1.02
ホテルの地下一階は、フロア全体が宿泊客専用の駐車場になっている。エレベーターで地下に降りると、ひんやり冷たい空気と
一流の
おれも特別仕様のスーパーバイクを一台持っている。
シンゲン・カタナ24W-G。ハイパワーなマシンで、
駐車スペースに近づくと、カタナのシステムが主人を待つ猟犬のように目覚めた。
暗闇のなかにソウル・レッドの鮮烈なカラーリングが浮かぶ。ボディラインは徹底的に無駄をそぎ落とされ、伝説の
駐車場には、ついさっきまで先客がいたらしい。出入口のゲートにぱっと光が差し込み、黒塗りのリムジンに
リサが
「なあ、あいつの
「
「タケ=イチ?」
「
「だから、そういってるだろ。で、そのタケ=イチだけどさ――」
リサは
「あの野郎、クスリでもやってんのか? 目つきがおかしいんだよ。あたしを見るときの目が」
リサがぶるっと身ぶるいする。
「なんというか、すごくヘンなんだ。でっかいレンチで、あたしの体をバラバラに解体したがってるみたいな」
「そりゃ――」
タイヤの空気圧を
ド派手なメタリック・ゴールドの
そして
リサをアニメのキャラクターみたいに崇拝してるのは、なにもタケウチ一人のことじゃない。なにしろ、非公式のファンクラブがあるくらいだ。もっともおれからすると、ガキんちょすぎて
「おい、なに見てんだよ?」
「いいや。やつのことなら忘れろ」
「どうしてさ」
おれはカタナの
「やつが病気だからだ。人間なら、だれでも一度はかかるタチの悪い病気さ」
タケウチ。やつとの付き合いはもう二、三年になる。見た目は
おれの脳内の
機械いじりもお手の物で、自分で修理した
タケウチは霊柩車に乗ってやってくると、床の上の
「
「よう、おまえか」
おれはホテルの廊下にもたれかかり、にやっと笑う。
「なぜいつも謝るんだ? そいつはおれの
「ええ、知ってますよ」
タケウチはオノ=センダイ製の
「でも礼儀として、ひと声かけることになってるんです」
ここまではいい。やつの調子は、リサが部屋から顔を出したとたん狂いはじめる。
しかもリサのやつ、おれの前じゃ服装なんて気にしないから、ほとんど裸同然の格好でいることも多い。さっきもシャワーを浴びたリサが、裸に
ちょっとした
おれに一瞬見えたのは、
タケウチは死体の
回想終わり。リサがガムをぺっと吐き出し、ホンダのミニバンの窓に指でくっつける。
「まだ出発しないのかよ? 夜が明けちまうぜ」
大きなあくびを一つ。こうしてるところは、ほんとにガキにしか見えない。
おれのクロームの指先が、ようやくシリンダーの穴を探り当てる。キーをさっとすべり込ませる――
「待て」
視線を落とすと、おれの腕に緑色のしっぽが巻きついていた。リサの瞳の奥で、赤いLEDが複雑なマトリックスを描く。
「ブービートラップだ。よく見ろ、このアホ。ご自慢の
リサの白い指先から、五本のレーザーの
くそ。おれはまぶたの裏で、自分がキーを差し込むシーンを再生した。
キーシリンダーを横切るように、細い
「プロの仕事か?」
「さあね」
リサが小馬鹿にしたように鼻を鳴らした。
「
おれの脳裏に一瞬、タケウチののっぺりした顔が浮かんだ。まさか。でも、やつはついさっきまで駐車場にいた。
この
そのとき、耳小骨が激しくふるえて、内蔵型
おれはそいつをミュートすると、軽く舌打ちした。あの
「考えるのはやめだ。あとにしよう」
おれはカタナのシートにまたがると、あごでリサに合図を送った。
「乗れよ。
「けっ、自分の
「だが、運転はおれの担当だ。おまえじゃ地面に足がつかないもんな? わかったらさっさと乗れ、ちびっ子」
リサはおれの背中を二十センチは突き抜けそうな視線をよこしたが、おとなしく後ろにすわった。しっぽがシートベルトがわりにおれの腹に巻きつけられ、ライムグリーンの
「さあ、行くぜ」
アクセルをふかすと、
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