持続可能な開発目標

身ノ程知ラズ

第1話


集団の中で生きる人間は誰しも悩みを抱えており、その悩みはいずれ大きな問題となってくる

一つの集団ではどうしようもないほど膨れ上がった問題を解決すべく各国の首脳が一同に会し、15年後までの達成を目指す17個の目標と169の基準を定めた

各国のメディア、企業、団体はこぞってその目標に沿った取り組みを始める

その努力が無意味だと知らずに





「ただいまー」

家に帰って速攻で自分の部屋のベッドに横になる

陰鬱な気持ちをため息と共に吐き出すと、スマホに一件の通知が来る

ホーム画面には何のアプリの通知かも表示されずただ単に


「3375475620」


という奇妙な数字だけが表示されていた

何かの暗号のようにも思えたが何かシステムのエラーか何かだろうと、大して気にもせずスマホいじりに興じることにした


翌日学校に行ってみるとどうやら全てのクラスメイトが、何なら先生までもが先日の奇妙な数字が送られてきたという

もちろん皆スマホの機種や契約している会社もバラバラであり、送られてきた数字が近かったり(何なら連続した数字の奴らもいた)と何らかの障害が起きたとは考えにくかった

何だろう、怖いな、などと友達と駄弁っているとあるニュースが流れ込んできた


「国民の携帯電話が一斉に謎の10桁の数字を受信、各通信会社は原因を調査中」


なるほど、この地域だけの問題ではなさそうだ

とはいえ別に俺にできることはない

クラスメイトも気にし続けている者はおらず、帰る頃にその事実を覚えている者はもういなかった


家に帰りテレビを眺めていると、どこの番組も例の数字の話題で持ちきりだったが総じて内容に中身がなく、よく分からない専門家が変な憶測を立ててアナウンサーやタレントが怯えるというなんとも見応えのないものだった

得られた情報としては日本人は全員が「3」から始まった10桁の数字であること、数字が2個や3個、多い人で7個送られてきた人がいること(どれも子を持つ母親に送られてきたらしい)

「1」が送られてきたのはとあるアフガニスタン人だったということだけだ(SNSに投稿された動画内で「1」が送られてきた男性が飛び跳ねながら喜んでいた)

専門家は国をアルファベット順に並べたときの1番目がアフガニスタンであることと関係があるかもしれないと言っていたが、だからどうしたとは思う


めぼしい情報も出来事もないまま月日は流れ、ほとんどの人間がその事実を忘れかけていた1ヶ月後のこと

またしても奇妙な数字が送られてきた、それも一つではない

「53685219」「427394」「5281026369」と言った具合におよそ100個ほどの数字が送られてきた

慌ててリビングにいる母親のスマホを見て確認してみる、すると今回は同じ数字が送られてきたらしい

のちに帰ってきた父親のものを確認してみてもやはり同じ数字だった

標本は少ないが、全世界の人々が同じ数字を受信しているとしていいだろう

今度は何の数字なんだろうかと考察するのも億劫になったので

深く考えずに寝ることにした


次の日、土曜日だったのでかなり遅い時間に起きた

朝食を食べながらニュースを見ていると臨時ニュースが入ってきた

世界各地で、100人の人間が同時に不審死したという

どうしてそんなことが分かったのか、日本政府のおそらく偉い人が会見を行う


「先月行われた国連総会において、17個の課題と169個の基準を発表いたしました。そこで我々はAIを取り入れ、それらの課題達成に向けた具体的な政策や取り組みについて議論を行いました。が、そこでAIがたどり着いた解決策は『人類の抹消』一択でした。もちろん我々も別の手段を考えましたが、AIはその考えに執着しており、我々はなすすべがありませんでした。結局我々は表向きで17個の課題を公表し、AIは放置するしかありませんでした。しかし発達した情報社会においてAIを止めることはもはや不可能です。1ヶ月ほど前に送られてきた番号、それは国民、いや全世界の人間に向けてAIが割り振った識別番号です。そして昨日送られてきた番号に該当する人間が今日午前0時に一斉に死亡しました。原因は不明です。正式な会見の場で私情を挟むのはどうかとは思いますが、これはいわばAIが地球をよりよくしようとした最善かつ最短の方法です。我々も薄々分かっていたはずです、環境問題や教育や性別の格差の問題、それらは全て人間が存在してしまうから起こるものだと。今現在地球において1番合理的な考えができるのはAIだったようです。話が逸れました、申し訳ありません。もちろん我々もこのままこの事態を静観するわけではありません、が現状AIに対抗できる策は見つかっていません。国民の皆様にこのようなことを申し上げるのはあまりに酷ですが、この事態を甘んじて受け入れてください、としか言いようがありません。繰り返しにはなりますが…」


