盗賊討伐

「正面から行くぞ。二人で突撃。見張りを速攻で制圧して中へ行って暴れろ。洞窟の中は狭いかもしれないから距離に注意。フリーラ、迷ったらピルカを呼べ。初見の土地勘が強い」

「は、はい」

「任せて!」


 アルドの指示に、フリーラは緊張気味に、ピルカはハキハキと返事をする。

 それを見ながらセイランは気怠げに問う。


「妾は?」

「最初は俺と洞窟の外で待機。その後、二人が入り口を制圧したら中へ入って退路の確保だ。二人が怪我をしたら駆けつける」

「ん、了解じゃ」


 方針に異論はないのか、セイランは拒まずに頷いた。

 全員の了解が取れたのなら、作戦は決定だ。


「よし、行け」

「はーい!」

「い、行きます!」


 アルドの言葉に背中を押され、二人は茂みから飛び出す。

 それが開戦の合図だった。


「……!? な、なんだお前……グブッ!?」

「まずは一つ!」


 二人の接近に気付いた見張りが声を上げるよりも早く、肉迫したピルカの拳が黙らせる。顔面を殴られて一発でノックダウンした見張りを尻目に、二人は洞窟の中へと突入した。

 中の通路は盗賊たちが掘り進んで拡張したのか、思ったよりは広い。進むと広場のような場所に出て、そこでたむろしている三人の盗賊たちと目が合った。


「は、はあ!?」

「お、おい! なんか来たぞ!?」

「女ァ!?」


 唐突なことに混乱するも、二人が剣を佩いているのを見て自らも得物を取る。だがそれを構えるよりも速く、ピルカが抜刀した。


「シィッ!」


 振り抜かれた剣が、武器へと伸ばした腕を断ち切る。


「う、ぐああっ!?」

「よいしょっ!」


 そしてそのままの勢いで回転し、一周回った剣で盗賊の首を刈った。

 ぽぉんと飛んで、頭は胴から離れた。

 血飛沫が上がる。


「や……野郎!」

「シッ!」


 激昂した一人にピルカは突きを放つ。盗賊は錆びた剣でそれを弾こうとするが、ピルカはそれを見据えていた。

 加速した剣先が、より速く盗賊の額を貫いた。


「が……」

「て、テメェ……!」

「っ!」


 最後の一人がピルカを背後から襲おうとする。それを見たフリーラは、剣の柄を握る。

 一瞬、一瞬だけ抜くべきか逡巡する。これを抜いたら、盗賊を殺さなければならない。

 だが迷いはその通り、一瞬だけだった。


「――はぁっ!」

「がっ……!」


 抜き打ちの一閃が、盗賊の胴を薙ぐ。

 はらわたを切り裂かれ、盗賊の男は力を失ったように倒れた。


「ぐっ、ごぼっ」

「……っ!」


 血の泡を吹き、男は痙攣する。

 斬られた傷から内臓を零す男はもう助からない。

 フリーラは、男の喉元へ剣を振り下ろした。


「………」


 男は、静かになった。

 その表情を見て、フリーラは溜息をつく。


「……はぁ」

「フリーラ、大丈夫?」

「いえ……自分で決めたことですから」


 掌を見つめる。初めて人の命を奪った感触が残っている。しばらくは消えない予感を噛み締めつつ、フリーラは顔を上げピルカを見た。


「残りも討伐しましょう。気付かれて集まられるよりも早く」

「うん。じゃあ……」


 ピルカは広場を眺めた。やってきた道とは別に、二つの穴が繋がっている。

 片方を指差してピルカは言う。


「二手に別れよう。私はこっち。フリーラ、【分身】は……」

「使います。出し惜しみするほど、うぬぼれてはいません」


 祈るように魔力を操り、フリーラは【分身】のスキルでもう一体の自分を作り出す。

 現われた分身と共に、フリーラは穴の一つを指差す。


「では、私はこちらへ」

「うん。頑張ってね!」


 二人はお互いの健闘を祈り、飛び込んだ。


 少し遅れて、アルドとセイランが広場に到着する。


「……まずは、やれたようだな」


