第42話 VS新四天王

 荷物を購入した俺たちは少し迂回しつつも馬車で王都へと向かっていた。変わらず御者はアモンがやってくれているのだが……



「助けてください……馬車の空気が最悪でーす」

「師匠……誰に話しているんですか?」

「うふふ、もしも神様と話したくなったら言ってくださいね。呼びますから」



 思わず存在しない何かに助けを乞うてしまった。そう、ティアとセリスの相性があまりよくないのだ。

 表面上の会話はできるのだが、なんというかお互いに隙あらば攻撃しあうようなピリピリとした感じなのである。



「きゃあ……すいません、ファントム様……ついバランスが……」

「……すいません、師匠。支えてくれてありがとうございます」



 馬車が石でも踏んだのかわずかにゆれると、セリスがチャンスとばかりに抱き着いてきて、それを見たティアまでも抱き着いてくる。

 そう終始こんな感じなのだ。



「まあ、俺が悪いんだけどね……」



 そう……二人の気持ちをわかっていながら、ちゃんと答えを出さない俺がすべての原因である。

 積極的にアピールしてくれるセリスにつられて、TPOをわきまえていたティアもスキンシップがはげしくなってきているのだ。


 ハーレム主人公ってメンタル強くない? なんで好意をもたれて気づかないでいられるの? 

 転生前はチートハーレムにあこがれたけど、思ったよりもいいものではない。だって俺を想ってくれている相手はゲームのキャラじゃないんだ。一人の人間なのだからちゃんと、向き合わねばと思うのだ。



「うおおお、あぶねえじゃねえか!!」

「きゃああぁぁぁ!?」

「おやおや、危険な運転ですね」



 そんな決心をしているとさっきとは違い馬車が本当に急停車しようとするも、馬たちが暴れてしまう。座席が跳ね上がってしまい、外に飛び出しそうになるティアを抱きかかえつつ、俺は馬車の外に着地する。

 ちなみにセリスは平然と衝撃を受け流している。



「奇襲でしょうか? まさかこちらの動きがばれていたのですか?」

「どうだろうね……警戒はしておこう」

「うう……師匠のお手を煩わせて申し訳ありません」



 抱きかかえられたティアが顔を真っ赤にしながら、地面に降りる。セリスは普通に着地できてるじゃんと脳内でつっこみつつ目の前には物乞いのような恰好をした人影がたっていた。



「危ないじゃないか。馬車は急に止まれないんだよ」

「も、申し訳ありません……何か食料をわけてはいただけませんか? 三日も何も食べていなくて……」



 杖をついており、震えながらセリスの法衣に縋りつく姿から敵意は感じられない。



「魔族だね。絡め手をつかってくるね!!」

「魔族ですね。裁きの光よ、我が敵を焼き払わん」



 いくら変装しようと魔力を感知できる魔眼を持つ俺と聖女であるセリスの前では無意味である。

 セリスが光を放つと同時に俺とティアも獲物を抜く。アモンは暴れている馬を抑えるのに必死なようだ。



「ほう……わが策略を見抜くとはなかなかやるじゃーないかね。だが、オセ四天王であり、魔族一の智将であるこのバラムに勝てると思わないことだ。愚かなる人間よ」



 セリスの攻撃による煙が晴れるとそこにはシルクハットを身に着けた。三十歳くらいの壮年の魔族が立っていた。

 一目で魔族とわかるのはその瞳がまるで炎のように燃え盛っているのだ。



「ふふ、やはりソロモンの魔力は罠だったようだねぇ。他の連中とはちがい王都に向かう裏道を張っておいて正解だったたようだ。君たちを倒せば我も出世間違いなし!! オセの覚えも良くなるだろうさ!! やはり我は天才だ!!」

