姫を脱出させよ!

宮田弘直

王宮襲撃

(他国に嫁ぐってどんな気持ちなんだろうな)


ミクロス王国の首都バーデンの王宮で騎士イアンは目の前の光景を見ながらふと思った。

貧民街出身の自分には想像が及ばないとは思うがつい年若き姫の気持ちを推察してしまう。

目の前では我がミクロス王国の王子スチュワートと隣国グロッソ王国の姫カーティアによる婚姻の儀が執り行われていた。

イアンはこの儀式の最中の姫の護衛をグロッソ王国の近衛騎士達と共に担当していた。


儀式も終盤に差し掛かり、ようやく終わりが見えてきた。

姫の護衛と言っても小国ミクロスの一騎士でしかないイアンには王宮の案内やグロッソ王国の近衛騎士達とミクロス軍上層部の連絡役くらいしか仕事がなかった。


姫の側にはグロッソの近衛騎士コーエン率いる隊が控えている。

コーエンは大国であるグロッソで数々の武功を上げた老騎士だった。

彼が放っている威圧感は凄まじく、老人である事を忘れてしまいそうになる。

王子の方にも我が軍の精鋭が護衛に付いているから問題はないだろう。

イアンの仕事はこの後姫達を部屋に案内して終わりだ。

そう油断していた時だった。


突然、下の階から金属同士がぶつかり合う音と馬の蹄の音が鳴り響いてきた。

その音はどんどん近づいてくる。


「総員、戦闘体制! 階段を塞げ!」


騎士達が動揺する中、老騎士の一声で統制を取り戻す。

イアンも姫の側に駆け寄り戦闘態勢をとった。

騎士達が剣を抜き、階段へ殺到する中、ミクロス王国の近衛隊長が声を上げた。


「皆様こちらへ! 脱出路へご案内します!」


王宮には緊急時の脱出路があり、そこから外へ出れるようになっている。

我先にと王子がその扉に手をかけようとした瞬間だった。


イアンは目を見張った。

突然、扉が破壊され、脱出路から兵が雪崩れ込んできて勢いをそのままに王子の首を刎ねたのだ。


王子が殺され、脱出路も押さえられてしまった。

騎士達の頭に絶望がよぎった。

統制もなく、士気も最低になり、立て直しは困難だと誰もが思った。


その時だった。

脱出路へ疾走する影が一つ。

老騎士コーエンだった。

老騎士は脱出路前に到達するとそのままの勢いで剣を薙いだ。

その一閃で三人の首を飛ばすと声高に叫んだ。


「このまま脱出路に突入し、王宮より脱出する! 姫様方は後から付いてきてください。ダーグル、イアン、姫様の側を離れるなよ」


「はっ」


ダーグルと呼ばれた中年の騎士とイアンは揃って返事を返した。


老騎士はそのままさらに三人を切り倒すと敵兵士の矛を手に取り、素早く薙ぎ払った。

その威力は数多くの兵士を吹き飛ばす程に強力だった。

老騎士はさらに奥に進んで行く。

イアンは老騎士の武神のような戦い方に驚きながらも、老騎士が撃ち漏らした敵を倒しながら後を着いていくのだった。

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