って。振り落とされないようにね。君たち二人はどうする?一緒にくるかい?」



少年B「危険な場所じゃないのかな」



クジラ「まあ、危なくはないと思うよ。多分ね」



少年A「なら行くしかないな。ここまで来たんだし、知らずに帰るわけにもいかないよな」



少年B「……分かった。不可解ふかかいな現象ばかりで気になるし、僕らも行こう」



クジラ「それじゃ、行こうか」



(そうしてクジラの背に一行が乗ると、ふわり、ふわりとクジラは空へと舞い上がっていった)







(暫く空を舞うように泳ぐと、目的地に着いたようで、その場所には空を切り取ったかのような不思議な半透明の空間があった)


少年A「すっげーな!空を飛ぶのって気持ちいいな!街がすげえ小さかったぜ!」



少年B「結構……かなり怖かったけどね」



少女「不思議な場所……ここが神の部屋?」



クジラ「そうだよ、空中に浮いているこの半透明はんとうめいな空間こそが神の部屋。以前はここにいる間は何だって出来たんだ」



少年A「何だって……か。どうやってたんだ?」



クジラ「こうしたいという気持ちを思い描いて、口に出せば良かったんだ。それだけでこの神の部屋から世界を変えられた。今はもう出来ないけどね」



少年A「むむ……俺の財布が金でパンパンに……!」



少年B「なんて俗な願いなんだ……」



少年A「うるせえな!あって困らねえだろ金は!!……しっかし、ダメだな。願ってみたけど叶わねえや」



クジラ「君たちはだからね。たけに合わない願いはともかく、小さな願いくらいだったら叶えられるかもしれないね」



少年A「本当か!?って、俺の財布が金でパンパンになることすらたけに合わないってか!?」



少年B「小さな願いならもしかして、か。……『家のかけ忘れた鍵をかけ』」



(少年Bが口に出したその瞬間、激しい頭痛が少年Bを襲う)


少年B「ッ!?ッぐ……うァ!?」



少年A「おい!?どうした!!」



(少年Bの様子を見て、クジラは目を丸くする)


クジラ「……驚いた。成功したみたいだ」



少年B「んぐッ……はぁッ!はあっ……」



少年A「お、おい。大丈夫かよ」



少年B「だ、大丈夫……なんだか、頭に、家の鍵がかかるような、イメージが、流れ込んで、きて……はあっ」



クジラ「世界の形が君の願いに合わせて変動へんどうしたんだ。今、君がという事実は改変かいへんされて世界に変動へんどうした」



少年B「そんなことが……?」



クジラ「本当に驚いた。君たちがそういう時期であることをかんがみても、願いを叶えるだけのエネルギーはないと思っていた……」



(クジラは唸りながら首を傾げる)


クジラ「ならばにいればを振るうことができる。でもそれは神の部屋を制御せいぎょする権能けんのうがなければいけない」



(クジラは大きく唸ってその巨体を捻る)


クジラ「やっぱりおかしい。エネルギーはあっても、今の僕には権能けんのうがないから神の部屋は機能きのうしないはず。小さな願いならもしかして、なんて冗談じょうだんのつもりだったのだけれど」



(おかしい、おかしいとクジラは唸り続ける)


クジラ「この部屋に権能けんのうが存在していないと世界は変動へんどうしない。この箱庭はこにわのルールのはず。……まさか」



(突然、猛烈な力の突風が吹き荒れると同時に、目が霞むほどのまばゆい輝きが周囲を包む。)


少年A「ぶわぁッ!?なんだこの突風!?」



少年B「うッ!?ま、眩しくて目が……!!」



(あまりに強く、激しい輝きは夜だというのにあたり一体を昼のように染め上げる)


クジラ「あぁ……十年ほど前に突然失われた僕の権能けんのう。なるほど、失われたあの時。君に権能けんのうが帰っていたんだね」



少年A「な、何言って……おィ、訳わかんねえぞ説明しろ!!」



クジラ「芽はとっくに出ていたんだ。そして、僕がそれを正しい場所に運んだ。僕に与えられた役目は終わったんだ」



(クジラが満足げに唸り、輝きの中には少女の姿が見える)


少女「……ねえ、やっぱりウワサは本当だったんだよ」



少女「ここは、だったんだ!」



少年A「あァ!?か、神様はそこのクジラのことなんだろ!?」



少女「んー?クジラさんは願いを叶えられないんでしょう?じゃあ、もう神様じゃないじゃん」



少年B「一体、何がどうなって……!」



少女「私ね、この部屋でお願いしたんだ〜。…んー?違う。お願いじゃない。決めたんだ。『私が神様になる』って!!」



少年A「神様になる!?おい、めちゃくちゃすぎるぞ!」



少女「私、ずっとずっとお願いしてた。辛い時に。どうか神様。助けて、って。でも、助けてくれないんだもん。じゃあさ、それならさ、私が神様になっちゃおうって思うんだ。そしたら、私自身のことも、私みたいな人も、助けてあげられるね」



少年A「ぐ……クソッ、風が……!!うわああああアアアァッ!!」



(突風に耐えていたものの、少年Aはついに耐えきれずに吹き飛ばされ、広い、広い空へと投げ出された)


少年B「ばか!こんな所から吹き飛ばされたら、死……!!」



少女「あはははは!すごい!すごいすごいすごいすごい!私、本当に神様になったんだ!!」



(まばゆい光に焼かれ、全てが無へと帰っていく中、クジラはその身を焼かれながらも喜びを表現するかのように空を泳ぐ)


クジラ「あぁ、世界が変動へんどうしていく。君によって変えられていく。何もかも、君の思うがままの世界に」



クジラ「おかえりなさい。僕の神様。変動へんどうの魔女、クラムルート」

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