第51話 孤児院にて case-11

翌朝、目覚めた一行はその水辺を基地にして、食料集めを始めた。


10日間は自分たちで食料を調達しなければならない。今回の授業では食料の携帯は初日の分のみ認められていた。


四人で話し合った結果、パプリカとモニカは狩りに出かけ、シルファとローズマリーは木の実や山菜、キノコを集めることになった。


シルファと一緒にいたいというのがローズマリーの希望だったし、彼女は家柄的に香草をはじめとする草花に知見があった。


パプリカは以前にシルファに狩りが得意なことを認知されている。モニカが肉を食べたいといったから、ペアにされたわけである。


「パプリカはどうして聖女になろうと?」

モニカは臆面もなくパプリカに質問攻めをした。


「...」

パプリカは彼女に適当な返事をしつつ、森の中に耳を傾ける。

暗殺者であることがバレるわけにはいかないが、実は狩りそのものは好きなのだ。

彼女の手にはスリングショットがある。孤児院の少年から期間限定で貸与してもらっている品である。


「本当にそんな武器で仕留められるの?パプリカが見つけて、私が追いかけ回した方が可能性あるんじゃない?」

モニカは狩りに積極的だ。


「...静かに。」

パプリカはモニカの動きを身振りで止めるとスリングショットを構える。


彼女は遠くに見える木と木の間に向けて、それを放った。


「ちょっといくらなんでも遠すぎない?」

モニカはパプリカがスリングショットを放った方向に目を凝らしてみたが、獲物を発見することはできなかったらしい。


「...仕留めた。」

パプリカはそう呟くと、モニカに目配せする。


二人は獲物のいる方向に歩くと、丸々と太った鳥が倒れている。

「おいおい、まじかよ。美味しそうじゃんか。」

モニカははしゃいでいる。


「今日はチキンが食べられる。」

パプリカは淡々と血抜きを始めた。



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その晩、一行はサバイバルとは思えぬ豪華な食事に舌鼓を打っていた。


「このキノコ案外いけるわね。」

シルファは自分が採取してきたキノコをもぐもぐしながら言った。

パプリカはその様子を訝しげに見ている。


「どうかしたの?」


「いや、異常がないかシルファを観察している。」

パプリカは実際に自分にあてがわれたキノコには手をつけていない。


「ちょっと、人をなんだと。」

シルファはキノコを吹き出しそうになりながら、パプリカ非難の目を向ける。


「お待ちかね。鳥の香草焼きができあがったぜ。」

じゃれあっている二人がそうこうしていると、モニカが大きな鳥を料理して持ってきた。


「ちょっと、一番美味しいところはシルファ様のよ。」

ローズマリーは、よいしょに余念がない。


モニカは器用に切り分けると皆は思い思いに食事を楽しんだ。


「たまには悪くないわね。こういうのも。」

シルファはパプリカに微笑む。


「ええ。そうね。」

パプリカは静かに肯定した。


「それにしてもパプリカはすごい。聖女じゃなくて、狩人になった方がいんじゃないか?」

モニカは今日の狩りについて、ローズマリーに語っている。


「おおげさね。そんなに遠くの的を射抜けるわけないじゃない。あなたの見間違いでしょ。まあ、パプリカさんには感謝だけど。」


「パプリカなんとか言ってやってくれよ。確実にあれは人間技じゃなかったって。」


「たまたまよ。」

パプリカは控えめに述べる。


「実際どのくらいの距離まで獲物を狙うことができるの?」

シルファは尋ねる。


「動かない的なら、そこそこの距離まで狙える。」

パプリカは端的に答えた。


「ねえ、どこでそんな訓練を受けたの?」


「それは言わなければならない?」


「そうね。教えてくれると、もっとパプリカのことを知れて嬉しいなって思ってる。」

シルファはパプリカにも怯まずに追求した。


「そう。まあいいわ。私は...」

パプリカがそこまで話した瞬間、近くの森の茂みから物音が鳴った。


一同はすぐに警戒体制にはいる。

「ちょっと、こんな遅くに誰よ。」

ローズマリーは自分の短剣を抜いて悪態をついた。


徐々に近づいてくる物音に一同は息を呑む。


「晩御飯が向こうからやってきたかな。」

モニカは緊張を解すためか軽口を叩いて、側には斧状の武器を構える。


そんな一行の予想を裏切り、茂みから飛び出してきたのは、クラスメイトだった。

以前、パプリカをいびろうとしてシルファに諌められた子である。


彼女は茂みから飛び出すとすぐに4人を見回して、シルファに飛びついた。


「シルファ様、助けてください。私たちのチームが、みんなが。」

彼女はひどく錯乱をしている様子である。


シルファは縋り付いてくる彼女を包み込むと尋ねた。

「こんなに急いでどうしたの?チーム間の接触はルールに触れるけど、緊急事態なの?」


「襲われたんです。」

彼女は恐ろしいモノを見てきたという顔をしている。


「襲われたって何に?」

シルファは冷静に尋ねた。


「魔獣です。もうこの森にはいないはずの魔獣にです。」

彼女の必死な訴えは森の中にこだました。


パプリカが空を見上げるとポツリと雨が降ってきた。

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パプリカの受難  @kinakomochi12

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