ここで母親がテレビを消した

自分に都合の悪い情報を耳にしたくない気持ちは分かる

にしてもこの事態を隠蔽せず国民に情報を提供したことはおそらく日本政府の今世紀最大の功績だと言えるだろう

いや〜どうしたものか、というかどうやって死ぬのだろうか

「発達した情報社会」とはいえスマホを持っていなかったり、文明が全く入り込んでいない地域に住む人間も世界にはごまんといるはずだ

AIによって彼らを殺すのは無理がありそうだが

いやもしかしたらそう言った人間は殺さないのかもしれない

AIはあくまで17個の課題目標のための手段として人間を殺しているわけで、全人類を滅亡させることが目的ではない

人間という一種の動物本来の生き方をしている民族は殺す必要がない

そしてもう一つ疑問に思う点がある

なぜそれらの民族を除いた人間を一斉に殺さないのか

その気になれば各国の人工衛星やISSを制御不能にし、各地に落とすことで人類ごとき簡単に殺せるだろうし、そんなことをしなくても未解明の技術で不審死させられるのであれば一斉に殺せばいいのになぜ100人という世界人口と比べれば圧倒的少数の人間だけを殺したのか

依然よく分からない点も多いが恐怖であることは事実だ

いつ死ぬか分からない、明日死んだっておかしくない


怯えながらもいつも通り過ごしていると昨日と同じくらいの時間、午後9時

またも送られてきた数字、いや識別番号

しかも昨日より数が多くなっている気がする、ざっと1000個ぐらいか

もしかしてだんだん数を増やしていくことで人間の恐怖心を煽っているのかもしれない

AIには「アソビゴコロ」としてインプットされているのかもしれない

妙な推測を交えつつもよく考えると恐ろしいことに気づく

このまま毎日×10ずつ増えていくと約1週間後に全員が死ぬことになる

とりあえず1000個の数字の中に「3375475620」がないことを面倒ながら確認し

若干安堵するももう1週間後に確実に死ぬことを悟って喪失感に駆られる

もうどうでもいいや、そう思い床に就く


案の定、次の日もニュースでは1000人が不審死したと報じられていた

中には日本人も含まれており海外の有名な俳優も死んだらしい、俺は知らんが

その日は特に何も起こらなかったし、起こしたくもなかった

死を悟れば人間ここまで生きる気力を失うのか、妙に感心した

その日の午後9時、また送られてきた10000個の数字

ここまでくるともう確認する気も失せる

寝ている間に死んでいれば幸せか

次の日、何とか生きていた、1万人が死んだ

次の日、またしても生きていた、10万人が死んだ

次の日、まだしぶとく生きていた、100万人が死んだ

次の日、残念なことにまだ生きていた、1000万人が死んだ

ここで運悪く母親と父親が死んだ、どうせすぐ俺もそっちにいく

次の日、大台の1億人が死んだ、俺はまだ生きていた

ここまでに多くの知り合いが死んだ、もはや恐怖もない、早く死にたい

その日の午後9時、奇妙なことに10億個の数字は送られてこなかった

気になってニュースをつけてみるとまた会見みたいなのがやっている


どうやらここにきてAIの暴走を止めることに成功してしまったらしい

なすすべがない、甘んじて受け入れろっていったのはどこのどいつだ

人間のせいに対する執着はゴキブリ並みだな

どうして止めたんだ、生きてる人間に目標が達成できないからAIが代わりにやったんじゃないか

じゃあ俺の両親や友人は何のために死んだんだ

哀れな死者に意味を与えるため俺はようやく行動を起こす




「自作の銃で演説中の首相に発砲した男、殺人未遂の現行犯で逮捕」

AIや彼が望んだ理想の世界の実現は程遠かったようだ

偶然にも生き存えている生者も今回の件で分かったはずだ

地球のためにも人間は不要だと

我々はいなくてもいい、なんならいない方がいいと

しかし今もなお人間は生き存える

「地球のために〜」と言うのであれば

AIの方がよっぽど合理的な考えをしている


人間は地球に何ができているんだ?




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