第6話 偵察作戦
激しい銃撃戦、車や銃器やロボットを盾にして撃ち合う。銃弾が飛び交い弾丸が空を切る音が間近で聞こえる。焦げたような、化学物質独特の匂いが鼻を刺激する。
敵の影はよく見えないが人の影が見えるように思う。これは一体どういう事だろう。疑念を頭に浮かべては耳元に銃弾が飛んできてかき消される。Brynkで銃弾の予測動向が数秒だが見える、集中を緩めることが出来ない。もし頭に当たればどのくらいの衝撃を受けるか分からない。演習惑星での被弾を思い出すし、しかもここは自然惑星だ。待機中に漂う緩衝装置がない分衝撃も大きいはずだ。
サンタに指令を出す。
「前進しろ、前進だ!」檄を飛ばす。
サンタは躊躇する顔を見せるが頷き、兵に伝令を飛ばす。「前進だ! 前進だ! 前進だ」横へと口々に伝達される。くそ! 誰が最初に飛び出すかみんなそれを待っている。小隊長は一番後ろでシールドに囲まれて胡坐をかいている。俺が行くしかない。
――――
偵察部隊として偵察統合二個師団がその惑星へと着陸した。2か所同時での偵察業務であった。その自然保護地域は草原や森で緑が多く、とても静かだった。気味の悪いくらいに。
POPIDに盾突く反乱軍が、自然保護を良い事にこの東宇宙群星連合にまで進行しているとのことであった。あくまでも偵察なので相手が戦火を切っても、反撃は慎重にという命令であった。信じられないほどの不利な状況なのだ。
この規格外な超巨大偵察師団軍を編成した意味も考えてしまう。数にして20個師団はあるだろう。人数で500万人という大編隊であった。それがすべて偵察部隊という事は異例であり、この名称こそは戦争へと発展させないための言い訳のように感じる。
偵察第一師団が地上に降り立ち120もの宇宙船が縦横200kmほどに広がり着陸した。この妙な距離感覚での広がりには嫌な予感がする。
隠された拠点をしっかりと見つけられていないという事だからだ。そのための偵察部隊ということなのだろうが、POPIDがここまで捜索範囲を狭めることが出来ないとは考えられなかった。
それぞれ戦闘車両や自走重火器に乗り、森や草原を破壊し大きな破砕音を立てながら進む。動物が逃げ惑い、鳥は慌てて飛び立つそんな光景が続いた。
偵察統合第一師団第1030大隊の第ニ中隊は突然の襲撃に襲われた。俺は司令室に連絡を入れる。
「こちら第2中隊、未確認勢力による襲撃を受けています!座標X-1134, Y-678、敵は複数名、重火器装備あり! 応援と指示を求む!」
ビンゴ! 上から見ていた指揮官はそう感じただろう。上層部は大隊四個を急行させた。一番近くてもそれが来るまでの30分、囲まれた第二中隊は銃弾の真っただ中にいた。
地中から銃火器や盾となるロボットと共に出てきた大隊に囲まれたのである。その中に俺もいた。
「くそ! ついてない」
まるで朝に見た血まみれの悪夢がそこへ誘っているかのようだった。1030大隊は完全に分断、負傷者も多数出ているとのこと、断続的に爆撃の音が聞こえる。特にその中心の我々第ニ中隊は被害が大きい。
手首と横っ腹の2か所被弾、あり得ない……。そんなことがあり得てたまるか! 痛みが強烈であった。もうBrynkの予測に体がついて行かない。もう一撃銃弾を肩にくらう。さらにその瞬間爆音が耳をつんざく。数メートル横で爆弾がさく裂したのである。隣にいたものはバラバラになった。身体の肉片が飛び散る。何だこの爆弾は、部下の血肉にまみれながら唖然となる。
防護服を一撃で破壊する尋常ならざる破壊力。俺が受けた銃弾もそうだ、見た事も聞いたこともない殺傷能力。明らかな宇宙法違反である。
さらに、照明弾、音響弾、催涙弾、これらが断続的に打ち込まれる。Brynkが壊れた時命を落とすであろう。実際周りにBrynkを壊された数人が意識不明となっている、とても助かるようには見えない。俺は死に物狂いで破壊されたロボットを盾にする。応戦は続く。あと30分も耐えられるはずがない。
被弾した痛みがひどい。脳に悪影響がある無痛薬や麻薬は平和な時が長すぎたのか未だに解禁になっていない。
どくっどくと血の流れとともに激痛が響く。頭の頂点まで麻痺するような感覚。止血はすぐにしたので命を失うことはない。だがその命の安心感がさらに痛みを増しているようである。
援護が少なすぎる、それに弱い。迫撃砲などこちらの正規の砲では相手に傷すらつけられないであろう。いくつか飛んでは来ているみたいだが、束の間ですら銃撃を止めさせることができていない。
「サンタ! 無事か? どこにいる!」
だが反応がない。いつのまにか伝達系統にも支障が出ているみたいだ。妨害電波か……かなり強力だ。
