第6話

 苔でできたウミウシみたいな手触りの良さそうな生き物が、ふんふんなるほど、と相槌を打ちながら話を聞いている。

 俺たちはグルグルの言う『宗教的中立宙域にある僻地の星』に無事到着し、その衛星のうち入星審査みたいなことをしている星に留め置かれて聴取を受けていた。

「ところでこの星の公用語は十二あって、グルグルさんの母語とは直接翻訳できるけどアムさんのはうちの星にデータがないんですよ。だからグルグルさんの脳にバイパスもらって二段翻訳してるんですけど、アムってどんな意味なんですか? イメージ持ちたいです」

「秋の麦。秋は季節、麦は穀物です。秋が実りの季節なので、俺のいた土地てきには組み合わせは変じゃないです」

「なるほど。私はまた、グルグルさんがお名前をつけたのかと」

 何て? と聞き返そうと思ったがその時別の草ウミウシたちが俺たち二人それぞれの留置手続きをしに来たので、話はそこまでになった。


 留置星でグルグルと俺は並んで寝転んでいる。個室監禁じゃなくてよかった。それで俺は草ウミウシの言葉の意味を聞いてみた。

「ああ、それは多分ね」

 格子の入った窓から幾つかの衛星を見上げつつグルグルは言った。

「ニムイ教団ウルで用意した自動翻訳システムは固有名詞をなるべく『翻訳』してしまわないようになってるから、秋麦あむにも僕の名前はグルグルに聴こえるでしょ。グルグルは僕の母語で混沌とか渦巻き、混乱って意味。これはニムイの前に僕の星で信仰されてた神話に出てくる名前で、動詞にもなって言語の中に残ってるから弾圧もされないんだ。同じようにアムも神話に出てくる。アムは光。

 ひとりぼっちの混沌グルグルは真っ暗闇の中で長いあいだ祈って祈ってアムを得て、一緒に世界を創ったんだよ。一説には混沌グルグルは、自分の腕をちぎり闇と混ぜ合わせてこれを友達にしようと思い、アムと名前をつけたらそれが光になったのだとも言われてる。

 だから彼女、ひとりぼっちになったグルグルが異星人を拾った時に神話にならってアムって名付けたんじゃないかと思ったんだろうね。深読み過ぎではあるけど、僕らの星の古い神話を知っててくれて嬉しいかも」

 俺は何とも返事ができなかった。ていうか草ウミウシあれは彼じゃなく彼女だったのかよ、とも思ったし、無理矢理の当て読みが読みにくくてハジメマシテの環境になるたび説明がダルかった俺の名前がすごく分かりやすくなってしまったことにほっとしたりもした。それは予想外に嬉しいことで。

 ヤベェな、と思う。

 死後の世界で嬉しいとかアリなんかよ、と思う。

 その俺に、隣のグルグルはくふくふと笑って言うのだ。


「君は僕のアムってことか。秋麦アム、僕ら、新しい世界を見たいね」


 そして俺の脳裏には幼い頃に覚えた歌がまた漂ってくる。



ひかりひかり

わたくしたちは ひかりのこども

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グルグルとアム 鍋島小骨 @alphecca_

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