ストーカー少女は無気力先輩を逃がさない

九夜 空猫

第1話 告白されました

 突然だが、俺の話を聞いて欲しい。

 高校二年生で成績は中の上、運動は帰宅部にしてはそこそこできる方。友人は少ないがいる。特筆するような趣味は特になし。どこにでもいそうなそんな至って平凡でつまらない人間が俺である。


「先輩のことがずっと前から好きでした。私と付き合ってください! 」


そんな俺は今、人生で初めて女子からの告白を受けていた。


 今日の放課後、帰宅しようとして靴箱を開けてみると薄紅色の封筒が入っており、その中に一通の手紙が入っていた。そこには丸い字体で

『今日の放課後、校舎裏に来てください。待ってます。』

とだけ書かれていた。俺にこんな手紙を送ってくる相手に心当たりなど無かったし、誰かに送ろうとして間違って俺の靴箱に入れてしまったのかと思った。書いた人物の名前も送った相手の名前も書いていなかったため、誰かの靴箱に入れ直すこともできず、俺は校舎裏に向かうことしかできなかった。


 校舎裏には女子が一人いて、その女子は誰かを待っているようだった。彼女が手紙を書いたのだろうか。彼女はこちらに気づくと、近づいてきて……、そしていきなり俺は告白をされた。


「俺は誰かと付き合いたいと思っていない。だから、その、悪いが諦めてくれ」


 反射的に俺はそう答えていた。自分でも驚くほどすらすらと口から言葉が出た。告白を受けることなど初めてだというのに、思いの外、俺は冷静だった。


 俺には恋愛なんて分からない。恋をしたこともないし、興味も持てなかった。

恋をしたら世界が違って見えるなんて創作ではよく言われているけれど、本当にそうなんだろうか。だったら、変えて欲しかった。でも、それは無理なんだ。きっと世界は何をしても変わらない。ちっぽけな自分の感情一つで世界は変わらない。変わることなど無いのだ。

だからこそ、俺は恋愛なんてものを切り捨てる。無駄でしかないソレは俺にはいらないのだ。

この子にとってもそんな俺に告白するなんて時間の無駄でしかないだろう。

そもそも、俺なんかのことが本気で好きで告白する奴がいるとも思えなかったので、これも罰ゲームかなにかの一環なのかもしれないが。


 さて、そう言った考えの元、心は痛むが俺としては初対面でしかないこの後輩女子にお断りの返事を返したのだったが⋯…。


「先輩のことがずっと前から好きでした。私と付き合ってください!」


⋯…あれ? 俺は今、彼女の告白を断ったよな。なら、なんでまた同じ告白を受けているんだ。

聞こえていなかったのかもしれないな。今度はさっきよりもはっきりと伝えよう。


「悪いが、君とは付き合うことはできない」


これで伝わっただろう。


「私と付き合ってください!」


「いや、おかしいだろ! さっきから俺、断ってるよな!? なのに、なんで告白し続けてくるんだ! 」


「むしろ、先輩に聞きたいです。なんで私が諦めないといけないんですか? 」

と心底不思議そうに聞いてくる後輩女子。


えぇ、何この子怖いんだが⋯…。思考回路が同じ人間のそれとはまるで思えない。


「俺は君の告白を受けて、それを断ったんだ。だったら、諦めるしかないだろう? 」


「え、先輩が断った程度のことで私が諦めると思ってるんですか? 先輩、頭はそこそこいいと思ってましたけど、実はそんなに良くなかったんですか? 」


「あのなあ⋯…」


我慢だ、我慢。多少癪に触るが、こういう話の通じない奴は何を言っても無駄だ。俺が言うべきことは言ったんだし、もう無視して帰ることにしよう。


「はぁ⋯、俺はちゃんと断ったからな。それじゃ、俺帰るから」

そして、俺は逃げるようにしてその場を去った。




「訳の分からん奴と話して喉が乾いた」

帰り道、自販機でお茶を購入し、近くのベンチに座ることにした。

「ふう⋯」

「あ、先輩隣座りますね」

「あー、うん。ん? 」

いつの間にかさっきのヤバい後輩が隣に座っていた。俺の背筋が一瞬で凍りついた。

「な、なんでここに⋯…!? さっき、俺が君を振ってから、ここまで早足で真っ直ぐに来てるんだが」

「あ、先輩の後方約5mをずっと学校から着いてきただけですよ、お構いなく。先輩はどうぞ、そのままお寛ぎください」

「君がいると全くと言っていいほど、寛げないし、第一、こういう時って振られた君の方がもう俺の顔なんか見たくないんじゃないのか!? 」

「え、先輩何言ってるんですか。そんな振られたぐらいで大好きな先輩の顔が見たく無くなるわけないじゃないですか」

「それに、先輩が断ったとしても私が先輩の彼女であることは間違いようのない確かな事実なのですよ。恋人はずっと一緒にいるべきで、先輩と私は恋人です。つまりは、私がここにいることになんの問題もない訳です。ご理解いただけましたか? 」


 何も宜しくないし、何もかもが間違っている。だが、それを指摘したところでこの後輩は自分に都合の良いようにそれさえも捉えてしまうのだろう。俺は一体どうすればいいのだろうか。このストーカー地味た後輩から一刻も早く逃げたい。


「なんで俺なんかとそこまで付き合いたがるんだ、こう言ってはなんだが、平凡でつまらない俺と付き合っても君に利益はないだろうし、俺自身が恋愛に興味なんてない。そもそも君とは初対面だろう。罰ゲームかなにかだったら他を当たってくれ」

面倒になり、捲し立てるようにして俺は彼女にそう言った。


 すると、彼女は不機嫌そうな表情になり、頬を軽く膨らませながらこちらを睨み付けてくる。


「あのですね、先輩、色々と言いたいことはありますが、これだけは言わせてください。私の先輩への愛を疑うのはいくら先輩でも許しません。乙女の純情な恋心を罰ゲーム呼ばわりとは何ですか。最低ですよ、先輩」


確かに少し言いすぎたかもしれない……。恋なんてものはどうでもいいと思っている俺だが、よく知りもしない相手の大事なものを否定するというのは人として間違っているだろう。


「……悪かったよ、正直まだ信じられないが、気分を害するようなことを言ったのは謝る」


「むぅ……、私がこんなに先輩のことを好きなのに想いが伝わらないというのは寂しいですね」


後輩はまだ不満そうだが、一応矛を納めてくれたみたいで、睨むのはやめてくれた。


「信じられないのも当然だろう? さっきも言ったが君とは初対面なわけだし、そんな相手が自分のことを好きだと言われてもどうにも信じられない。まだ罰ゲームか何かで無理やり言わされてと考えた方が……、あー、悪いこれはもう言わないから、そんな風に睨むのはやめてくれ」


罰ゲームと言ったあたりでまたこちらを睨み付け始めたので、俺は途中で言葉を止めた。


「はぁ……、先輩はそんなんだからいつまで経っても先輩なんですよ、先輩」


「俺を蔑称のように扱うのはやめろ」


本当に俺のことが好きなのかこいつ。


「それにですね、先輩と私はこれが初対面じゃないですよ」


「ん? どこかで会ったことがあったか、悪いが本当に君に見覚えがないんだ」


「仕方ない先輩ですね、いいですよ、教えてあげますよ。先輩と私が出会ったあの時のことを……」

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