「師匠……この魔族かなり強いです」

「ああ、そうだね……四天王は伊達ではないみたいだ」



 セリスの魔法を受けたというのに全くダメージを受けていないかのようすとその口ぶりから大体のことがわかった。

 おそらくだが、こいつが続編の中ボスなのだろう。



「まった、他の連中ってことは俺たちを襲いに来たのは君の単独行動って言うことなのかな?」

「当たり前だろう。愚かなやつらと手なんて組んでられないからねぇ。そして、私は君たちを倒してロリハーレムを作るんだ。死んでもらおうか」



 バラムとやらが指をぱちんとすると、森の仕掛けられていたのか魔法のトラップが起動しすさまじい爆音とともに周囲が爆発する。

 それは普通だったら致命的な一撃だった。だが、こっちには聖女セリスがいるのだ。



「ファントム様、ここはお任せください。私が仲間と馬車はお守りします」

「ああ、ありがとう……魔力を喰らいて我が糧とする!!」



 セリスの結界によって完全に防がれた爆撃の合間を縫って俺はバラムに斬りかかる。



「ふはははは、なぜ、単独行動だとばらしたと思う? どのみち君らは我が天才的な策略によって朽ち果てるから……なんとぉ!!」



 こちらの奇襲を仕込み杖で受け止めたバラムが驚愕に顔を染める。思った通りだ。確かにこいつは強い……だけど、俺たちが倒した先代魔王四天王と同じくらいである。

 ゲームだったら前作キャラは弱体化してるんだろうけどさ。あいにくこれは現実なんだよね。



「残念。真の天才はいくつも策を練っているものさ」



 さらに追撃しようとすると、バラムの姿が掻き消えて馬車の方にいた。空間移動魔法か!!

 ソロモンが影を使うようにこいつは空間移動を得意とするようだ。



「ソロモンに味方した魔族とやらを殺すだけで十分だろう!! さあ、死んでもらおうか……え?」

「ああん、誰が俺を殺すって?」



 きざっぽいしぐさで仕込み杖を振り上げるバラムだったが、その端正な顔があっさりと蹴とばされる。



「な、なんでアモンがソロモンの仲間に? お前はグラシャラボラスと同様戦うのが好きだったろう? 人間と共存何て望んでいないはずだ」

「俺はお嬢の世話係だぜぇ、一緒にいるのが当たり前だろうが」

「ちょっ……聞いてない。アモンと敵対するなんて聞いてない。勝てるはずないじゃないかぁぁぁ」



 バラムとやらが情けない声を上げるのを見て思う。あ、アモンって魔族の中でも結構上位だったんだ。

 確かに最初に会った時も苦戦したしね。



「ひぃぃぃ、命だけはお助けをおぉぉぉぉ」

「なあ、ファントムよぉ。こいつは殺した方がいいか? それとも情報を得るか?」



 情けないセリフに戦意がそうしたアモンがこちらに訊ねてくる。まあ、四天王だし後三人いるから情報くらいは聞いた方がいいかもしれない……そう思った時だった。

 バラムが指を鳴らすとパチンとその姿が掻き消える。



「な、また転移を……」

「安心するといいぜぇ。あれは魔力をかなり使う。そんなには多様できないはずだ」

「ああ……セリス。あいつの気配はわかるかな……? セリス? ティア?」



 振り返るとそこに二人の影はなかった。まさか、パラムに連れ去られたのだろうか? だとしたら二人が危ない。セリスは魔王殺しの英雄だったが、前衛職ではないし、ティアも魅了はできるとはいえ、まだ発展途上なのだから……



 ★★



「ここは……」

「やつの魔法で連れてこられたようですね……先ほど触れられたからでしょうか? ティアさんは私の背後にいたから巻き込まれてしまったようですね。まさか、結界すらも意味をなさないとは……」



 ティアの言葉にセリスが眉をひそめて答え、パラムに触れられた部分をけがらわしいとでも言いたそうにはたく。



「ふはははは、その通り。魔眼の男やアモンには勝てないが、あなた方ならば敵ではないからねぇ。まさに天才的策略!!」

「いや、天才というよりもただのクズでは……」



 意気揚々とかたるパラムにティアが突っ込むが無視すると、その瞳がティアとセリスの豊かな無なものに注がれ……大きくため息をついた。



「それにしても……女性が二人もいてだ肉付とは悲しい……もっと体躯も小さくスレンダーこそが、美しさの極致だというのに……」

「だ、だ肉ですか……」

「……別にあなたに好意は抱かれたくもないですが侮辱されるのはシンプルにむかつきますね」



 ショックを受けた様子のティアと殺気をみなぎらせるセリス。だが、バラスは気にした様子もなく嗜虐的な笑みを浮かべる。



「ああ、そうだ、せっかくだ。あなた方二人のそのだ肉を削いで美しく装飾してから人質にしてあげましょう。魔眼使いは甘そうでしたし、アモンも人間とは共存していますからね。多少は動きもにぶるでしょう」


 その言葉と共にパラスは仕込み杖から完全に剣を抜き放つのだった。




★★★


 まあ、ゲームの続編の中ボスって、前作の中ボスと同じくらいの強さだよねって話です。

 多くのゲームでは謎に前作キャラが弱体化しているのが悲しいですよね……



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悪役転生して世界を救ったけど、ED後に裏切られて追放された俺、辺境でスローライフしようとしたのに、なぜかかつての仲間が病んだ目をしながら追いかけてきちゃった…… 高野 ケイ @zerosaki1011

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