第32話 『君たちに幸あれ!』

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最終回です。それでは、どうぞ。


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1月下旬、妃鞠のお父さんのお見舞いに行った。

「おう、いらっしゃい。幸介くんも!」

お父さんは顔色もすっかり良くなり、入院した時はげっそりしていたのが、

すこしふっくらとしていた。

「わざわざ、3人で来てくれてありがとう。

実はな、・・・」


東雲鉄工所と東雲家は建物、設備、土地まとめて売るに出していて、

何件かの問い合わせがあった。もうこの際、売っぱらってしまおうと思う。


それに、入院中に看護婦さんと仲良くなっていて、

その看護婦さんの家に住むことにしたって笑顔で宣言した。

マジか?凄い、流石だ!


さわやかな笑顔から、ちょっと下品な笑顔になっておじさんは俺たちを見回した。

「・・・だから、葵、妃鞠、このままずっと幸介くんの家に住まわせて

もらいなさい。」

「「「え~!」」」



「・・・おじさん、流石だね。」

「娘でもビックリだよ!」

「うんうん。」


「ねえ、葵ちゃん、妃鞠、このままずっと、俺の家に住んでくれないか?」

笑顔をつくって右手を葵ちゃんに、左手を妃鞠に差し伸べた。

やっぱり内心は不安だ。ドキドキする・・・


葵ちゃんと妃鞠は顔を見合わせてニッコリと俺を見た。

「・・・もうこの生活以外できないよ。」

葵ちゃんと妃鞠が俺の手を取ってくれた。


「幸介は家事をお手伝いしてくれるしね!」

この妃鞠のセリフは照れ隠しだ!



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


夕食が終わって、後片付けも全て終わった。

またソファに座って、テレビを見ている。

左側には妃鞠が、右側には葵ちゃんがぴったりとくっついている。


表面上は慣れてきたけれど、マグマはぐつぐつとしながらその圧力を高めている。

いつまで我慢できるかしらん。


「・・・こうくんが妃鞠を助けた話はテレビに出てもいいレベルよね。」

葵ちゃんが呟いた。


「うんうん。幸介はほんとに凄いよ。」

「いや凄いのはお稲荷さま、あっ!」

「「・・・お稲荷さまって?」」

やっちまった!油断しきっていた!コレ、もうダメか?


「「お稲荷さまって?」」

ダメだ!もう言うしかないか・・・

欲しいものは手に入れたけど、手放すことになったりしないよな・・・


興味津々な二人に、お稲荷さまのことを一から説明した。


『ギャンブル運サイキョー!あるだけ突っ込め!』

『友を押せ、押せ、押せ!』

『万引犯を捕まえろ!』

『戦え!』

『警察を呼べ!』

『二人っきりにさせるな!』

『物凄いバック責めから逝かせるな!』 

『連絡しろ!』

『大切なものを守れ!』


主なお告げとその結果を説明した。


「えっと、お告げってそれだけ?かなり漠然としているね・・・」

「そうなんだよ!だから、大失敗を2回したよ

父さんの万引を防げなかったのと

二人のお父さんが倒れた時、連絡するのが遅かったこと。」


「失敗もあったんだ!

でも、お告げはあるけど、幸介が凄く頑張ってくれたから、

今があるってことだよね。」

「でもお告げがなかったら無理だったことの方が多いよ。」

葵ちゃんと妃鞠が顔を見合わせて失敗したって表情になった。


「それで、私たちに話したから、もうお告げはもらえないの?」

「明日の朝、一緒にお稲荷さまにお礼に行ってみよう。」

「「ごめんなさい!」」

「いや、2人に嘘はつけないし、もう欲しいものは手に入れたし。

うん、2人を誤魔化し続けるなんて無理。

最近は『がんばれ!』ばっかりだしね。」


翌朝、葵ちゃんと妃鞠とお稲荷さまに向かった。

二人は酷く緊張しているようだ。

朝日に照らされているお稲荷さま。なんかいつもより神々しいような・・・


俺が油揚げ、葵ちゃんが純米吟醸、妃鞠がリンゴをお供えした。

3人で呼吸を合わせ、二礼二拍手一礼する。

「「「お稲荷さま、どうもありがとうございました!!!」」」

『君たちに幸あれ!』

頭の中で鐘の音とともに厳かな口調でアナウンスがあった!