敵がじわじわと近づいている。その時小さな人影が一瞬目をよぎる。銃撃してくるフル装備の兵隊や機械、禍々しいロボットの間から颯爽と駆け抜けてくる軽装備の少女がいた。目を疑う。軽装備どころか肌の露出も多い。しかし、迫ってくる速度から確実にこちらを捉えて向かってきていると分かった。
焦る気持ちを抑えて銃を向ける、Brynkのバッテリー弾はとうに底をついていた。照準を合わせるのが難しいがとにかく連射する。いくつか当たっているはずだった、だがまるで豆鉄砲にでも当たったかのように速度を落とすどころか更に加速してこちらに向かってくる。人の速さではない。呪いのような甲高い歌声が聞こえた。彼女から歌が聞こえてくるのである。それはまるで次元のゆがんだ世界からの悲鳴のようにも聞こえた。
まだ幼さが残る女だった。それは1人ではなく3人いた。少女たちは大型のナイフのようなものを持つ者、そして素手で直接格闘しているように見えるのもいる。確かに直接武器は緩衝装置が働きづらくBrynkや防護服に直接ダメージを与えられる、安全装置の区間なら更に有効であろう。武器によっては安全装置内ですら死傷が可能だ。
彼女が目の前にまで向ってくる。そこに先ほどまで連絡が取れなかったサンタが現れた。そしてその少女に大きな体を向けていた、サンタの格闘術は師範でさえ一目を置く。以前はプロレスラーだったが奔放な性格が災いして方針違反を犯したらしい。結局は犯罪を繰り返し、喧嘩では負けたことはなかった。
そんな彼に、人間離れした速度で襲ってくる少女、サンタは連射していた銃を投げ捨て構えに入った。激しい格闘が始まるのかと思いきや少女はサンタの隣を音も無く通り過ぎた。そして、サンタは倒れこむ、首が転がった。次々と殺戮を繰り返すその少女を見て呆然と立ちつくしていた。頭が全く働かない。どうこの場を凌ぐか、彼女達を倒すか、または逃げるか……考える必要があった。だが、頭は真っ白となり何一つとして妙案は浮かばない。ただ少女のその強さと凶暴さ、そしてその一瞬の必殺に美しいとまで感じてしまった。
そう考えた直後お腹に大きな衝撃が走る。別の少女がもう自分の目前まで来ていたのだ。彼女の拳が腹を貫いていた。もう助からない……すぐに分かる。腹を見て確認する必要もない。それよりもその少女がどんな顔かしっかりとみたい、そして目が合った。それは……あの時の少女であった。自然保護惑星の屋敷の地下でレイプし暴力を振るった。彼女はさらに精神疾患を起こし非人道的手法での治療をしていると聞いた。だが、彼女は目がぶつかるくらいの距離にいた。憎しみなどはない無表情に近いその美しい顔は、一目で惚れ直してしまった。
次の一撃のパンチで俺の首から上が発破した。
脳が吹き飛んだからその瞬間は分からなかった。自分が死んだとわかる瞬間すら与えてくれなかった。突如の無、人生の終わり。死……。
首の無い無残な死体の上に何度か人が走り去る。動かない死体がその戦場を何も語らずに見守っていた。その激戦は3日間も続き、結局は偵察終了という理由で戦闘が終わった。
目標を達したのかは分からなかった、いや被害から見て明らかに戦果はほぼなかったのだろう。正体不明の敵の異常な武器使用と機械化された少女3名、そしてそれらに受けた壊滅的な被害を知ることが、偵察部隊の一番の功績だったのかもしれない。
数か月後、その偵察行動は最大の失態として報じられたが、報道内容は規制され、編集されたものだった。すべての事実を明らかにすることはできなかった。
初の死傷者を出すこととなったこの軍隊の作戦偵察行動はいくつもの、疑惑と不信が交じり合っていた。
一番恐ろしいことはこのような大失態を冒したにもかかわらず東宇宙群星連合の中央評議会のトップたちの更迭が一切なかったことである。軍の最高司令はもとより、その作戦を指揮した偵察統合師団長のルイ少将でさえも一切の処分が無かったのである。
その理由と考えられるのは、1つは戦死者のほとんどが元方針違反者の懲役部隊員であったこと、もう1つにこれは偵察行動での事故であり戦争状態ではないと判断されたことであった。
戦死傷者が数万とでた、この偵察行動での事故はこれからの宇宙を大混乱へと招く前哨戦だったことはまだ誰も知らない。
被害は1030大隊第一中隊死傷率75%第ニ中隊死亡率”100%”第三中隊死傷率55%第四中隊23%第五中隊18% 第1031大隊死傷率8% 第1032大隊死傷率6%、他死傷者数千名ロボットや機械など被害甚大。
相手の被害はいくつかの戦闘機械化中隊撃破、敵拠点2か所破壊、謎の機械化少女1名負傷という軽微の被害で終わったのは間違いなく、この不思議な戦闘兵器少女のおかげであっただろう。
これからはこの少女たちを中心として世界中で戦争が巻き起こることとなる。
紀元2998年 スノスプ @createrT
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