第16話 再びの一夜2

「お待たせ……あれ?」


 碧羽くんがシャワーから上がって出てきた。たぶん私と同じようにバスローブを身につけているのだろう。なんで推定形かというと、待っている間に恥ずかしさと不安が抑えられなくなり、ベッドに潜り込んで頭から布団にくるまっているからだ。


 部屋を薄暗くしてみたのだが、恥ずかしさと不安がどんどん大きくなってくる。気持ちをどうしたらいいのかわからなくなってしまい、布団にくるまるという選択をしてしまった。碧羽くんはどう思っているんだろうか。


「えっと、志穂さん?嫌だったら教えてくださいね」


 ベッドに碧羽くんが乗ってきたようだ。でも、布団をはいだりはしない。不思議に思っていると、背中のあたりを撫でられているような感じがする。


 ゆっくりと労るように撫でられているうちに、不安は少し小さくなった気がする。


「これだけは言わせてください。俺、遊びじゃないですから」


 碧羽くんの声がはっきりと聞こえる。嘘じゃないと思いたい。思いたいけど、人は口では何とでも言えるものだ。


「遊びじゃ、ないですからね」


 まるで言い聞かせるような口調に、私は碧羽くんの顔が見たくなった。どんな顔をして言っているのかと。


 モゾモゾと動くと、碧羽くんは背中を撫でるのをやめてくれた。気遣いができる人だと喜ぶべきか、もっと撫でられていたかったと嘆くべきか。そんなことを悩みながら、私は布団から顔を出す。


「……年上を、からかうんじゃありません」


 もっと勢い込んで言ってやろうと思っていたのに。私が顔を出した途端に見せた碧羽くんの笑顔に、機先を制されてしまった。そんなに嬉しそうな笑顔を見せられたら、怒るに怒れないじゃない。


「からかってないですよ。今から証明しますから」


「またそうやって……っ」


 文句を言おうと思った私の口が塞がれた。碧羽くんの唇で。そっと頬に当てられた手から優しさが伝わってくるようだった。ただ唇を重ねるだけのキス。それだけで、私の心と体が疼いてきてしまう。


「……もうっ」


 少し力を入れて碧羽くんの胸元を押すと、すぐに唇を解放してくれた。ちょっと睨むように見るが、碧羽くんは動じない。いや、動じないどころか、さらに笑顔になる。


「志穂さん、かわいい」


「こら、年上をからかうんじゃ……っ、ちょ……まっんんっ」


 するりと碧羽くんの片腕が私の頭の後ろに回された。再び迫ってくる碧羽くんの綺麗な顔。そして、再び塞がれた私の唇。しかし、今度は唇を重ねるだけでは許してくれないらしい。碧羽くんの舌が私の唇をチロチロと舐めてくる。その動きに絆されてしまい、少し唇を開けた。途端に私の口の中に入ってくる碧羽くんの舌。慌てて押し出そうとするも、私の舌に碧羽くんの舌がからんでくる。前回のしたのかもしれないが、まったく記憶にない私にとって、久しぶりの深いキス。舌をからめ、唾液を交換しているうちに、頭の奥がじんじんとしびれてくる。


「あ……んっ……あぁ」


 声が漏れ、息が荒くなる。息苦しいのだけれど、やめられない。やめたくない。私はいつの間にか碧羽くんの頭に両手を回し、抱きしめていた。


 どのくらい舌をからめあっただろうか。動かし続けたせいで、少し舌が痛い。碧羽くんが頭を下げたので、私は腕を解いた


「あ……」


 唇が離れると、私の口から名残惜しそうな声が漏れる。きっと表情も名残惜しいと訴えているのだろう。どちらの唾液で濡れたのかわからないが、碧羽くんのぬらぬらと光る唇から視線を離せない。もっとキスをしたい。もっと碧羽くんを感じたい。私の頭の中には、もうそれしかなかった。

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エリート後輩の甘い誘惑 ~仕事一筋だった私の甘くて苦い社内ロマンス~ カユウ @kayuu

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