 広場に残る三つの死体を見て、アルドは頷く。

 少なくとも迷って反撃を喰らうなどということはなさそうだ。


「さて、予定通りここで待機だな」

「うむ。ここさえ守っておけば、退路は塞がれないからのう」


 入り口からここまでは一本道だ。回り込まれて出口が塞がれる心配はない。ここで待機し、二人の戦果を待つ。

 二つの通路からは、盗賊の悲鳴だけが響き渡ってくる。


「上手くやっているようだ。懸念は……」

「あの大きな足跡、じゃのう」


 アルドは頷く。馬車を牽いたであろう、巨人の魔物。その正体は具体的には掴めていない。

 アルドの想像を超えるような化け物である可能性は、決して否定できない。


「だが、ピルカが行ったか」


 地面を確認すると、轍はピルカの行った方に続いていた。フリーラの二つ並んだ足跡は別方向に行っている。となれば、まだ安心だ。

 保険もある。


「セイラン、【治癒魔法】の準備は頼む」

「うむ。いつでも使えるようにはしておくぞ」


 セイランの【治癒魔法】もスキルの例に漏れず、フリーラの【分身】のように魔力を消費する。魔力を練って心構えをしておけば、即座に発揮可能だ。


 しばらく、剣戟と悲鳴だけが響く。洞窟に反響する殺伐とした調べは常人では気が滅入りそうになるが、アルドたちは平然としている。荒事は慣れっこだ。

 そうしている内に、悲鳴は段々と少なくなってくる。


「そろそろか」


 アルドが呟くと、洞窟がズシンと揺れた。

 同時に、穴の片方から少女が弾き出されてくる。


「くっ! なんて馬鹿力!」

「ピルカ」


 穴から飛び出してきたのはピルカだった。剣を持った手を痺れさせ、穴の中を油断なく睨んでいる。

 ノシノシと、重たそうな足音を響かせ闇の中から姿を表わしたのは、洞窟の天井に頭が付きそうな巨体だった。


「グオオオォォーッ!」

「……大鬼トロルか。想定の中では一番下か」


 黒い肌をした巨大な鬼、大鬼トロル。並外れた怪力を持つが巨人系の中ではまだ身長が低く、知能はないに等しい。D級の魔物だ。

 最悪を考えていた中では一番マシな相手だった。


「ピルカ、いけるな」

「うん。不意打ちで一発受けちゃったけど、守ったし」


 最初に弾き出されてきたのはそれだったのだろう。だが受けきった。手は痺れたようだが身体はノーダメージだ。

 大鬼トロルの皮膚は硬い。だが、ピルカなら左程時をかけずに斬り殺せるだろう。


「他の盗賊は?」

「あっちはあんまいなかった。コイツで最後だよ」

「よし……」


 厄介そうな相手はこれで終わり。

 後はフリーラが残りの盗賊を討伐するのを待てば……。


「――きゃあっ!」

「! フリーラ!?」


 だが、もう一つの穴からも少女は弾き出されてきた。

 想定外に、アルドは慌てて駆け寄る。


「フリーラ、大丈夫か!?」

「お、お師匠、すみません……」


 フリーラは負傷していた。とはいえ腕を浅く切っただけの掠り傷だが。

 しかし、明らかに剣の傷だ。

 そして……分身の姿はなかった。


「ほう、今斬ったのは分身か。中々通なスキルを使う……」

「……貴様」


 穴の中からコツコツと足音が響く。

 現われたのは、剣を片手にした長髪の男。

 纏う空気は冷たく鋭い。

 明らかに、盗賊ではない。


「……剣士か」

「如何にも」


 男は剣をヒュンと振るった。


「用心棒だ」

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信じて送り出した愛娘が追放されて帰ってきた ~一緒に冒険をやり直している内に、勇者は勝手にざまぁされていくようです~ 春風れっさー @lesserstella

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