1.03
この街の気に入らない点は、
そういう道には、車よけのために
夜になると、あちこちから
駐車場の
たとえ毎日
おれはクロームの肩を揺らし、青いネオン
〈グレート
〈アトランティス
入口に近い席には、背中が電子ペーパーになった
全身に球体関節を埋め込んだ
すみのほうのテーブルでは、青白く光る
ウェイトレスはいない。そのかわり、天井から吊り下がったプロジェクターの腕がぐるっと回転すると、動きにあわせてホログラムのメイドが歩いてくる。彼女のファッションは、
おれとリサはクールを装い、だれにもぶつからないように座敷を通り抜けた。何人か知り合いがいたが、目で軽く挨拶をかわしただけだった。
「ちょっとくらい体を
足もとを見ると、床に雨粒がぽたぽた落ち、
「おれも歳でね。腰の
リサはアイス・ブルーの瞳にシャッターをおろし、
この陽気な男はアイアン・マイク。やつと知り合ってから、もうずいぶん経つ。なにしろ、二〇二一年の
そのときにはもう、アイアン・マイクは
おれはおしぼりをリサに放ると、カウンターにひじをついた。
「ニッキーは?」
「一日中ジャック・インしてる」
ニッキー。彼女は世にも珍しいハッカー犬だ。明るいグレーの体毛のジャーマン・シェパード・ドッグ。この店のマスコットでもある。
「かわいそうに。最近、散歩につれてってやれなかったからな」
「ああ。おまえさんが会いにこないから、すっかりヘソを曲げちまってるよ」
だから、ニッキーは
ニッキーのサイバーデッキは、
シェパードのような犬は、毎日たくさんの運動を必要とする。運動不足の大型犬は、いつ爆発するかわからない時限爆弾みたいなものだ。近いうちに、
アイアン・マイクがおれのジョッキにキリンの
「ほら、そいつを持って奥に行けよ。お二人さん」
そこで身をかがめ、ざらついた電子音声のボリュームをわずかに落とす。
「マダム
「わかったよ。でもな――」
おれはジョッキに目をやり、にやりと笑った。
「
「よせよ、チョンバッタ。ここの経営はカツカツなんだ。さあ、行けって」
おれは代金を払うと、座敷の奥のブースに向かった。すると、好奇の視線が背中にまとわりつくのを感じた。その先でだれが待っているのか、ここにいる全員が知っているからだ。
マダム・ムラサキ。彼女は裏社会に君臨する
先斗町は長さ四九〇メートルの
ブースに入ると、低いブーンという音が聞こえた。
ボックス席の壁際には、朱塗りの
二つの目は閉じられている。だが、トレードマークの
額の真ん中に移植されたマース
「ずいぶん遅いじゃないか、ジョー」
マダム・ムラサキは紫煙をふっと吐き出すと、その日はじめておれの
おれはジョー。生まれたときから、ただの
ソファにすわろうとすると、
「立ったままでいな。このわたしを三〇分も待たせた罰さ」
おれはマダムを無視して、ボックス席にどっかり腰をおろした。ジョッキをひと息に飲み干し、げっぷをする。
マダムの目が三つとも険悪な光をたたえる――
「気に入らないなら、ほかの
「ふん、相変わらず生意気な坊やだね」
マダムは舌打ちすると、あっさり引き下がった。リサに向かって、手ぶりですわるようにうながす。
やっぱりな。あんなに急いでたのは、おれたちにしか頼めない緊急の
「単刀直入にいうよ。今回の依頼は要人警護だ」
マダムがテーブルの上にさっと
「あんたの雇用主は
「そいつのチームはどこで道草食ってるんだ?」
「自分の手下よりも、もっと腕利きの
そこでおれもリサも顔写真に目を落としたが、表情は変えなかった。だが内心では二人とも、ヤバいことになったと冷や汗をかいた。
その写真の男は、ついさっき
サイバーパンク𝓚𝓨𝓞𝓣𝓞 黒江次郎 @kuroejiro
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