「「!!」」

葵ちゃんと妃鞠にも聞こえたみたいだ。

辺りを見渡したけれど、お婆さんが現れることはなかった。

もう、これが最後ってことなのかな・・・


「「君たちに幸あれ!って聞こえた!」」

「俺もそうだよ。」

「でも、最後っぽかったよね・・・」

「うん。ゴメンね、幸介。」

「気にしないで。ほかの人たちはお告げに頼ることなく頑張っているんだ。

みんなと一緒になっただけだよ。」

「・・・これからどうするの?」

葵ちゃんが少し不安そうに俺を見上げた。妃鞠も少し不安そうだ。


「これまでどおりさ。お告げは無くても、毎日、お稲荷さまにお参りに来る。

葵ちゃんと妃鞠と仲良く、暮らしていく。

妃鞠と一緒の大学に行きたいから、勉強を頑張る。」

「・・・そうだね。今までと一緒だね。」

「うんうん。」

葵ちゃんと妃鞠の表情が花開いた。


その次の日、いつもどおりにお稲荷さまにお参りに出かけた。

いつもどおり、お弁当をお供えして、いつもどおり、二礼二拍手一礼する。

「今日もがんばります!」

もうお告げは頂けないし、お婆さんも現れなかった。

やっぱり寂しいな・・・


学校が終わってから、1人でジュエリーショップをはしごした。

内緒で注文していたプラチナリングを1個づつ受け取った。

サイズはカンだ。

1つのショップで2個のリングを注文する根性がなかったから、面倒だった。



夕食が終わり、勝負の時間がやって来た!めちゃくちゃ緊張する!

「葵ちゃん、妃鞠、ちょっと来てくれる?」

「なに~?」

「このくじを引いて。赤が一番ね。」

不審そうにしながらも引いてくれたら、赤は妃鞠だった。


ポケットからリングの入った小箱を2つ、座卓の上に置いた。

「「なにコレ!」」

2人の瞳がキラリンと輝いた。


左の小箱を開いて、妃鞠にプラチナリングを見せた。

「ひ、妃鞠。だ、大好きだ。これからもずっと大好きだ。だから、コレを・・・」

なんか感極まって、考えていた言葉が途中で出なくなってしまった。


「うんうん!ありがとう!着けてくれるかな?」

妃鞠が輝くような笑顔を見せて、左手をしゃなりっと差し出してきた!


ブルブル震えながら、薬指に指輪を着けた。

「ステキ!ピッタリ!ありがとう!」

妃鞠は左手のリングを嬉しそうに見ていた。


「妃鞠!」

輝く笑顔が愛しくて、抱きしめてキスした。

「・・・結婚式みたいだね。」

妃鞠が下を向いて、長い髪を何度もかき上げているのを

幸せな気持ちで眺めていた。


「こーくん!」

葵ちゃんが待ちきれずにキレた!

「ああぁ、ごめんね、葵ちゃん。」


右の小箱を開いて、葵ちゃんにプラチナリングを見せた。

「葵ちゃん!大好きだ。この気持ちは絶対に変らない。

だから、コレを受け取ってください。」

「・・・ハイ。」


メチャクチャ照れている葵ちゃんからおずおずと左手が出され、

さっきよりは上手に指輪を着けることができた。


「妃鞠のとは違うんだね。コレも可愛いね。

ホントに嬉しいよ、ありがとう!」


はにかむ笑顔が愛しくて、葵ちゃんを抱きしめてキスした。

「あ~、すっごく幸せ。

こーくんのは?ペアリングじゃないの?」


「・・・ペアリングを買う勇気がなかった。」

「買うのは一緒じゃない!でも、すぐにプレゼントするから、毎日、着けてね。」

「うんうん、私もプレゼントするからずっと着けてね。」

「ありがとう!俺、最高に幸せだよ!」


幸せそうな笑顔を浮かべて葵ちゃんと妃鞠が左右から俺の頬にキスしてくれた。



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最後までお読みいただきありがとうございました。


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幼なじみなのに名字呼びされる俺。お告げを信じたら幼なじみだけでなく、その姉まで恋人に! 南北足利 @nanbokuashi

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